九条です。FIRE後の自由な生活をベースに、投資・税制・制度・クリプト・法人運営を考えるブログです。 利回りや還元率の表面ではなく、税引き後の手取り、制度の前提、リスクと不確実性を見ながら、自由を増やす方法を書いています。

バケツ戦略とは誰のためのものなのか

バケツ戦略にロジックを与えようという記事が、久々にはてブでバズりました。ただ、付いたコメントを見ていると、どーにも前提条件が共有されていないような感じなので、ここで「バケツ戦略とは誰のためのものなのか」をまとめておきたいと思います。

暴落しても回復するまで現金で耐え忍ぶ、バケツ戦略

まずバケツ戦略とは、資産のうち一部を現金同等物+債券など低リスクな資産で持ち、残りを株式などリスク資産で保有するというポートフォリオの組み方を指します。もし株式が暴落しても、株式を取り崩すことなく現金を使って生活し、株式市場の回復を待つというものです。

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バケツ戦略が必要な意味

では、なぜバケツ戦略が必要なのでしょうか。FIRE――でなくてもリタイア後、最も怖いのはこれから取り崩しで生きていかなくてはならないのに、大暴落が来ることです。リタイア直後に暴落がくると、資産が大きく減ってしまいますが、生活のためには安くなった株を売却して生活費を出さなければなりません。

 

数年後、株式市場が回復したときには、取り崩しによって資産額が減ってしまっていて、株価が戻っても資産額は元に戻らない。こういうことがあり得ます。

 

リタイア後の投資戦略では、これはシーケンスリスク(Sequence of Returns Risk)といいます。確率的に、株式は高いリターンとマイナスリターンがあり、全部均すと年率6-7%くらいのリターンが得られると過去のデータは言っていますが、その順番は未知数です。前半に上昇相場が来て、後半に下落相場が来るのであれば、リタイア後の資産額は安泰ですが、前半に下落相場が来て後半に上昇相場が来ると、これは困ったことになります。想定よりも資産の減りが早くなってしまうのです。

 

リタイア後の最大のリスク*1は、手持ちの資産が死ぬまで保たないことです。労働をしていない身では、資産が尽きてしまえば明日を生きることができないので、これが最も恐るべきことになります。そして、シーケンスリスク、取り崩し初期に暴落が来るというのは、このリスクを増大させてしまうのです。

バケツ戦略は耐える時間を与えてくれる

言ってみればバケツ戦略とは、このシーケンスリスクに対処するためだけの方法だといえるでしょう。退職後、暴落がきても、現金と債券を短期・中期バケツとして持っておけば、株式を売却する必要がないからです。株価が再び回復し、プラスに転じるタイミングまで、株を売らずに生活できれば、致命的なことにはなりません。

 

この理屈から、短期+中期バケツには、過去暴落から回復するまでに必要な期間、生活できるだけの現金(+債券)を入れておけばいいということになります。この時間的猶予を得るのがバケツ戦略の最重要ポイントとなります。

 

ただ、ここで重要なのは「株価は本当に回復するのか?」という点です。いわゆる幾何ブラウン運動モデル(GBM)では、下がった株価が回復するという理屈はありません。高い株価のときも低い株価の時も、そのあと上がるか下がるかはどう確率だからです。ただ、ぼくらは直観的には、下がった株価は回復するし、上がり続けた株価はいずれ下がると感じています。これに理屈をつけられないか? そう考えて書いたのが、将来キャッシュフロー割引モデル(DCF)を前提とした株価バリュエーション循環モデルです。

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ただ、これは取っても論文ちっくなので、厳密でなくていいのでもう少し意味合いが分かるといいと思い用意したのが、対話による説明のこの記事でした。

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バケツ戦略がいる人、いらない人

このように背景を書くと、ではどんな人にバケツ戦略が必要で、どんな人には不要かが分かります。

 

まず必要なのは、リタイアしてシーケンスリスクによる資産枯渇を恐れなければならない人です。リタイア直後に暴落が来ると、人生設計が狂う。それを避けるためには市場回復まで生きられるだけの現金、株を安い価格で取り崩さなくても大丈夫なだけの現金を保有しようというわけです。

 

逆に、取り崩しが要らない人にはバケツ戦略は不要です。例えば、資産形成期の人は取り崩しではなく積み立てています。暴落している株が安い時期は取り崩しには最悪ですが、積み立てには最高です。現金による保険を持つことは高価は精神安定剤の意味しかなく、理論的にいえば株式フルインベストがベストでしょう。

 

またリタイア済みでもバケツ戦略の必要性が低い人もいます。高配当や不動産賃料などでキャッシュを得られていて、株を売却しなくても生活ができる人です。市況に関係なく株は売却しないのですから、これもキャシュを保有する意味は薄くなります。

 

もう一つは、暴落が来ようが安いところで株を売ろうが、別に死ぬまで資産がつきない規模の資産を持つ場合です。相続で残せる資産は減ってしまうリスクはありますが、自分が使う分が足りなくなる恐れはない。こういう人の場合、やはりバケツ戦略は不要です。

 

まとめると、

  • リタイアしていて
  • 生活には取り崩しが必要で
  • 初期に暴落が来ると資産寿命が自分の寿命より短くなってしまう

人の場合は、バケツ戦略に一定の合理性があります。そうでなければ、株式フルインベスト、また残り時間によっては債券と株式をミックスしたポートフォリオがベストということになるでしょう。

 

誤解しないでほしいのは、バケツ戦略は資産形成期の人には関係ない戦略だということ。また、期待リターンの最大化を目指すものではないということです。リタイアした場合、期待リターンの最大化よりも、破綻リスクの極小化のほうが重要になります。この2つを取り違えると、少しチグハグな議論になってしまうのです。

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*1:ここではボラティリティという意味ではなく。