九条が保有する銘柄=ポートフォリオに関心をお持ちの方も多いということで、連載的に、保有する投資先の中で、評価額が大きい順に連載的に紹介していきたいと思います。「どんなナラティブを信じて保有しているのか」というメタトレンド的な解説が中心になります。
第6回は、ここ数日急騰しているEthereum。「変わらないこと」が特徴のビットコインに対し、イーサリアムは「変わり続けること」が価値です。
4年前より価格が低いEthereum
上記のグラフでは金(ゴールド)のインゴットに抜かれてしまっていますが、当初6番目のシェアを持っていたのがEthereumでした。2021年=4年前にポートフォリオとしてのEthereumについて記事を書いたときの価格は2800ドル。現在は2439ドルで、なんと減少しています。
上昇を続けるイメージのあるBitcoinとは違い、2021年末につけた4600ドルの高値をいまだに超えられていないのがEthereumなのです。
でも、ならEthereumがBitcoinに比べて微妙なのかというとそんなこともありません。チャートは、どの部分を切り取るかによって全く違った顔を見せるのですが、次のように過去5年間を比較すると同じような増え方(どちらもだいたい+1000%=11倍)をしています。
上がり続ける……とは全く言い難いEthereumですが、ではどんなナラティブを信じて保有し続けているのでしょうか。それは変わり続けるということです。
変わり続けることの価値
同じ仮想通貨といっても、Bitcoinの価値は「変わらないこと」にありました。これは時代が変わっても世の中が変わっても、その価値を保ち続けるという意味で魅力的な資産です。
一方でEthereumの価値は「変わり続けること」にあります。これまでのメジャーなアップデート=ハードフォークをまとめておきましょう。
- 年 アップデート名 主な変更点 影響
- 2013 ホワイトペーパー スマートコントラクトのコンセプト発表 イーサリアムの基礎を築く
- 2014 イエローペーパー EVMの技術仕様詳細記述 技術的基盤確立、技術基盤の確立
- 2014 Etherセール BitcoinでEther購入可能に 資金調達とコミュニティ形成
- 2015 Frontier フロンティア 開発者向けベーシック実装、ガスリミット5,000 最初のライブバージョン
- 2016 Homestead ホームステッド プロトコルとネットワーキングの変更 公式リリース
- 2016 DAOフォーク DAOハック対応、資金回収、Ethereum Classic分岐 セキュリティ強化とコミュニティ分裂
- 2017 Byzantium ビザンチウム マイニング報酬3 ETHに、難易度ボム延期、Layer 2スケーリング 効率化とスケーラビリティ向上
- 2019 Constantinople コンスタンチノープル マイニング報酬2 ETHに、EVMコスト最適化 マイニング効率化
- 2019 Istanbul イスタンブール EVM効率化、DoS耐性向上、Layer 2強化、Zcash相互運用 EVM効率、DoS耐性、レイヤー2強化、Zcashを併用、スケーラビリティとセキュリティ強化
- 2020 Beacon Chain Genesis ビーコンチェーンジェネシス PoS移行開始、16,384の32 ETHステーク必要 PoSへの第一歩
- 2021 London ロンドン EIP-1559導入、トランザクションフィー改革 ETH供給減少とユーザー体験向上
- 2022 The Merge マージ PoWからPoSへ移行、エネルギー消費99%削減 歴史的な転換点
- 2023 Shanghai 上海 ステーキングETH引き出し可能、バリデーター報酬自動スイープ ステーカーの利便性向上
- 2024 Dencun デンクン Proto-DankshardingでLayer 2コスト削減、バリデーターチャーン率制限 スケーラビリティ向上
- 2025 Pectra ペクトラ バリデーター残高2,048に、ユーザー体験とステーキング効率化 進行中のアップデート
この中でも最もドラスティックなアップデートはThe Mergeでしょうか。もともとEthereum2.0と呼ばれていたもので、この移行を見たときは「仮想通貨はこれほど根本的な変化を実現できるものなんだ」と驚きました。当時下記の通り記事も書いています。
そしてつい先日、5月7日に行われたのがPectoraアップデートです。この成功を受けてEthereum価格は急伸。約20%上昇し、日本円で33万円を回復しました。
Ethereumの各アップデートの狙いと背景
これまでのアップデートの狙いと流れを簡単にまとめると次のようになるでしょう。2015年のFrontierから稼働するようになったEthereumは、ワールドコンピューターとしての第一歩を踏み出しました。
ところが2016年のハッキング「The DAO」事件でEthereumコミュニティは重大な判断を迫られます。ブロックチェーンの不変性・改変不能性を重視するのか、ハッキング以前までチェーンを巻き戻すかという選択肢です。結局、Ethereumはチェーンの巻き戻しを選択し、アルゴリズムが法なのではなく、コミュニティのコンセンサスによって過去の状態を変更できるというガバナンス的カルチャーが共有されました。
2016年〜21年は、EVMの強化がメインの改良でした。ビザンチウムやコンスタティノーブル、イスタンブールなどがそれにあたります。
続いて取りかかれたのがプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行です。Londonによって手数料の仕組みが変更され、ETHのバーンを可能にしました。これによりETHは流通量が増え続けるインフレ的資産から、流通量が減るデフレ資産への可能性をひらきました。合わせて、メインチェーンと並行して稼働していたのがPoSのBeacon Chain Genesisです。これが一つにまとまったのが2022年のThe Merge。BitcoinのようなPoWから、PoSに移行し、エネルギー消費が99.95%削減されました。インフレも止まり、より持続可能性の高いチェーンへと移行したのです。
PoWへの移行は段階的に進みました。PoSのためのバリデータノードになるのは32ETHをロックする必要がありますが、これによる報酬の受け取りは2023年のShanghaiまで待つこととなったのです。
2024年からの開発のメインはL2の強化です。Ethereumはスマートコントラクトプラットフォームとして最大手のポジションを占めていますが、最大の課題は処理速度とコストでした。そこに高い処理能力と低コストをウリにしたSolana、BSC、Avalancheなどの競合が登場します。2022〜2023年のDeFi-SummerでEthereumの手数料は高騰し、ユーザーはこうした代替チェーンに流出しました。2024年にはSolanaは日次アクティブユーザーでEthereumを上回るほどでした。
Ethereumは速度強化のアップグレードにも取り組みましたが、なかなか成果は出ず、世間の認識はL1(レイヤー1)ではSolanaなどに勝てないというところです。EthereumはL2(レイヤー2)で処理速度アップを狙う流れになりました。L2とは、本線とは別のバイパスのことで、本線の堅牢性は保ったまま、その上で高速な処理を行うという考え方のものです。
現在EthereumのL2には、Arbitrum、Optimism、zkSync、StarkNet、Polygon zkEVMなどの複数のソリューションが存在し、それぞれが独自の技術や特徴を持っています。これらのL2ソリューションは、取引速度、ガス料金、低コスト化などの面で競争関係にあり、切磋琢磨しています。
しかし、Ethereumの戦略はこれらを単に競わせるのではなく、Optimism Superchainのような共通の標準を通じて統合する方向にあります。ウォレットやアプリが「どの L2 がいま空いていて一番安いか」を自動で選んでくれる設計が進行中で、数年後には 送金ボタンを押すだけで裏側で最適な L2が選ばれ、本線へ安全に記録される——利用者はチェーン名を気にしなくなる可能性が高いといわれています。
また2024年春の「Dencun」アップグレードで、L2 がイーサリアム本線に情報を書き込むコストが100倍ほど安くなりました。2025 年以降、イーサリアムはさらに“道路合流レーン”を広げる計画があるので、数円→ほぼ無料レベルまで下がると期待されています。これによって、別チェーンに引っ越す理由が薄れると期待されています。
ワールドコンピューターとしてのEthereumはデータセンターを超える
このように、世界最大規模のスマートコントラクトプラットフォームでありながら、根幹から作り変えるような大規模な進化を続けているのがEthereumです。
生成AIの発展もあり、現代はデータセンターが非常に重要なインフラとなっていますが、ワールドコンピューターとしてのEthereumはある意味でデータセンターを超える規模になっています。
Ethereumのネットワークは、世界中に分散された約1.4万のノードで構成されています。それのノードは世界中に分散しており、地理的な多様性と耐障害性を備えています。極めて堅牢な仕組みが根幹にあります。
Ethereumのブロックチェーンは、毎日約150万件のトランザクションを処理しており、スマートコントラクトの実行によって生成されるデータはペタバイト級に達しています。これは、大規模なデータセンターのデータ処理量に近づいています。例えば、Googleのデータセンターは1日に数十ペタバイトのデータを処理しますが、Ethereumも分散型ネットワークとして同様に膨大なデータを扱っています。
2022年の「The Merge」以降、EthereumはProof of Stake(PoS)に移行し、エネルギー消費が大幅に削減されました。年間のエネルギー消費は約2.62テラワット時で、これは大規模なデータセンター(Googleの年間約12テラワット時)に比べて非常に効率的です。
コンピュータ資源で見ると、イーサリアムは「中堅〜大規模データセンター1サイト分」程度のサーバー台数で、世界最大級のスマートコントラクト基盤を回しています。しかも電力は たった1棟のDC並みで済む ――PoSに切り替わったおかげで、エネルギー効率は通常のクラウドより桁違いに高いのです。そしてデータは PB(ペタバイト)級を全ノードが丸ごと持ち合うため、可用性は“クラウドの多重バックアップ”をさらに上回ります。
最近は「◯◯をブロックチェーンで」と言われることが本当に減りましたが、使い所によっては唯一無二なのがスマートコントラクト。その可能性はまだまだこれから花開くと思っています。