久しぶりに『アルファを探せ!』を再読しました。現代ポートフォリオ理論とかに関心のある人なら、CAPMや市場平均のリターンを示すβ(ベータ)、そして市場平均を上回る超過利益であるα(アルファ)のことを聞いたことがあるでしょう。
αを探せ!最強の証券投資理論――マーコヴィッツからカーネマンまで
- 作者: ベン・ウォーウイック,遠坂淳一
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2003/08/22
- メディア: 単行本
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本書は前半で、どんなに企業分析をしたりトレンドを追っても市場平均には勝てないということを、豊富なエビデンスで示します。この考え方が浸透していった結果、TOPIXやNYダウ、S&P500などの株価指数に連動するインデックスファンド、そしてその上場版であるETFが規模を増してきました。
2017年7月のWSJバロンズの記事によると、
日本では、運用資産の67%がパッシブ運用だが、市場はまだ機能しているようにみえる。米国では運用資産に占めるパッシブ運用の割合は37%で、市場に影響を及ぼすには低過ぎるという議論も一部にはある。
と、特に日本ではインデックス運用=パッシブ運用が人気なのがわかります。
とはいっても、投資は、パッシブ運用によって市場平均のリターンしか取れないものなのでしょうか? 本書は後半で、市場平均を超えるリターン、α(アルファ)はどこに潜んでいるのかの可能性をまとめています。
裁定取引は、2市場間での価格差を見つけて、高い方で売り、安いほうで買うことでαを得ようというものです。電子市場が中心の今では、価格差はアルゴリズム取引で瞬時に解消され、価格差自体も小さいため、超過収益はたいへん小さいものになります。そのため大きなレバレッジをかけて年率8%程度の利益を作っていく戦略ですが、レバレッジの大きさからリスクも高いとしています。
一方で、裁定取引があるおかげで、市場間の価格が適切に調節されるとともに、市場に流動性をもたらしているというメリットがあることも忘れてはいけません。ちなみに、仮想通貨市場においては、法定通貨(フィアット)との交換に各国でさまざまな制限あるため、市場間での価格差が大きなまま放置されています。また、現時点ではBitcoinとアルトコイン、アルトコイン同士についても市場間の価格差があり、アービトラージの対象としては面白い市場だと思います。
3ファクターモデルは、アノマリーと呼ばれるもので、原因は不明ですが、偏った価格付けがされているとみられる要素を指しています。「市場ファクター」は債券に対する株式の超過リスク、「規模ファクター」は大型株に対する小型株の超過リスク、「バリュー・ファクター」は成長株に対する割安株の超過リスクを指しています。この超過リスクがαを指します。
バリュー・ファクターを利用している投資家としてはウォーレン・バフェットが有名ですね。
先物取引は、チャート分析を中心としたトレンドフォロー戦略が使われることが多く、そこにαの可能性があります。もっとも、効率的市場仮説信奉者にとっては、株価にはすべての情報が反映されており、動きはランダムであるという立場なので、トレンドフォロー戦略に本当にαがあるのかは賛否両論というところでしょう。
また、差金決済の仕組み上、信用取引に比べてレバレッジがかけやすく、少ない資金で運用できること、また他の資産と値動きの相関が低いことから、ポートフォリオに組み入れることでよい分散が行えるメリットがあるとしています。
本書は2003年の出版で、Amazonでは中古のみ、5500円台の出品となっています。古い本ではありますが、現代ポートフォリオ理論の概略から、αという考え方、その源泉がどこにある可能性があるかまで、非常にコンパクトにまとまった一冊だと思います。
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