前回、EA=効果的利他主義の考え方が、ぼくを寄付行動に向けて背中を押したということを書きました。でも、それ以外にも寄付が幸福につながることはよく知られています。今回はその研究について。
幸福をお金で買う方法
お金がなければ多くの場合、人は不幸になりますが、かといってお金があれば幸福になるわけではないことは、経験的にも研究的にも知られています。いろいろ批判もありますが、年収が一定を超えるとほとんど幸福度は上がらないというカーネマン研究は有名ですね。
そんな中、お金を使って幸福度を上げる方法を研究したのが、『幸せをお金で買う 5つの授業』です。
この本では、幸せにつながるお金の使い方として、「ハッピーマネー5つの原則」が提供されています。
- 原則1:経験を買う
- 原則2:ご褒美にする
- 原則3:時間を買う
- 原則4:先に支払ってあとで消費する
- 原則5:他人に投資する
この中で「時間を買う」というのは、タクシーに乗ったり新幹線に乗ったりすることでもありますが、その究極にあるのがFIREです。残りの人生の時間を、お金で買ったのと同じだからです。
先に支払ってあとで消費するのは、その究極が投資だともいえますね。投資というのは、現在の消費を諦めて後での消費に回すものですから。
そしての、この原則5に出てくるのが「他人に投資する」です。これは、お金を自分のために使うよりも、他人のために使ったほうがより幸福を得ることができるということです。
寄付すると本当に幸せになるの?
とはいっても、寄付を行うと本当に幸せになるのでしょうか。実は、これに関しては心理学者のエリザベス・ダン(Elizabeth Dunn)、ララ・アケン(Lara Aknin)、およびマイケル・ノートン(Michael Norton)が2008年に実施した有名な研究「Spending Money on Others Promotes Happiness」があります。
この研究の目的は、金銭的な支出が人々の幸福感にどのような影響を与えるかを調べることでした。具体的には、自己のための支出(自己満足支出)と他者のための支出(利他的支出)の影響を比較しました。
まず調査では、ランダムに選ばれた人々に、自分の幸福感に関する質問に答えてもらい、その後、その日の支出に関する詳細を記述してもらいました。この調査では、参加者が自己満足支出(例:自己のための買い物)と利他的支出(例:他者への寄付やプレゼント)のどちらにどれだけお金を使ったかを確認しました。
次に実験では、参加者に5ドルまたは20ドルを与え、その日のうちに使い切るよう指示しました。参加者の半数には自己満足支出に使うように指示し、もう半数には利他的支出に使うように指示しました。その後、彼らの幸福感を再評価しました。
調査結果からは、自己満足支出よりも利他的支出をした人々の方が、より高い幸福感を報告する傾向があることがわかりました。また、実験からは支出金額(5ドルまたは20ドル)は幸福感にほとんど影響を与えず、重要なのは「どのように使ったか」でした。すなわち、他者のためにお金を使うことが幸福感を高める主要因であることが示されました。
つまり金額の大きさにかかわらず、利他的な他人のために支出をしたほうが幸福感が高まった、つまり少額であっても寄付を行うことが幸福につながったというわけです。
追加研究
この研究にはさまざまな形で追試が行われています。
- Aknin, Dunn, and Norton (2012)
- 利他的行動が幸福感に与える影響について、異なる文化圏での検証を行いました。カナダ、ウガンダ、南アフリカなど、異なる経済状況と文化背景を持つ国々で実施され、利他的行動が広く幸福感を高めることを示しました。
- Aknin et al. (2012)
- 利他的行動が幸福感を高めることは幼い子どもにも見られ、実験では、2歳未満の幼児がお菓子をあやつり人形に分けるときに、より幸せな表情を示しました。また、追加のお菓子よりも、もともと持っていたお菓子を分けた際の方が幸福感が高まりました。これは、自己のコストをかけて他者に利益を与えることが幼児にも幸福をもたらすことを示しています。
寄付することで本当に幸せを感じられるのか。それは自分で寄付をしてみないと分からないでしょう。ただ、自分の中にそれを是とする気持ちが昔からあったのも事実です。
よく寄付行動は「偽善」なんて言われます。でも、その行為が相手を救うという「結果」をもたらすことが最重要で、それによって本人が幸せになるのであればさらにいい。寄付行為を偽善という人は、自分が行わない理由を見つけたいだけなのかもしれません。