昨日、衝撃的な投信が登場しました。「Tracers MSCI オール・カントリー・インデックス(全世界株式)」です。日興アセットマネジメントが4月26日から提供するもので、なんと信託報酬は0.05775%。これは、従来最低コストだったeMAXIS Slimオールカントリーの約半分です。
全世界株式の最安コスト
インデックス投資には、大きく2つの流派があって、1つは米国インデックスに投資するもの、2つ目は全世界株式に投資するものです。米国インデックスの場合、S&P500に連動するものが最もメジャですが、バンガードのVTIのようにCRSP米国総合指数に連動するものも人気です。
もう一方の全世界の場合、MSCI ACWI(アクイ)とFTSEグローバルオールキャップインデックスの2つがメジャーです。これまで全世界株式のメジャな投資先は、バンガードのVTとeMAXIS Slim全世界株式、通称オルカンの2種類でした。
ところが、VTよりもオルカンよりも低い信託報酬をひっさげて、Tracersオールカントリーが登場するわけです。
隠れコストは?
とはいえ、手放しで喜ぶにはまだ早いかもしれません。投資信託には隠れコストがあるからです。少し前のデータですが、オルカンの隠れコストの実績はこうなっていました。
隠れコストにも気をつけよう!投資信託の実質コスト|カブヨム|株のことならネット証券会社【auカブコム】
信託報酬はかなり下がったものの、その分その他費用が相対的に重くなってきて、実質コストの4割近くを「その他費用」が占めるようになっています。
投資信託協会は、総経費率(実質コスト)=信託報酬+その他費用 を、交付目論見書に記載するように細則を改正し2024年からは各社が実質コストを記載するようになる見込みです。実際、「三菱UFJ Jリートオープン」では先駆けて総経費率の記載を始めました。
ちなみにVTなどのETFでは、最初から信託報酬ではなく総経費率が記載されています。
Tracersオールカントリーの隠れコスト
というわけで、信託報酬が0.05775%といっても、その他コストが重要です。2021年のオルカン並みの隠れコストが乗るだけでも、コストは倍増してしまうからです。
主なその他費用としては、売買委託手数料、有価証券取引税、保管費用、監査費用などがありますが、Tracersオールカントリーで話題になっているのは、「使用する指数の標章使用料」がその他コスト扱いになっている点です。
カン・チェンド氏の記事にもありますが、MSCI ACWIなどの指数を使うにはけっこうなコストがかかるのですが詳細は開示されません。そしてこれは信託報酬またはその他費用に組み込まれているわけですが、それさえも明示がないのです。
インデックス投資をめぐる商標使用料(ライセンスフィー)のミステリーについて | 投資信託クリニック
というわけで、Tracersオールカントリーは信託報酬だけ見るとオルカンの半分、VTを下回る低コストです。一方で、隠れコストは下手をすると信託報酬を上回る可能性があります。そして、指数ライセンスコスト次第では、けっこう大きくなるかも? という恐れも。
隠れコストは運用報告書が出てくるまでわからないので、慌てて飛びつかず、一旦の実績が出てくるまで様子見というのがよい選択でしょう。それにしても、これだけ信託報酬が下がると隠れコストの存在感がましてきます。早くすべてしっかりと開示してほしいものです。