ABEMAのFIREテーマの番組(見てない)があったせいか、またFIREについてのもろもろがXなどで話題になっていました。久しぶりに、FIREについての疑問質問に対して、九条ならではの返答をしてみたいと思います。
- Q:いくらあったらFIREできますか?
- Q:FIREするにはどんな投資をしたらいいですか?
- Q:家もクルマも結婚もお金の無駄なので節約しています
- Q:FIREしているのに働いているのはおかしくないですか?
- Q:FIREしても暇すぎて毎日が退屈そうです
Q:いくらあったらFIREできますか?
「いくらあったら」と聞く時点で、FIREに対して真剣に考えていないのではないでしょうか。本当に「自分がFIREするならいくら必要か?」と考えたら、どうするでしょうか。
必要な年間生活費を老後まで足し合わせて、それが資産額(運用後の)より小さければFIREできます。答えはこれが全てです。老後までの必要生活費は人によって違います。生活レベルも違えば家族構成も違う。持ち家かどうか、どこに住んでいるか。そんなことで必要な金額は全然変わってきます。
富豪のような生活をしていれば10億円あったって足りないですし、本当に質素な生活を一人で過ごすなら3000万円もあれば十分かもしれません。一律に「いくらあったらFIREできるか」と聞く時点で、自分で考えていないのではないでしょうか。
FIREというのは限りなく自己責任の世界です。正社員で働いていたら、いろいろな問題が起きても会社は生活を保証する義務を実質的に負っています。それが日本の正社員です。65歳まで働いたら、そこから先は日本国が、これまで収めた年金保険料に応じて生活費を出してくれます。それが日本の社会保障です。
ところがFIREというのは、そういった他人が用意した保障の世界から逸脱する行為です。守ってくれるカイシャはありません。少なくとも老後になるまでは年金はもらえませんし、FIRE後は大した年金保険料も払っていないので、受け取れる年金額も大したことはありません。それでもFIREしたいというのは、すべてのリスクを自分で引き受けるということです。
なのに老後資金の計算も自分でできないようなら、いくら資産があってもFIREなんてできないし、するべきではないのではないでしょうか。
Q:FIREするにはどんな投資をしたらいいですか?
FIREするための投資法に正解はありません。端的にいえば、死ぬまでの生活費を賄えるだけの資産を用意できればいいわけで、あとはそれを逆算して資産形成をやるだけです。
いうまでもありませんが、資産形成は次の式で成り立っています。
資産 = 入金力 × 運用期間 × 運用利回り
ということは、
- 入金力を上げる
- 運用期間を伸ばす
- 運用利回りを上げる
の3つしか方法がないことになります。そしてFIREするというのは(2)の運用期間を自主的に短くすることですから、入金力を上げるか運用利回りをアップするかしかありません。
そして運用利回りは、よほど特殊な才能を持っている人以外は、継続して平均を上回ることは難しいです。ぼくの投資成績を見ると、記録が残っている2007年からの平均でも、年平均リターンは12.2%でした。
これは現金も含めた総資産の運用リターンです。株式の平均リターンが6-7%と言われる中で、この平均リターンはちょっとしたものじゃないかと自慢したくなります。でも、それであっても、FIREしても大丈夫かな? と思えるまでには10年以上かかっているのです。そしてインベスターリターンを見ればわかるとおり、相当額の入金を行っています。
もちろん、世の中には1年で資産を何倍にも増やしてFIREにたどり着いた人もいます。しかし、特殊な才能を持っている人を除けば、それはじゃんけんでたまたま10回連続で勝ってしまった人と変わりありません。
そして株式の期待値である年平均6-7%のリターンでFIREするには、入金力をアップするしかない。なので「FIREするにはどんな投資をしたらいいですか」の答えは、とにかく入金力をアップしようという、人によって身も蓋もないと思えるような回答になるのです。
ただし実際にFIREした人に聞いたら、その多くが同じように答えるでしょう。「こんな投資法をすればFIREできるよ」という人がいたら、十中八九詐欺師だと思います。
Q:家もクルマも結婚もお金の無駄なので節約しています
世間にはひたすら節制して入金に回しFIREする「リーンFIRE」スタイルもあれば、使いたいものにはお金を使いつつ、それでも余ったお金を運用してFIREする「ファットFIRE」もあります。
別にどっちが正しいFIREだとか、間違っているとか、ぼくはそういうふうには思いません。それはスタイルの違いであり、人があーだこーだいうことではないと思っています。
少ない入金と適切な運用期待リターンでFIREするには、節約して生活コストを抑えるしかありません。別にお金を使わなくても、今の日本では十分に暮らしていけるし、十分に文化的です。支出を増やすことが人生の満足度につながるというのは偏った考え方でしょう。
逆に、貯蓄も資産形成も全くせず、稼いだ金はぱーっと使ってしまう。そんな江戸っ子的な生き方も素敵だと思いますし、別に死ぬまで働いて、働いた分だけ使うという考え方もいいんじゃないでしょうか。
ただ節約ライフスタイルや浪費ライフスタイルを、家族にまで押し付けるのはどうかと思います。そのへんはよく相談したほうがいいのではないでしょうか。
Q:FIREしているのに働いているのはおかしくないですか?
FIREはFinacial Independent Ritirement Earlyの略なので、文字通りに取ればリタイアしていなければFIREではありませんね。
ただRetirement≒引退 にはさまざまな意味合いがあって、例えばスポーツ選手が現役を退くのはリタイア、引退でしょうが、その後全く仕事をしないという意味ではありません。同様に、これまでのキャリアを降りるのは引退だけど、その後好き勝手に働いても、それは引退しているといっていいんじゃないかと勝手に思っています。
一方で、FI=金銭的自立を実現していないのに、FIREだというのはぼくにはちょっとしっくり気ません。パートタイムの仕事を続けるサイドFIREとか、仕事は継続しているけど資産がある程度貯まったのでこれ以上の貯蓄は不要な状態を表すコーストFIREとかは、なんだかちょっとFIREの幅を広げ過ぎじゃないかと感じてしまいます。
また、全くFIには達していないのに、会社員を辞めて自営業に移行する人がいます。これを脱サラというならまさに脱サラで、素晴らしいことだと思います。でも、自分のビジネスを売り込むことを目的に、この状態で「FIREしました」というのは、どうでしょう。それってFIREを商材にしてますよね? そう思うと商魂たくましいという思いと合わせて、こういう人と一緒にしないでほしいという憤りを感じるわけです。まぁご容赦ください。
Q:FIREしても暇すぎて毎日が退屈そうです
FIREしても暇すぎ、というのはよく聞く話でもあります。いやFIREした人からでなく、FIRE否定論者からよく聞くのです。ではどうしたらいいのかと聞けば、「働け」というのが、こういう人の定番の返答です。
それを聞くたびに、いつから仕事はそこまで大事なものになったんだ? と思います。実は仕事=自己実現 という考え方が定着したのは、そんなに昔のことではありません。自己啓発書の歴史を紐解いた『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は
2000年代以降、日本社会は「仕事で自己実現すること」を称賛してきたからです。
と書いています。この本は、それ以前の読書の目的、あり方について、なぜ人々は本を読んだのか? という観点で紐解いているのでぜひ読んでいただきたいのですが、少なくも90年代以前は、自己実現とは仕事を通じて行うものではなく、消費や趣味の中で行うものだったのです。
FIERしても暇なら、本を読んだり趣味に没頭すればいいわけで、なぜそうではなく仕事をしないと暇だと思ってしまうのか。そこには、仕事=自己実現というたかだかこの数十年の価値観が色濃く染み込んでいるではないかと思ったりもするのです。