今年は税制の詳細が103万円の壁撤廃で過去なかったほど話題になりました。その冬の本丸である「与党税制改正大綱 2025」が発表になりました。本文はこちらから読めますし、さっそくサマリーを作ってくれている税理士の方もいます。
いくつかポイントがあるのですが、今回はiDeCoについて見ていこうと思います。iDeCoの掛け金が増加したという改善と合わせて、実はセットでステルス改悪が行われたのです。
iDeCoは掛け金が増加したものの、
— セミリタイア九条 🌐📈☀ (@kuzyofire) 2024年12月21日
受け取るときの退職所得控除が激しく改悪
これまでは5年ルールといって、iDeCo受給から5年経てば会社の退職金についても退職所得控除が使えた
今回ステルス的にこれが10年に延長。iDeCoは出口で増税されてる https://t.co/2Ll7piRzKk
ぼくの場合iDeCoが2.3万→6.2万に
iDeCoの掛け金上限は大幅に引き上げることになりました。
- 自営業・フリーランス 6.8→7.5万 (+0.7万円)
- 会社員:企業年金なし 2.4→6.2万 (+3.8万円)
- 会社員:DC加入 合計5.5→6.2万 (+0.7万円、iDeCo上限撤廃)
- 公務員:合計5.5→6.2万 (+0.7万円、iDeCo上限撤廃)
【2025年度税制改正大綱】iDeCo掛け金上限引き上げ、金額や対象者は? 仕組み解説 - 日本経済新聞
また、「イデコに掛け金を出せる期間も65歳未満から70歳未満に拡大する」そうです。
対応する税制改正大綱はこちらです。
ステルス改悪の退職所得控除 5年ルールが10年ルールに
iDeCoの増額はいい話なのですが、しれっとセットで改悪も紛れ込んでいます。5年ルールの撤廃です。
iDeCoは積立時に所得から控除され、つまり給与などの税金が積立分だけ減る構造になっています。ところが、受け取るときには税金がかかります。無税になるNISAとは違い、iDeCoは税金がかかるタイミングが異なるという積立制度なのです。
ただし受け取るときの税金にはいろいろな特典があります。退職所得控除という仕組みです。
- 積立年数に応じて無税になる額がある (退職所得控除)
- 税率は、受取金額を半分にして累進課税である総合課税*1
- 年金として受け取ることも可能で、その場合は公的年金等控除(一定額が無税になる)が利用できる
この退職所得控除額はかなり大きく、勤続年数(積立年数)1年につき40万円、さらに20年を超えると1年につき70万円が控除されます。要するに、20年積み立てれば800万円は無税で受け取れ、40年積み立てれば2200万円が無税で受け取れるのです。
ただ、退職所得はiDeCoだけではありません。まさに企業からもらう退職金も退職所得控除として同じ計算が使われます。つまり重複利用ができるのです。ではどちらも同じように40年で2200万円控除できるのかというと、そこには制限があって、
- iDeCoを退職金として受け取ってから5年後なら、企業からの退職金も退職所得控除が利用できる(5年ルール)
- 企業からの退職金を受け取ってから20年後なら、iDeCoにも退職所得控除が満額利用できる(19年ルール)
となっていました。そのため、「iDeCoを60歳で受け取って、65歳で企業からの退職金を受け取る」と、iDeCoと企業退職金の両方に退職所得控除が使えたのです。
これが今回塞がれました。
iDeCoなどの確定拠出年金を退職一時金としてもらっていて、10年以内に別の退職金をもらった場合、その退職金については退職所得控除の重複は認められず、実質的にiDeCoの節税効果は大幅に縮減することも
これにより、退職所得控除を複数回使うには次のような順序で使う必要がでてきます。
- 60歳でiDeCoを受給、70歳で企業退職金を受給
- 65歳でiDeCoを受給、75歳で企業退職金を受給
- 70歳でiDeCoを受給、80歳で企業退職金を受給
もっともiDeCoは60歳以前には受給できないので、自分で企業退職金のタイミングをコントロールできる人でなけば、ほぼ退職所得控除の重複利用は不可能になったでしょう。そもそも企業退職金をもらった人は、そこから19年経たないとiDeCoに退職所得控除を満額使えないので、ほぼ重複利用はできませんでした*2。それに近くなったともいえます。
退職所得控除はさらに今後改悪へ
iDeCoの入口での改良はいいのですが、このように出口での改悪はこれからも続くでしょう。実は2022年4月までは19年ルールも14年ルールでした。今回5年ルールが10年ルールに延長されたことで、いろいろと人生設計が狂うことになります。
そもそも今回の税制改正大綱では、退職所得控除に関する改正は来年に見送りになりました。それはわざわざ書いてあります。
サマると、
- iDeCo含む年金は、もらうときに課税されるのが当たり前
- いまはいろいろ節税策があるので、抜け道ふさいで増税するで
- 退職所得控除と年金受け取りで課税制度が変わるのも、統一して増税するで
- 20年で退職所得控除が増えるのもおかしいので止める方向で考えるで
という感じ。まぁ退職所得控除の重複利用はできなくなるように調整するのでしょう。
*1:退職金は給与などとは合算しないで計算でした。ご指摘いただき、ありがとうございました!
*2:正確には「雇用期間と重複しない加入期間分しか退職所得控除を使えない」。つまり、60歳で企業退職金に対して退職所得控除を使い、次65歳でiDeCoを受給する場合、5年分(5x20万=100万円)しか退職所得控除を使えないということですね。これが19年経つと、満額=積立期間全部の退職所得控除が使えるようになると。いやはや複雑。@Mee_Matatabiさんご指摘ありがとうございました!