FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

不動産デジタル証券投資とは何か? 三井物産デジタル「ALTERNA」スタート

三井物産デジタルの個人向け投資サービス「ALTERNA」が一般向けに公開されました。これ、ジャンル的には不動産デジタル証券(セキュリティトークン)。投資となるのですが、それがどういう意味かはなかなかにややこしい。そこで、不特法のクラウドファンディングとかも含めて、全体像をまとめることに挑戦してみます。

不動産投資の手法

いろいろな解説の視点があるのですが、ここではまず投資家の視点で考えてみましょう。投資家が不動産投資をしたいと思ったとします。でもいろいろと問題がありますね。

  • 安くても数千万円。都心なら1億円
  • 管理会社があるとはいえ、放置にはできない手間がかかる
  • 事業であり、確定申告必須
  • ローンを組むのが普通で、属性がよくないとできない

不動産投資は日本において資産運用の王道の1つなのですが、このようにいろいろな課題があり、人を選ぶ投資でした。

 

そこに現れたのがJ-REITです。これは、不動産を購入する法人を用意し、その法人が不動産を購入し、管理運営します。そして、その法人を上場させて、株(正確には投資証券)を売買できるようにします。投資家は、このJ-REITの株を持つことで、不動産へ持ち分として投資できるわけです。いわゆる小口化です。

では、不動産投資をしている上場企業の株(例えば森ビルとか三井不動産とか三菱地所とか)と、J-REITは何が違うのでしょうか。実は、J-REITは不動産への投資・運用以外の業務を行うことを禁止されています。その代わりに、利益の90%超を分配すれば、法人税がかかりません。

 

不動産投資をしている上場企業の場合、家賃収入が売り上げになり経費を残った利益には法人税がかかります。税金を払った残りから株主に配当を出しています。ところが、J-REITの場合、利益に法人税がかからず、ほぼすべてを株主に分配するのです。いわゆる二重課税を防ぐ方式で、ペイ・スルー方式といいます。

 

このJ-REITという仕組みにより、上記の現物不動産投資の課題がいずれも解決されました。数万円の小口から投資でき、投資家には何の手間もかからず、株と同じ特定口座で分離課税で処理できます。ローンは投資法人の与信で行うので、投資家の与信は関係ありません。

J-REITの課題

このようにうまい仕組みのJ-REITですが、まだ課題があります。それは、

  • 投資対象不動産が複数に
  • 価格変動性が高い

J-REITは仕組み上、永続する投資法人のため、1つの法人で複数の不動産に投資します。たまに売却もするでしょうが、多くの場合PO(公募増資)によって資金を調達し新規の不動産をどんどん組み入れるのです。投資家からすると、特定の不動産に投資するのではなく、不動産に投資している箱である企業に投資していることになってしまいます。

 

そして上場しており取引所で取引されるため、価格が大きく変動します。そして、投資対象が不動産でありながら、かなり株式相場の影響も受けるのです。下記はTOPIXとREITインデックス、不動産鑑定評価額の推移をグラフにしたものです。J-REITがかなりTOPIXに連動して動いていることがわかります。一報で、不動産鑑定価格はほとんど変化しません。

不動産クラウドファンディング(不特法)

現物不動産の課題を解決し、かつ1つの不動産単位で投資でき、価格変動も穏やかな投資手法はないのか? その答えの一つが不動産クラウドファンディングです。法的な根拠になっているのは、不動産特定共同事業法、略して不特法です。1995年4月に施行され、その後2017年改正、19年改正をヘて、不動産クラウドファンディングのための整備がされてきました。

 

スキームはいろいろあるのですが、要は不動産一つに対して1つの箱を用意して、その権利を証券化、小口化し、投資家に販売するというものです。

不動産特定共同事業法とは?最新の不特法改正のポイントとあわせて解説【LIFULL 不動産クラウドファンディング】

 

これにより、現物不動産の課題を解決しつつ、さらにJ-REITの課題も解決したのです。つまり、

  • 安くても数千万円。都心なら1億円 小口化され数万円から
  • 管理会社があるとはいえ、放置にはできない手間がかかる 運営会社が運営
  • 事業であり、確定申告必須 投資であり事業ではない。確定申告は必要
  • ローンを組むのが普通で、属性がよくないとできない
  • 投資対象不動産が複数に 1つの不動産に投資
  • 価格変動性が高い 市場で売買されず価格は基本変動なし

しかし、今度はJ-REITがクリアしていた別の課題が出てしまいました。

  • 現金化したくても流動性がない(売れない)
  • 税制が総合課税の雑所得である

そのため、不特法クラウドファンディングのほとんどは期間を短くとっています。現物不動産の投資期間が数十年、J-REITは物件を入替えつつ永遠に投資できるのに対し、数年くらいの投資期間が多く、それによって流動性のなさをカバーしている形です。

 

また他のクラウドファンディングもそうですが、税制が総合課税の雑所得です。現物不動産も総合課税ですが、不動産所得となり、給与所得と合算できるほか減価償却などのメリットも受けられます。それに比べると厳しい税制です。

不動産デジタル証券(セキュリティトークン)

やっと不動産デジタル証券までたどりつきました。不特法のクラウドファンディングに残った課題をクリアしようというのが、この不動産デジタル証券になります。

 

枠組みとしては、2020年5月施行の改正金商法で定められたセキュリティトークンの一種です。セキュリティトークンとは、セキュリティ=有価証券 をトークン化したもの、くらいの定義で、トークンとは一般にブロックチェーン上に記載されたものを差します。つまり、不動産を証券化し小口化して、それと対対応するブロックチェーン上のトークンが不動産デジタル証券というわけです。

 

ちなみにセキュリティトークンは不動産に限らず、株式をトークン化したり、社債をトークン化したりいろいろなものをトークン化できます。不動産の場合は、不動産を裏付けとする受益証券発行信託を用意し、それをトークン化することが多いです。一般に受益証券セキュリティトークンと呼びます。

さて、仕組みのところはかなり面倒なのでこのくらいにして、不動産デジタル証券の何がいいかというと、保有するのがブロックチェーン上のトークンなので、他人に譲渡できることです。6月にはセキュリティトークンの取引を行う大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)もオープンし、セキュリティトークンの上場市場が生まれる予定です。

 

また、金商法上、セキュリティトークンの売買は株式と同じ申告分離課税となっています。雑所得の不特法クラファンとは違い、けっこうイケてる税制だということです。株式などとの損益通算も可能です。

 

ここまでの説明を表にすると、下記のようになります。

もっとも、ALTERNAについては、ODXに上場すると価格変動が大きくなり、J-REITのようになってしまうので、上場には慎重のようです。代わりに、三井物産デジタル・アセットマネジメントが不動産鑑定価格で売買を仲介するようです。

 

ちなみに、同じように不動産受益証券STを取り扱うケネディクスは、ODXに上場はするものの、取引所的な売買ではなく、不動産鑑定価格でのマッチングを目指すようです。少し前の情報ですけど。

銀行預金的な投資として

というわけで、不動産デジタル証券ってなによ? という疑問に、投資家の立場から答えてみました。実際の案件を見ると、次のようになっていて、都内の一棟マンションをLTV=50%くらいで投資する内容です。予想分配金利回りは3.0%で、三井物産デジタル・アセットマネジメントの運用報酬は0.2%です。

不特法クラファンと同じく、物件の値上がりによるキャピタルゲインが狙えないわけではないものの、基本的には3%のインカムゲインがメイン。要するに社債のようなものです。それでも、抽象的な不動産のパッケージではなく、目に見える具体的な投資先不動産が提示されることで、投資家は安心感を得られるのでしょう。

 

J-REITの平均分配金利回りは4.02%となっていて、それに比べると1%ほど利回りは劣後します。代わりにJ-REITは元本の価格変動があり、キャピタル・ロスの可能性もあります(逆にキャピタルゲインの可能性もあります)。このボラティリティを嫌い、元本確保に近いイメージで保有したいというニーズに合うのが、不動産デジタル証券投資なのではないでしょうか。

 

株式に対する社債投資に近いともいえるのかもしれません。でも個人的には、投資は分散だと思っているので、複数の投資先をミックスしたもののほうが好き。なので、社債ならば社債ETFのほうがいいし、不特法クラファンや不動産STよりは、REITのほうが好みです。

 

なお現物不動産には、高レバレッジ、税務メリットという特徴があり、キャピタルロスのリスクはあるものの、インカムゲインも遥かに高い投資が可能です。ぼくの場合でいえば、表面利回り7%、LTV=80%で現物不動産を持っているわけで、このくらいなら個別リスクをとってもいいかなと思っての決断でした。

 

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