FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

「長生き保険」としての公的年金の捉え方

老後の生活の要となる公的年金ですが、制度がどうなるか分からないという不安だけでなく、繰上げ/繰下げという選択肢の判断があまりに難しいことが、制度自体の理解を難しくしています。

 

公的年金のうちの一つ「厚生年金」は正式名称を「厚生年金保険」といいます。ではいったい何が”保険”なのでしょう? そこを考えていくと、公的年金の活用方法も見えてきます。

公的年金は何が保険なのか

Wikipediaによると、公的年金の一つである厚生年金には大きく3つの保険給付があります。

  1. 老齢厚生年金
  2. 障害厚生年金・障害手当金
  3. 遺族厚生年金

公的年金といったときにまずイメージするのは(1)の老齢厚生年金ですが、そのほかに障害者になったときの保険や、死んでしまったときの保険など、生命保険的な機能も備えていることが分かります。

 

でも(1)の老齢厚生年金は何が保険なのでしょうか? これは今や人生の最大のリスクともいえる、長生きしてしまうことに対する保険だと考えるのがしっくりきます。つまり公的年金は「長生き保険」なのです。

日本人は何歳まで生きるのか

日本人の平均寿命は世界一レベルだとよく言われますが、厚労省が出した平均寿命(令和4年版)は、

  • 男性 81.05歳
  • 女性 87.09歳

となっています*1。これを見ると、男性なら「俺もだいたい80歳くらいまでは生きるかな?」と思う人が多そうです。ところが、話はもう少し複雑です。

 

下記は令和3年の年代別余命表から男性の年齢別の死亡率と生存数をプロットしたものです。70歳くらいから目に見えて死亡が増加し、100歳を超えると急速に死亡が増加することが分かります。

最後がよく分かるように65歳以上を拡大してみましょう。死亡率は80歳を超えたあたりから上昇していきます。90歳の死亡率は14.4%ですが、これは100人の90歳のうち14人は91歳にならずに死んでしまうという意味です。死亡率は100歳には37%に達し、統計上、105歳の死亡率は100%です。

生存数は10万人あたりで出しているので、ちょうど半分が亡くなるのは85歳時点です。あれ?平均寿命は81歳では? と思ったかもしれません。これは言葉の定義として平均寿命は「0歳の子供が生存する平均年数」だからです。平均値と中央値はだいたいにおいて異なっており、寿命については平均値<中央値となります*2

 

さらに90歳に至っても10万人中2.7万人が生存しています。95歳でも1万人が生きています。しかし100歳にはそれが1800人まで減少し、つまり95〜100歳で8割の人が亡くなるわけです。まとめると、次のようになります。

  • 85歳で50%が生きている
  • 95歳で10%が生きている
  • 98歳で約5%が生きている
  • 100歳で約2%が生きている
  • 105歳でほぼ全員が死亡する

さて、「平均年齢である81歳くらいで死ぬだろう」と思っていた人は、認識がアップデートされたでしょうか。統計学ではよく5%をしきい値として使いますが、それを考えても98歳までは生きていることを想定しておくほうが良さそうです。

85歳を超えたら働けない

「100歳まで生きる前提で考える」と多くのFPはいうでしょうが、それはこの統計を元にしたものです。

 

何しろ85歳以降の生き方は選択肢がほとんどありません。想定外だったからといってアルバイトでもするか!というわけにもいきません。企業の創業者や政治家などで85歳以上でも現役という人もいますが、基本的にはこの年齢ではもう働けないと考えたほうがいい。つまり労働による追加収入は見込めないのです。

 

となると、生活費は資産と年金から捻出するしかありません。100歳までの想定をしておかないと、いざ資金が尽きたときには生活保護しか残された手段はなくなってしまいます。100歳まで生きる可能性は小さいだろうけど、もし生きてしまったときの対応策は考えておかなくてはならないわけです。

 

このように、可能性は小さいけど、起きたときに致命的となる出来事への対策をなんというか。そう、それを人は保険と呼ぶのです。

公的年金の繰上げ受給と繰下げ受給を考える

ここまでの議論を踏まえて、改めて公的年金の繰上げ・繰下げ受給の良し悪しを考えてみましょう。

 

繰上げ受給派のロジックの一つが「年金をもらわずに死んでしまったらもったいない」です。これは一見納得の理由ですが、年金を長生き保険だと捉えると見方は変わります。せっかく自動車保険に入ったのに、事故を起こさなかったから損したというのと、論理的には同じ話だからです。長生きという致命的な出来事が起きなかったわけですから、これはこれで正解なのです。

 

つまり「資産が尽きたら自殺する」という前提でもない限り、100歳まで生きることを前提にしてトータルの収入と支出を検討する必要があります。そこで精緻なシミュレーションの前に、ざっくりした内容がイメージできる例で考えてみましょう。

 

いま60歳で1億円の資産(貯金)があったとします。また厚生年金で受給基準額は年間200万円だとします。死ぬまで生活費は同額だとして、100歳まで生きることを前提に、貯金の取崩しと年金で暮らしていくとして試算してみましょう。

 

年金は繰上げると1ヶ月あたり0.4%減少(1年で4.8%減)し、繰り下げると1ヶ月あたり0.7%増額(1年で8.4%増)となります。60歳から受給開始すれば年間の受給額は76%に減って152万円に、70歳まで繰下げ受給すれば142%に増えて284万円になるという具合です。

  • 年金なしの場合:残り40年、年250万円ずつ使える。早死したらその分が遺産に
  • 60歳から繰上げ受給: 76% 年152万x40→6080万 計16080を402万/年ずつ
  • 65歳から受給:100% 年200万x35→7000万 計17000を425万/年ずつ
  • 70歳から繰下げ受給:142% 年284万x30→8520万 計18520を463万/年ずつ
  • 75歳から繰下げ受給:184% 年368万x25→9200万 計19200を480万/年ずつ

繰上げ受給すると毎年402万円しか使えませんが、繰下げ受給していくと金額は増え、75歳まで繰り下げると毎年480万円も使えるのです。

上記のグラフはこれを視覚的に理解しやすくしたものです。縦軸が毎年もらえる受給額、横軸がもらえる期間。面積は受給総額になります。

もう少し精緻に考えてみる

この結果は意外でしょうか? これは言ってみれば当たり前の話で、長生きするほど繰下げが有利になるのは当然のことです。100歳まで生きる可能性を考えて資産取り崩しを考えた場合、繰下げ受給は、受給年数は短くなるものの、受給額のプラスが大きくなるため、受け取れる額が増加するのです。

 

ただここには重要なパラメータがいろいろ抜けています。

  • 生活費は年を取るごとに減少するはずだ
  • インフレとマクロ経済スライドの効果を考えていない
  • 年金破綻の可能性を盛り込んでいない
  • 年金にかかる税金について考慮していない
  • 早く年金を受け取れば、それを運用できる

これはそれぞれ大きな影響を及ぼすものですが、シミュレーションできるものとできないものがあります。さて、これらの中でも繰上げ受給派のロジックの一つでもある「早く受給して運用」は果たしてどれだけの効果があるのか、次回検証してみましょう。

 

→検証してみました 

繰上げて年金を受け取って運用する戦略はうまくいくか? - FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

 

※なお税金については繰り上げ受給をうまく使って、193万〜211万円に年金額を抑えれば、住民税非課税となってさまざまな税や社会保険負担を減らせます。これについてはこちらの記事で検証しました

www.kuzyofire.com

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*1:ちなみにコロナの影響もあり、令和3年から0.4年ほど短くなっています。

*2:投資においては平均値>中央値 ですね。