ビットコインの勢いが止まりません。一時9万ドルを超え日本円では1300万円を突破。過去最高値を更新中です。久しぶりに大ブレイクの兆しが見えてきましたが、改めて「ビットコインもとい仮想通貨には本質的な価値はあるのか?」という問いについて、考えてみます。
1300万超えて止まらないビットコイン
ビットコイン価格が止まりません。きっかけとなったのは11月5日にトランプ氏が大統領選挙に勝利したこと。仮想通貨推しを選挙期間中に宣言していたことを受けて、その期待から急上昇です。
ビットコインの本質的価値は?
こうなると再び普通の人もビットコインに注目します。そして、古くからある「仮想通貨には本質的な価値がない」議論が出てくるのです。
以前は金融関係者を中心に、「ビットコインはゴミ」「ビットコインには価値がない」という発言が飛び交っていたのですが、さすがにBlackrockなどの最大手運用会社がビットコインETFを組成するようになった今、仮想通貨は詐欺だ!なんていう人もかなり減った気はします。
それでもまだ「本質的価値」について腹落ちしている人は少ない様子。今回は僕なりに納得しているビットコインの価値について考えてみます。
日本円に価値はあるのか?
ビットコインの価値を考える上では、みんなが必死になって集めている日本円にはなぜ価値があるのかを考えるのが早道です。いったい、なぜ日本円には価値があるのでしょう。
モノが買える? いえビットコインだってモノは買えます。歴史が長い? もうビットコインの歴史も17年になろうとしています。17年では価値がないけど、20年なら? 50年続けば価値があるのでしょうか。みんなが持っているから? 確かにビットコインを持っている人はまだ少ないですが、日本の暗号資産口座数はこの4月時点で1000万を超えています。もはやFXなどよりメジャーな資産なわけです。
そうした中、多くの人は日本円の価値についてこう言うでしょう。「日本政府が保障しているから」。そう。日本円は日本政府が発行し、税金として受け取り、法律でみんなが受け取るよう強制しています。日本政府の約束こそが、日本円の価値なのです。
しかし日本円には致命的な欠点があります。それは日本政府(日銀)がいくらでも発行できることです。どんなものであれ供給量が増えれば価値は落ちます。ぼくは労働や運用の対価としてしか1万円を得られませがん、政府は何もしなくても1万円を無から作り出せます。そりゃあ価値が落ちるはずです。
紙幣発行による国家破綻
国家が無制限に通貨を発行することで、通貨の価値が暴落し、国家が破綻するというのが世界の通貨の歴史です。ローマ帝国では、戦争や公共事業のために財政が悪化し、支出を賄うために通貨を増発しました。この結果、貨幣の価値が急速に下落し、インフレーションが進行。物価が急騰し、経済が混乱に陥りました。
14世紀の中国・元(モンゴル帝国)でも、モンゴル帝国の統治下で初めて全国規模の紙幣が発行されました。しかし、財政難や戦争の負担を賄うために、無計画に紙幣が増発されるようになり、急激なインフレーションが発生しました。
フランスでは、無制限な通貨発行とインフレーションによる経済破綻の代表例として、1715年から1720年にかけての「ミシシッピ計画」が有名です。ルイ14世の戦争で財政難に陥ったフランス政府は、ジョン・ローに通貨改革を委ねました。ローは「バンク・ジェネラル」を通じて紙幣を発行し、「ミシシッピ会社」でフランス領ルイジアナの開発を推進しました。これにより株価が急騰してバブルが発生しますが、紙幣の大量発行によりインフレーションが進み、最終的にバブルが崩壊し、株価と紙幣の価値が暴落しました。
無制限な紙幣発行によるインフレーションやバブルの崩壊を繰り返したことで、各国は通貨の価値を安定させる必要性を痛感し、金本位制へと向かう道を歩み始めました。
金本位制は、通貨の価値を一定量の金に裏付ける制度で、政府が発行する通貨量を金の保有量に制限することで、過剰な通貨発行とインフレーションを抑えることができると考えられました。こうした制度は、まず19世紀にイギリスが採用し、その後、他国も追随しました。金本位制によって通貨の価値が国際的に安定するようになり、貿易や投資も活発化しました。
金本位制って何だろう? マネー乱造に歯止め、復権機運も(木村貴の経済の法則!)金本位制の間は、物価が安定していたことが分かる
金本位制の廃止
こうした金本位制も100年経たずに廃止されます。発端は、またしても戦争でした。お金を刷るだけで戦費が賄える誘惑に各国は耐えられず、金本位制は放棄されます。
第一次世界大戦が勃発すると、各国は戦費を賄うために多額の支出を必要としましたが、金本位制の下では通貨の発行が金保有量に制限されていました。そのため、戦争中に一時的に金本位制を停止し、戦後も多くの国が金本位制に戻ることができなくなりました。
さらに1929年の大恐慌で経済が深刻な打撃を受けたことで、各国は金融政策を通じて景気回復を図ろうとしました。しかし、金本位制の下では通貨供給を自由に調整できないため、経済政策の柔軟性が制限されました。このため、アメリカを含む多くの国は、経済を立て直すために金本位制から離脱しました。
このように”柔軟な経済政策”の名のもとに、人の判断で通貨供給量を調節できる仕組みが今も続いています。しかしこれは人の判断で通貨の価値を毀損できる仕組みでもあるということです。
金の本質的な価値とは
日本円の本質的な価値は、日本政府が保障しているところにありました。では、金の本質的な価値はどうでしょうか? 金の価値はどこの政府も(今は)保証していません。にもかかわらず、金は本質的な価値を持っているように見えます*1。
その昔、錬金術という他の何かから金を生み出す技術が盛んに研究されたように、金には足りないからといって新たに作ることができないという希少性があります。金の採掘済みの量は、現在おおよそ20万トンとされています。これはオリンピックプール約4杯分にしかなりません。地球上にまだ推定で5万トンから6万トン程度の金が未採掘で残っているとされていますが、これも採掘のコストや技術的な難易度が高く、容易に手に入るわけではありません。
量が限られていて、かつ簡単には生み出せない(採掘できない)ことが金の本質的な価値を担保しているわけです。
アルゴリズムで規定されたビットコイン
では翻ってビットコインはどうでしょうか。ビットコインの最大にして最強の特徴は、アルゴリズムで制御され、供給量も最大2100万BTCと決まっていることです。これはどのようにしても増やせません*2。つまり、金以上に希少性が担保されているのがビットコインなわけです。
※暗号資産(仮想通貨)の発行枚数と価格の関係 横軸のブロック1つが半減期。現在4回目の半減期が終わっており、これまでに約1939万枚が発行されている。これは全体の92%に相当する。最終的にすべてのビットコインが発行されるのは2140年頃の見込み
日本円の価値は、日本政府が保障していることにありました。ところが政府はいくらでも円の供給量を増やすことができ、つまりインフレを起こすことでその価値を下げることが可能です。というよりも、2%程度のインフレを継続的に起こそうとしています。
一方、どんな団体も保障していない天然資源である金は、その希少性が物理的に担保されていることに本質的な価値があります。日本円と金、どちらが長期的に価値を保存できるでしょうか?
その答えを考えたとき、金以上にデジタルなアルゴリズムと暗号の力で希少性が担保されているのがビットコインです。さらに極めて巧妙な仕組みによって、かかわる人たちにとっても根幹のアルゴリズムを変更できないようにする仕組みが取られています。このデジタルゴールドとしての価値が、ビットコインの本質的な価値だといえるのではないでしょうか。
*1:確かに産業用にも金は使われますが、その価値が金の値段を保障しているわけではないことはあきらかでしょう。
*2:もちろん、ビットコインにも開発者コミュニティがあるので、開発者とトランザクションノード運営者、そしてマイナーがすべて合意しないとアルゴリズムを変更できません。3者の直接的インセンティブは互いに相反しており、全員が納得するような変更は難しいのです。さらにビットコイン保有者は、ビットコインの根幹が変わらないこと自体が価値だと考えているため、最大供給量を増やすような変更を行ってもそれをビットコインだとは認めないでしょう。こうした4すくみの関係から、ビットコインの根幹のアルゴリズムは実質的に変更不能となっています。→こちらを参照のこと。ビットコインの予言の書 書評『ビットコインスタンダード』