FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIer(FIRE)を実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

金融資産税はなぜ難しいのか 戦後の財産税・富裕税から考える

岸田政権になってから増税の話ばっかりなわけですが、株式所得への増税論が引っ込んだと思ったら、今度は「金融資産課税」が話題です。これはマイナンバーカードの議論と連動していて、根っこには、年収ではなく資産額で金持ちかどうかを判別しようという話があります。

発端の書籍『ベーシックインカムから考える幸福のための安全保障』

この話題の発端となったのは、書籍『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』のようです。ぼくはこの本、未読なのですが、幻冬舎オンラインが一部を抜粋して掲載しています。

gentosha-go.com

論旨はシンプルで、下記のような話です。

  • 個人金融資産は1893兆円
  • 土地の固定資産税と同じ税率の1.4%に設定すると、税収20兆
  • 金融資産の6割は60歳以上の高齢者が保有しているので、若い世代への所得移転にも
  • 3000万円以上の金融資産にだけ1%課税しても、8〜9兆円の税収
  • 金融資産5億円以上の超富裕層には2%課税にすると、+3兆円

この著者、西野卓郎氏は1985年に都庁に入庁し、現在は特別区長会調査研究機構の主任研究員を務めています。特別区とは東京23区のことで、この研究機構はその行政課題を研究する機関となっています。

前提となるのはマイナンバー制度

これはお金を取られるほうからするとたまったものじゃないですし、「貯蓄から投資へ」とかいいながら、貯蓄からも投資からも税金を取るようにすれば消費に回るんじゃね? という、けっこうアクロバティックな話でもあるのですが、実質的にはお金の価値が減少するインフレと同じような効果があるでしょうから、本気で進めようとする総理大臣とかが出てきかねない恐怖もあります。

 

もっとも、そもそもロンでいえば、不動産とか工場とかは、資産税というものがかかっていて、それを使って出した利益に対する課税とは別に、財産価値に応じて税金がかかっています。ところが金融資産だけは、持っているだけでは税金がかからず、さらに含み益も確定させなければ課税されないという利点があります。

 

そもそも、ピケティが 「r>g」と主張するように、給与の伸びよりも資産からのリターのほうが大きい以上、資産を持っている人はますます富み、格差が大きくなるのは世の理です。格差の拡大が、社会的に悪い影響を及ぼすことは議論の必要もないわけで、これを解消するために、何から課税が必要だという議論が、世界的にも起こっています。

昔、実際にあった財産税「富裕税」

実は、戦後1946年に「財産税」が、1949年には「富裕税」という名前の金融資産税が導入されています。

 

財産税はGHQが戦時利得の没収を目的とする税法で、かなり強制的なもの。下記のように、ほぼ財産没収的な意味あいの税率でした。

一方で富裕税は、累進課税は抜け穴が多く実質的に機能していないとし、累進的な負担を機能させるために、資産に対して0.5%〜3%の税を課すものでした。現在議論される金融資産税に近い狙いのように見えます。

戦後日本の富裕税(PDF)

 

ただし、実際にやってみたところ、大した額の税が取れなかったことと、資産額を包括的に把握することが困難なため、1953年には廃止されています。当時の税率は下記のようになっていました。そして500万円が控除さます。

  • 500万円以下、免税
  • 〜1000万円 0.5%
  • 〜2000万円 1%
  • 〜5000万円 2%
  • 5000万円超 3%

1950年の消費者物価指数(2020年を100とする)が、11.9であることを考慮すると、現在の価値に直すと、下記のようになります。

  • 4200万円以下、免税
  • 〜8400万円 0.5%
  • 〜1億6800万円 1%
  • 〜4億2000万円 2%
  • 4億2000万円超 3%

資産額を時価で計算し、同居の家族の資産は合算という仕組みでした。ちなみに、このとき資産の多くを占めたのは宅地、家屋、株式です。

このようにして実施された富裕税ですが、わずか3年で廃止されます。その理由は次のようなものだったそうです。大蔵大臣だった池田勇は次のように著書に書いたそうです。

まず、資産課税である相続税、富裕税については、根本的なやり直しが必要だと思う。富裕税は、理論的には長所もあるが、実際問題としては、所得課税が立法的にも、行政的にも、極めて未完成である時期に、この種の税を実施することは、徒に手数を要するだけで、その真の機能を発揮するわけにはいかないと思っている。

金持ちには富裕税を課すという勧告をしたが、この税は、当時私が警告したとおり「鬼面人を驚かす」効果を挙げた程度で、今日にいたっても徴税費と徴収する税金が、どっちこっちで、資本蓄積上の弊害はいうにおよばず、結局学者の良心を満足せしめただけであった

また、主税局長だった平田啓一郎は、次のように回想しています。

変えた点はいくつかありますが、一つは、富裕税を3年ほどやってみたのだけれど、結局、利子預金その他の総合課税が無理になったことと関連して、なかなか全財産を適正に把握することはできないし、収入も大したことはないというので、富裕税をやめて、所得税の最高税率を上げてもとに戻した。それから所得税の総合課税を、むしろ資本の蓄積なり経済の復興が大事だということで緩和して、理想的な所得税制度から言ったら骨抜きにしちゃったわけです。

平田の次の主税局長の渡辺喜久造は、富裕税廃止の理由を3点あげていました。

  • 土地、家屋、山林など外部から容易に見えるものは課税も容易だが、預貯金や無記名債権などは捉えにくく、一般的に評価も困難であって、課税上公平が難しい
  • 富裕税は空き地、空き家など現在の無収益財産にも課税されて、その収益的活用が期待されたが、実際にはその活用は困難
  • 財産を調査・評価することが難しく、徴税費がかさむ割に税収が余り上がらない

このように、いくつかの課題があって、富裕税はわずか3年で廃止となったのでした。

マイナンバーである程度可能に

ただ、現在では技術の進化で、解決できる点も出てきています。マイナンバー制度です。

 

そもそも、マイナンバー以前の名寄せというのはけっこう難しいもので、基本的には住所と名前と生年月日で、この口座の保有者が誰かを特定するようなイメージです。住所が変更されていない口座があったら、それを別住所の口座と同じ持ち主のものだとチェックするのはけっこうたいへん。でもマイナンバーが登録されていれば、同じ持ち主だとすぐに分かるわけです。

 

もともと、マイナンバー制度は公平な課税を目的として導入されてきた経緯があり、財産課税につながっていくのは非常に素直な話です。戦後のように、資本蓄積が重要な時代でもなく、また多額の社会保障費がかかっているお年寄りは、収入額でいえば貧困家計だが、資産額でいうと富裕層というところもたくさんあります。

 

資産額をベースに給付金や社会保険料を調整することで、適切な税の使い方ができるのではないか? という点は、当事者以外は納得するのではないでしょうか。

それでも簡単ではない理由

しかしマイナンバーがあれば解決かといえば、そんなことはありません。

 

例えば国際的に足並みを揃えられなければ、実効性はありません例えば、国内で金融資産課税が実行されたら、富裕層が考えるのは資産の海外移転です。例えば、海外の銀行に預金したらマイナンバーでも補足は難しいでしょう。ここが、不動産や実物資産への課税と違って難しいところです。

 

さらに上場企業ならともかく、非上場企業の株式も金融資産として扱うのかどうか? というのは根源的な課題です。事業を法人化しているオーナー社長は、保有している株式の時価に課税されるのでしょうか? そのときどうやって時価を算定するのでしょう。

 

そもそも金融資産課税は個人だけが対象なのでしょうか。法人が持つ金融資産には課税されないのでしょうか。もし法人は非課税だというなら、法人の株式を持ち合えば、その分は非課税になってしまうような気もします。

 

株式のような時価変動が大きい資産について、いったいいつを基準に課税するのでしょう。年末の時価でしょうか? 含み益にも課税するのでしょうか。それともあくまで簿価に対して課税するのでしょうか。

 

もちろん、手がないわけではありません。富裕税の前の、資産没収を目的とした財産税のときは、次のような手段がとられたそうです。

  • 新旧銀行券の強制切り替え
  • 預金封鎖
  • 預貯金・公社債・株式・手形・小切手等をすべて税務署に申告させ、申告のないものは権利行使や譲渡ができない

ここまでやれば、さすがに効果が出そうですが、相当な海外などへの資本逃避があったそうです。そのため、富裕税ではもう少し緩やかな方式となり、正確な把握ができなくなったという経緯があります。

 

強制力をもって対応すれば補足はできないことはないでしょうが、社会に大きな混乱が生じることは間違いありません。ただし社会保障費の支出が大きな負担となるなか、税の公平性のためになんとか実現させたいという財務省の考えもわかります。

 

というわけで、マイナンバー制度が財産税への布石なのは間違いないところでしょう。ただし、どこまでドラスティックにやるか。また、当時に比べてもはるかに海外への資本逃避は容易です。キャピタルフライトをどうやって回避するのか。金融資産課税の課題はたいへん多く、そう簡単には実現できないのではないかと考えています。

 

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