FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

レイ・ダリオが語る米国の国家破綻論は、無視できない

最近、また債券投資に関する取材を受けました。日米の国債から社債まで、また短期から長期まで、幅広く実際に投資している投資家はレアなのでしょう。取材の事前調査をする中で、最も気になったのがレイ・ダリオが新著で語る米国の国家破綻説です。

『How Countries Go Broke』(なぜ国家は破綻するのか)

おなじみヘッジファンド「ブリッジウォーター」創業者のレイ・ダリオ氏は、『How Countries Go Broke』(なぜ国家は破綻するのか)という本を6月に上梓しました。

この本のメッセージは、米国は深刻な債務危機の直前にあり、今すぐ赤字削減に取り組まなければ、3年程度で経済が心臓発作に見舞われるリスクがある、というものです。世界はトランプ関税の行方でもちきりですが、米国内の事情ものっぴきならないものになっています。

米国は過去最大級の財政赤字

まず押さえておかなくてはいけないのは、米国の財政赤字がひどいということです。2024年の財政赤字は2兆ドルを超え、経済が堅調なのに歴史的な酷さです。議会予算局(CBO)の長期予測によれば、現在の政策が維持された場合、公的債務残高の対国内総生産(GDP)比は、第二次世界大戦直後の記録を更新し、2055年までには156%という前例のない領域に達すると見込まれています。

米国の連邦債務は今後とも増加の見通し。米国:連邦政府債務残高(GDP比)

Fidelity International

 

ざっくりイメージすると、

  • 米国の収入 5兆ドル
  • 米国の支出 7兆ドル
  • 財政赤字 2兆ドル

この2兆ドルは国債を発行して借金するしかないのですが、さらに既存の借金の返済もあります。

  • 債務返済 9兆ドル
  • 利息   1兆ドル
  • 財政赤字 2兆ドル

合計で1年で12兆ドルの国債を発行しなければありません。すでに債務総額は36.6兆ドルにう達しています。FY2024終了時点で、GDP比債務残高は123%、市中保有債務に絞ると約100%でした。日本の債務/GDP比である約249.7%に比べればまだいいといえるかもしれません。

 

しかし高金利の米国では債務は急速に膨張します。高金利の元利息は急速に拡大し、2025年は対GDP比で9520億ドル=約1兆ドルとなっていて、すでに国防費やメディアケアの支出を上回っています。その後も増加は続き、2035年には1.8兆ドル(対GDP比4.1%)、2055年には5.4%に達する見込みです。それにより、今後30年間で債務は30兆ドルから138兆ドルへと拡大、GDP比債務残高も156%に達するとCBOは予測しています。

米国は、利払い費が国防費を上回る。財政と覇権に黄色信号。米国連邦政府の国防費と利払い費

Fidelity International

米国の信用力低下

この財政状況の悪化は一時的なものではなく構造的なものです。これにより、米国の信用力そのものも低下してきています。象徴的なのが米国の格下げでしょう。

 

2011年のS&Pによる格下げに続き、2023年8月にはフィッチが格付けをAA+に引き下げました。そして2025年5月、ムーディーズが格付けを「Aaa」から「Aa1」へと引き下げ、史上始めて米国は三大主要格付け機関全てから最上級の信用格付けを失いました。

 

すでに国債の大量発行に対して、需要の減退が見られつつあります。最近、FRBの証券ポートフォリオを管理・運用するニューヨーク連銀が、米国債の入札において落札金額が増えているのだそうです。

これは一部では「ステルスQE(量的金融緩和)」と呼ばれています。

米国債入札におけるニューヨーク連銀の落札シェア

Fidelity International

 

国債の大量発行という政府による大規模な借り入れは、貸付可能資金の奪い合いになります。つまり金利が上昇し、民間の借り入れが困難になります。これは「クラウディング・アウト」と呼ばれ、長期的な経済成長の低下につながることが指摘されています。研究では、公的債務の対GDP比が1%ポイント上昇すると、長期金利は3〜5ベーシスポイント上昇するとされています。

 

また財政赤字は、政府支出の増加を通じて需要を刺激します。つまり需要過多によるディマンドプルインフレの火種になる可能性があります。

トランプ氏の狙い

さて、このように政府債務が悪化する中で取れる手はいくつかしかありません。支出の削減、増税、低金利誘導、インフレ化です。この中で、支出の削減は政治的にきわめて難しい。そして減税路線をウリにしてきたトランプ氏としては増税も難しいでしょう。そのため、実質的には米国民に対する増税となる関税策により税金を確保しようとしているのではないかと思います。

 

もう一つ、トランプ氏はFRBパウエル議長に継続して利下げを要求しています。これはシンプルな話で、利下げすれば米国債の利息も減るからです。

 

これはどこかで聞いた話ですね。そう、対GDP比200%を超える債務の利払い負担を軽減すべく、低金利政策を推し進めた日本です。その結果起きたことは、通貨安です。アベノミクス下で日銀は国債から株からさまざまな金融資産を買ってQEを行い、YCCで国債を買うことで金利を抑え、利払いの増加を抑え込みました。結果、円は力を急速に失い、急激な円安になりました。

 

また、インフレも高止まりするでしょう。通常インフレ抑制には金利を上げるわけですが、政府債務の観点からは金利は上げたくないし、インフレは債務の実質的な削減にもなります。インフレ、すなわちそれはドルの価値低下であり、その意味でもドル安が進むということです。

 

これから米国で起きることは、アメリカ版アベノミクスなわけです。

レイ・ダリオが教えるこれからの投資戦略

ではどうしたらいいのか。まずおさらいとして、この政府債務の膨張は構造的な問題であり、一夜にして改善することはないということです。レイ・ダリオは以前から債務サイクルを元にした経済観を語っており、米国ではこのサイクルが最終段階に来ているといことです。


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レイ・ダリオだけでなく、主要投資会社も財政状況に懸念をいただきつつあります。

  • 株式は、堅調な経済成長やAIによる生産性向上をテーマに、特に大型優良株が好調。ただし高いバリュエーションと政治の不確実性からボラティリティへの警戒感も
  • 債券は、デュレーションよりもインカムを優先。大量の国債発行を背景に長期国債への投資を避け、短期から中期を選好。長期国債はもはや伝統的な安全資産ではないという見方
  • イールドカーブは、財政・インフレの不確実性を背景に、不安定。投資家は長期債に対する追加利回り(タームプレミアム)を要求するため、カーブがスティープ化する傾向

では最後にレイ・ダリオの処方箋はどのようなものでしょうか。

Q9: How should investors navigate this risk/be positioned going forward?

As general advice, I suggest diversifying well in asset classes and countries that have strong income statements and balance sheets and are not having great internal political and external geopolitical conflicts, underweighting debt assets like bonds, and overweighting gold and a bit of Bitcoin. Having a small percentage—maybe 10-15%—of one's money in gold can reduce a portfolio's risk, and I think it would also raise its return.
一般的なアドバイスとして、資産クラスや国の多様化を勧めます。特に、収支計算書や貸借対照表がしっかりしており、内部の政治的紛争や外部の地政学的紛争が少ない国を選ぶべきです。債券などの債務資産の比重を減らし、金や少量のビットコインの比重を増やすことを推奨します。ポートフォリオの10~15%程度を金に投資することで、リスクを軽減できるだけでなく、リターンも向上すると考えています。

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つまり、米国集中を避け、中国のような統計が怪しい国、地政学的に紛争リスクのある国を避け、債券投資を減らし、金やビットコインの比率を上げろといっています。

 

個人的には(防衛費絡みで制約を緩めたものの)厳しい財政的なリミッターを課しているドイツおよび欧州あたりは面白いかも。金やビットコインはぼくはもうけっこう持っている(BTC+ETHで15%、金が4%)ので、タームプレミアムが上昇してスティープ化することを考えるなら、長期債を売却して短期債に乗り換えることを真面目に考えようと思います。ドル安が見込まれるという意味では、円建てやユーロ建て資産に移すことも一案です。また金のポジションを倍くらいまで増やすことも考えようと思います。

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