お金を貯めたり増やしたりする方法には一定のベストプラクティスがありますが、お金を使う方はこれといった答えがありません。資産形成はサイエンスだけど、資産を使うのはアートだといわれる所以ですね。
そんな中、「こうお金を使うべきだ」という考え方の一つが「DIE WITH ZERO」です。これは資産ゼロで死ね、という意味で、お金を余らせずに使い切って死ぬことが人生を満喫するためには重要だということを説いています。ただ、テクニカルにはこれを実現するのはけっこう難しい。そこで、その方法を考えてみます。
なぜDIE WITH ZEROを目指すのか?
これまでもDIE WITH ZEROについてはいろいろと記事を書いてきました。
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人は必要な量より多くを貯めている:死ぬまで資産が増え続けるのは日本だけ ライフサイクル仮説とは?
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何にお金を使うか:FIREした人たちの話題ーー何にお金を使うか?
では、なぜDIE WITH ZEROを目指すのか。DIE WITH ZEROの反対は、資産を遺して死ぬことですが、僕は遺産という形で子に資産を残すことが、子にとっていいことだと思わないのです。
よく「魚をあげるよりも、魚の釣り方を教えよう」って言うじゃないですか。子どもも同じだと思うのです。
だから遺産なんかより、教育とか若いうちの体験とか、そういうことを遺してあげたい。親の金をあてにするような人になってほしくない。金品とか株とかもらって、こどおじになってもらっても困るのです。
DIE WITH ZEROのテクニカルな問題
そうはいっても、実際にDIE WITH ZEROを目指そうとするといろいろ技術的な壁にぶつかります。どういうことかというと、いつ死ぬかが分かっていればDIE WITH ZEROは簡単です。残り時間で資産額を割って、それを毎年使えばいいだけです。
ところが、実際の寿命は「おそらく100歳までには死ぬだろう」くらいのかなりざっくりしたものになります。明日死ぬ確率だってゼロではないけれど、いつ死ぬかというのはあくまで下記のような確率分布でしか表現できないのです。
資産を使うペースが早すぎると、死ぬ前に資産が尽きてしまうし、遅すぎると余ってしまう。これをどう解決するかがテクニカルな問題になります。
DIE WITH ZEROを実現するためのヒント
金融というのは、時間軸を超えてお金を融通したり、リスクの在処を移転させる技術的な仕組みのことでもあります。当然、DIE WITH ZEROを可能にするための金融だってあるはずです。
メモ書き的にそれを考えてみましょう。
まずは公的年金を繰り下げて額を増やすです。公的年金は支払い保険料は一定で、死ぬまで保険金が受け取れる、いわゆる終身年金の一種です。長生きリスクに対する保険ですね。65歳からの受給が基本の公的年金を、10年送らせて75歳からの受給にすれば、年間に受け取れる金額は1.84倍に増加します。その金額で生活ができるなら、75歳までに全資産を使い切ってしまってもOKなわけで、これは完璧なDIE WITH ZEROです。
実は民間の保険でも、一定の掛金を払うと死ぬまで年金がもらえるという保険があります。日本生命の「GranAge」で、いわゆるトンチン保険です。これぞまさに長生き保険なのですが、早死すれば掛金よりももらえるお金が少なくなることもあり、あまり人気がありません。どちらかというと早死すると掛金よりも貰える金額の多い、普通の生命保険のほうが皆さんお好きなようです。
次に借入でBS的にマイナスだけどCFを生む資産を持つという手法はどうでしょう。これは例えば野だて太陽光発電所です。太陽光発電所は基本的に資産価値はゼロですが、年間数百万円の収益を生んでくれます。融資が引けるかどうかはまた問題ですが、考え方としてはノンFIT前提がいいですね。これをローンを組んで購入します。できるだけ返済期間を長くして、ざっくり収益の半分くらいがローン返済にあたるイメージで考えてみましょう。
発電所を買いたいという人もいますが、その代金はローン残金で相殺されます。多少はプラスになるはずなので、無価値というわけではありませんが、不動産のように根源的な価値のあるものではありません。死んだときの資産価値は低いけど、でも生きていくためのキャッシュフローは継続的に生んでくれる。これもDIE WITH ZEROのいいツールです。
法人を活用すると、いろいろな方法が可能になります。簡単に思いつくのが法人を子供に譲渡して、そこの役員として報酬をもらい続ける方法です。太陽光なり不動産なり、手間のかからない収益法人を、生前に子どもに譲渡します。株式をすべて渡す形ですね。その上で、自分がその法人の役員=おそらく代表取締役となって、実務すべてを行い、役員報酬をもらいます。
法人の持ち主は子どもなので、資産価値としてはゼロになります。ただ死ぬまでは役員報酬をもらえるので、これもDIE WITH ZEROの一つの形でしょう。一応問題点としては、子どもが思い立ったら代表取締役を解任することもできてしまうので、信託とかをうまく使って子どものパワーをある程度制約しておいたほうがいいかもしれませんけど。
不動産をうまく活用したDIE WITH ZEROがリバースモーゲージです。リバースモーゲージとは、自宅などの不動産を担保にお金を借りて、自分が死んだらその不動産を売却することで借りたお金を返済できる仕組みです。
つまり死後、自宅などの不動産を遺産として遺せませんが、代わりに生前から不動産価値分(実際はもっと少ない)のお金を得て使えるという仕組みです。担保掛目は評価額の50〜55%なので、売却したほうが高くなりますが、死ぬまで住む家は保障され、死んだら何も残らないできれいになるという、これまたDIE WITH ZEROの良いツールです。
実践的な戦略
さてこうしたヒントを元に、ぼくの場合はどうするかをちょっと考えてみました。
まず公的年金の繰り下げは長生きリスクに対応する素晴らしいツールです。ただ、これから制度が難しい時期に入り、破綻はないと見ていますが、受給金額が大きく減少する可能性があります。場合によっては、繰上げ受給して運用したほうがリターンが高くなる可能性もあって、判断が難しいところです。
制度の状況を睨みつつ、現資産の減り具合とも相談しながら決めていこうと思います。ということで、公的年金の扱いはペンディングです。
太陽光発電所や不動産は現時点で所有していて、まぁ継続的にキャッシュを生んでくれるいいツールです。太陽光については、FIT終了後も保有を続け、民間売買で電力を売り続けたいと思っています。現在のぼくのFITは18円ですが、卒FIT買取価格は11〜15円程度となっている模様で、このまま推移すれば年間150万円くらいの売上(=ほぼ利益)になります。それが6基あるので、900万円くらい。これだけでも食べていけるくらいですね。DIE WITH ZEROツールです。
不動産については建物の老朽化という問題があります。幸い23区の地価はまだ上昇傾向なので、様子を見つつですが、IRRが最大化するタイミングで売却を考えています。あと8〜10年後程度でしょうか。
法人については、赤字で債務超過である現段階で子どもたちに譲渡するのも一つの選択肢です。その際は種類株を発行して、しばらくはぼくのほうで決定権を持つガバナンスを効かせるのもいいかもしれません。
自宅については現在は賃貸です。ただ子どもたちが巣立ったあとを考えると、もう少しこじんまりとした部屋を購入してしまうのもありだと思っています。環境のいい都心部で60〜70m2くらいのマンションを現金で買ってしまい、それをリバースモーゲージに出して資金を戻すという手もあります。ここはライフスタイルがどうなるかを見極めながら考えたいと思います。
それぞれまだ決定的な方針はなく、いろいろな選択肢を持ちながら考えていくわけですが、DIE WITH ZEROを目指すという指針があることで、漠然と考えるよりも考えがまとまりやすいメリットがあるなと思っています。ま、極端な話、DIE WITH ZEROに失敗して遺産を遺してしまったっていいわけですしね。