FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

「暴落で3兆円の富が消失」したとき何が失われたのか? 『お金のむこうに人がいる』

株価が大きく下がったときに「この下げによって3兆円が失われました」なんてニュースが流れます。一瞬ですごい金額がなくなるんだな……なんて感想とともに、「あれ? でもこの失われた3兆円っていったい何だろう?」と思ったものです。あなたは何が失われたと思いますか?

お金を落としたり災害で街が壊れたり

「富が失われた」とはどういう意味でしょう。例えば自分の財布からお金を落としてしまったというようなときは、お金という富が失われた分かりやすい例ですね。また、例えば災害が起きて「復興には100億円かかる見込みです」というときも、あぁ100億円分の建物とかインフラとかが失われたんだなとシンプルに分かります。

 

でも、株価が下がることで失われた富とはなんでしょうか? 誰の何が失われたのでしょうか。

 

確かに株主の帳簿上の資産額はそれだけ失われました。株の値下がによって、500万円だった資産額が400万円になれば、「100万円が失われた」といってもおかしくはありません。

 

でも、災害があったわけでも戦争が起きたわけでもありません。株価が下がったって、人々は以前と同じように働いて生活しています。株価の下落でいったい何の富が失われたのでしょう?

架空の虚の富なのか?

では株価が表す富というのは、架空の富であって、現実のものではないのでしょうか? だとすれば、株価暴落で失われた富が架空であるように、株価上昇で増加した富も幻なのでしょうか?

 

もしかして「含み益は幻。確定して始めて現実」なんていわれるのは、こういうことを指しているのでしょうか?

 

所詮、紙の上の権利に付けられた価格です。これが値上がりすることで富が増加し、これが値下がりすることで富が減るなら、ポケモンカードの値上がりは富を生んでいるのでしょうか? ポケモンカードと株の違いはどこにあるのでしょうか?

お金とは肩叩き券である

昔から「暴落で富が失われた」というニュースを聞くたびに、こんなことを思ってました。そんなときに、目からウロコが落ちるような一冊に出会って、ぼくの疑問はかなりの部分が解消されました。田中学氏の『お金のむこうに人がいる』です。

本書は「第1話 なぜ、紙幣をコピーしてはいけないのか?」で、本質的にお金とは何なのかを解説しています。その答え、お金とは「肩叩き券」なのです

 

は?と思ったかもしれません。そのくだりを引用してみましょう。

母の日にあなたが1回30分の肩たたき券を10枚プレゼントする。さっそく母親が1枚使う。

(中略)

ところが、4枚目のチケットを使ったのは、隣の家に住むおばさんだった。彼女は庭の柿を母親に10個あげたらしい。そのお返しに肩たたき券を2枚譲り受けたというのだ。

(中略)

6枚目、7枚目と知らない人の肩叩きをしたあと、誰も肩叩きを依頼してこなくなった。あなたの肩叩きが街中で大評判になり、残りの3枚は紙幣のように出回っているらしい。今や、街中のみんながその紙に価値を感じている。そのチケットが道端に落ちていたら、誰かに拾われて財布の中にしまわれるだろう。

しかし、この道端に落ちているチケットを破り捨てたい人物が一人だけいる。あなた自身だ。あなたにとっての肩たたき券は、30分ただ働きさせられる厄介な存在になる。

なんかわかります? よく紙幣は借用証書だと説明されます。紙幣を発行するとは借金を増やすことだなんていわれたりもしますね。理屈的にはなんとなく分かっても、この意味を直感的には理解できていませんでした。

 

でもこの話を読んで、やっと腑に落ちました。お金、いやすべてのチケットというのは「将来の約束」(肩たたき券なら、いつか行う肩叩き)のことを指すのです。

お金が将来約束しているもの

例えばコンサートチケットなら「◯月◯日にコンサート会場に入れる約束」を紙にしたものです。では株券は何でしょうか? これは議決権を別にすれば、「将来の配当をもらえる約束」を紙にしたものですね。

 

このようにさまざまなチケットは、いずれも現時点での消費ではなく、将来のなにかを約束したものになります。

 

では現金は何の約束をしたものなのでしょう? それを理解するには、すべての商品やサービスが人間の労働によって作られていることを確認しましょう。100g500円のステーキ肉は、その裏側にあるさまざまな人たちの労働の合計でできています。

 

人だけでなく機械とかも必要だと思うかもしれませんが、その機械もだれかの労働でできています。「機械を購入するには資本が必要だ」なんて言われますが、資本が機械を作るわけではありません。その資本によって労働する人が、機械を作るのです。

ここでステーキをお金で買うとはどういうことを意味するでしょうか。ステーキの500円は、各段階で積み上げられた誰かの労働の対価としてわたっています。そう、ステーキを通じて、ぼくらはお金と誰かの労働を交換しているのです。

 

別の言い方をすれば、お金は誰かの将来の労働を約束したものだというわけです。

 

これが本書のタイトル『お金のむこうに人がいる』の意味です。そして、お金を使うというのは、モノを買うということではなく、その先にある誰かの労働を買うことだというふうに世の中の見方が変化するわけです。

あなたが消費しているのは、お金ではなく、誰かの労働だ。

お金のむこうには必ず「人」がいる。あなたのために働くひとがいる。

個人にとってのお金の価値とは、将来お金を使ったときに、誰かに働いてもらえることなのだ。

富とは労働力とその成果だ

この本は別に道徳の本ではないので、「お金を粗末にしないようにしましょう」とか「働く人への感謝を忘れずに」とかいうことを書いているのではありません。

 

そうではなく、お金=誰かの労働の約束 だと捉えると、いろいろ経済事象が見えてくるという話なのです。

 

例えば、いくらお金を持っていても無人島に行ってしまえばお金は無価値ですね。それはお金をもらって働いてくれる人がいないからです。

 

では投資というのは何でしょう。それは今誰かに働いてもらうことを諦めて、将来働いてもらう約束を取り付ける行為です。人類が豊かになるためには、将来に向けて研究したり開発したりして効率をアップさせるために労働する人が欠かせません。しかし、誰かが”投資”にお金を使ってくれなければ、そうした将来に向けた労働が行えません。

 

投資というのは、そうした未来のために労働を回す行為でもあるのです。

10代のときに読みたかった

この年になって目からウロコが落ち、小難しい理屈の話がやっと腑に落ちたわけで、本当ならこの本を10代のときに読みたかったと思います。数式やら専門用語は何も出てきません。でも、経済の本質について芯から理解しなければこのような解説はできないと思います。

 

最後に各章のタイトルと、そこに出てくる経済クイズをいくつか抜き出しておきます。正解はぜひ本書を買って確認してみてください。

  1. なぜ紙幣をコピーしてはいけないのか?
  2. なぜ、家の外ではお金を使うのか?
  3. 価格があるのに価値がないものは何か?
  4. お金が偉いのか、働く人が偉いのか?
  5. 預金が多い国がお金持ちとは言えないのはなぜか?
  6. 投資とギャンブルは何が違うのか?
  7. 経済が成長しないと生活は苦しくなるのか?
  8. 貿易黒字でも、生活が豊かにならないのはなぜか?
  9. お金を印刷しすぎるから、モノの価格が上がるのだろうか?
  10. なぜ、大量に借金しても潰れない国があるのか?
  11. 未来のために、お金を増やす意味はあるのか?

日本中の人が紙幣を使い始めるようになったのは、どうしてだろうか?

  • 金に交換することができたから
  • 税金を払わないといけないから
  • 日本銀行がその価値を保証しているから

新国立競技場建設には1500億円かかった。では、エジプトのプラミッドの建設にかかったお金は、現在のお金に換算するといくらだろうか?

  • 4兆円
  • 1250億円
  • 0円

1万円の福袋を買ったら、高価そうなジャケットが入っていた。あなたは得をしたのだろうか、損をしたのだろうか?

  • ジャケットの定価による
  • ジャケットの原価による
  • ジャケットを気に入るかどうかによる

社会全体のお金を増やすにはどうすればいいだろうか?

  • 銀行に預けて利子をもらう
  • みんなが働いてお金を稼ぐ
  • 基本的には増やすことはできない

社会全体の預金を増やすために必要なことは何だろうか?

  • たくさん働いてたくさんお金を稼ぐ
  • お金を投資に回さずに預金として銀行に眠らせておく
  • 誰かに借金をしてもらう

日本政府が借金を増やすことは将来世代を苦しめるのだろうか?

  • 当然、苦しめる
  • そのお金で何を作ったかによる
  • そのお金で誰に働いてもらったかによる