FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

年金の繰上げ受給は公的年金等控除をどのくらい活用できるか

前々回、運用なしでは75歳への繰下げ受給が、「100歳まで生きるリスクに対する長生き保険」として優秀な働きをしてくれることを見ました。ただし、そこに運用を加味するとかなり結果は変わり、5%程度の運用あたりから、繰上げて早期に運用することのメリットがそこそこ出てくることを前回チェックしました。

 

ただ繰り上げることのメリットはそれだけではありません。それは税金です。

公的年金は雑所得の累進課税

公的年金を繰上げて受給するメリットはほかにもあります。1つは公的年金等控除の有効活用です。

 

どういうことでしょうか。実は年金には所得税と住民税がかかります。これは雑所得にあたり、給与などと同じ累進課税です。つまり、受け取る金額が大きいほど税率もアップします。

 

下記は課税所得に対する税率です。累進課税の所得税と一律10%の住民税がかかるので、けっこうな税率になります。年間200万円までは所得税5%+住民税10%の15%ですが、そこから税率が上がっていき課税所得500万円だと21.45%、107.25万円の税金が取られることが分かります。

公的年金は繰り上げれば年間の受給額が減り、繰り下げれば受給額が増加します。つまり、受給額が増えるほど税率も高くなって損だということです。

年金には大きな控除がある

とはいえ、年金には大きな控除があります。公的年金等控除といって、受け取る年金から差し引いて課税所得を計算できます。例えば、公的年金受給額が年間200万円で、控除が110万円だとしたら、差し引き90万円だけに税金がかかるのです。

 

この控除額がどのくらいかというと、けっこうややこしくて年齢と年金収入額によって控除額が変わってきます。令和2年に計算が変わったので、最新の情報をチェックしましょう。

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といっても、この表を見てもなんだかよくわからないですね。そこでグラフにしてみました。年金の何%が控除されるか、控除率を年金所得別にプロットしたものです。

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これを見ると、金額が小さいほど控除率が大きいことが分かります。つまりここでも累進性があるのです。また65歳未満より65歳以上のほうが控除率が大きいこと、300万円を超えるとほぼ差がないことも分かります。

 

例えば、年間200万円の公的年金を、60歳まで繰上げて受給額152万円にした場合と、75歳まで繰下げて368万円にした場合を考えてみましょう。下記のように支払う税額は6倍以上に増え、税率も倍以上になります。

  • 60歳152万円:控除額110万円、課税所得42万円 税額6.3万円 税率4.14%
  • 75歳368万円:控除額119.5万円、課税所得248.5万円 税額39.95 税率10.85%

年金所得額に対して、年金等控除と所得税の累進性を加味した税率を計算したのが下記です。

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65歳未満の場合、60万円までは全額控除できますがそれを超えると一気に税率が立ち上がります。また65歳を超えると、110万円までは全額控除ですが、そこから額が増えるにつれて税率もなだらかに上昇することが分かります。

控除枠を最大活用する

年金については控除も累進性があるために、サラリーマンに比べても税率の累進性が高いことが分かりました。これを踏まえた場合、どのように受け取るのが効果的でしょうか。

 

一つは、65歳未満で60万円に収まる、65歳以上で110万円に収まる額で受給することです。この場合、全額を控除でき、完全に無税になります。といっても、年金の最低額である老齢基礎年金額が81.6万円/年(令和6年度)なので、最大限繰上げ受給しても76%の62万円。つまり60万円以内に抑えることはできません。

 

一方65歳以上になったときの受け取りに対して控除できる110万円の枠には、年金額が少なくてかつ繰り上げればけっこう収まります。といっても、年間の基準受給額が150万円とかになってしまうと、もう全額控除というわけにはいきません。

それでも一つ言えるのは、控除を最大活用するなら繰上げ受給だということです。こうした控除は、その額が無税になるのと等しい効果をもちます。そして考えてみると、生涯に渡って控除を合計した場合、

  • 60−65歳の年金受給年数 x 60万円
  • 65歳〜の年金受給年数 x 110万円

が控除合計になるわけです。つまり繰り上げれば繰り上げるほど、生涯で利用できる控除が大きくなります。100歳まで年金を受取るとすると、下記のようになります。

  • 60歳繰上げ受給:控除枠 4260万円
  • 65歳受給:控除枠    3960万円
  • 70歳繰下げ受給:控除枠 3410万円
  • 75歳繰下げ受給:控除枠 2860万円

言い換えると、この額までは無税で年金を受け取れるわけです。

別の言い方をすると、繰下げ受給すると1年ごとに8.4%、受給額が増加しますが、110万円の無税枠を失うことになります。

ただし控除枠は公的年金だけではない

これを聞くと、繰上げ受給のほうが制度的にはお得な感じがしますね。ただ、この公的年金等控除は、公的年金以外にも使えることに注意が必要です。実は下記のようなものが対象になります。

  1. 公的年金
  2. 企業年金・iDeCo
  3. 退職金共済など

企業年金やiDeCoは、一括で受け取ると退職所得控除が利用でき、年金として受け取ると公的年金等控除が利用できます。さらに一括と年金の組み合わせも可能です。iDeCoは新卒22歳から加入して60歳まで積み立てると38年間で2060万円の退職所得控除枠ができます。そこで、2060万円は一括で受け取り(無税)、残りを年60万円ずつ5年受け取れば、公的年金等控除を利用できます*1

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またMAX年84万円積み立てられる小規模企業共済の受け取りも、一括と年金の組み合わせが可能です。退職所得控除は20年分までは40万円/年なので、MAX84万円積み立てると控除枠をはみ出します。それを年金として、公的年金等控除の枠内で受け取るようにするのです。

 

下記のように、例えばiDeCoや小規模企業共済、公的年金の受け取り方を組み合わせれば、公的年金等控除を無駄なく活用できるわけです。

  • 60歳 iDeCo一括受け取り(退職所得控除
  • 60〜65歳 iDeCo年金受け取り(公的年金等控除 60万/年)
  • 65歳 小規模企業共済一括受け取り(退職所得控除)
  • 65歳〜70歳 小規模企業共済年金受け取り(公的年金等控除 110万/年)
  • 70歳〜 厚生年金(公的年金)受け取り(公的年金等控除 110万/年)

そのためiDeCoや小規模企業共済(その他の企業年金)などの受け取りがある人は、その額次第でいろろな方法が取れます。そのためどんな場合でも年金は繰上げ受給したほうが、控除枠が無駄にならないとは言い切れないのです。

 

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*1:または65歳までiDeCoに加入を続ければ、43年間となって退職所得控除は2410万円、残りを年110万円ずつ年金として受け取る(無税)という手もあります。