米国ではセミリタイアのことを「FIRE」と呼ぶそうです。FIREはFinancial Independence and Early Retirementの略で、経済的独立と早期リタイアという意味になります。
彼の国では、事業などで財をなして引退する、という風土があり、FIREへの関心も高いようです。実際、FIREに関するブログやFIREを実現するためのシミュレータなども数多くあります。今回はその中から、「FIRECalc」を紹介したいと思います。
こちらは、名前そのまま “FIREする” ために十分な資産があるかを試算してくれるサイトです。最大の特徴は、計算式に則って計算するだけでなく、100回程度の試算を行って、グラフで見せてくれるとともに、資産がゼロになる可能性が何パーセントかも示してくれることです。
トップページ右側に「Start Here」と書かれたボックスがあります。ここに、下記の数字を入れます。単位は米ドルです。
- Spending 毎年必要なお金
- Prtfolio 現在の資産
- Years 引退後、何年生きるか
そして「Submit」ボタンを押すと、結果が表示されます。
For our purposes, failure means the portfolio was depleted before the end of the 35 years. FIRECalc found that 46 cycles failed, for a success rate of 58.9%.
うーん。かなり厳しい結果が表示されました。シミュレータは112回の試算を行い、インフレを調整し、ポートフォリオのリバランスも行い、35年分を計算しました。結果、46回の試算で失敗=資産ゼロ となりました。成功(=35年間資産がゼロにならず過ぎる)する確率は58.9%だそうです。
なぜ複数回の試行が必要かというと、たとえ平均して年4%の利回りが出る投資でも、ボラティリティがあるからです。平均4%利回りでも、大きく上回ったり、大きく下回る場合があります。
上記の「複利の力〜税金繰り延べとリスクが蝕むリターン」に書いたように、リスクが高い=ボラタリティが大きい場合、それはリターンを蝕みます。上記の例では、1年目上昇、2年目下降、3年目上昇……となった場合の概念図でしたが、実際には乱数を用いてボラティリティの変化を見る必要があります。この複数回の試行を行うことをモンテカルロ・シミュレーションといいます。
米国のFIRE関連コンテンツでは、しばしば「4%ルール」ということが言われます。これは平均的なポートフォリオであれば年4%の利回りは得られることから、年間支出を資産の4%で賄えば、資産を減らすことなく生きていけるはずだというロジックに基づいています。資産を全く運用せず4%ずつ取り崩したとしても25年は暮らせるわけで、とても論理的なルールだと思います。
ところが、FIRECalcに資産の4%の支出を入れてシミュレーションを回してみると面白いことが起きます。
こちらは100万ドル(1億円相当)の資産に対し、毎年その4%(4万ドル=400万円相当)を使っていった場合の25年試算です。すると122回の試行のうち2回は資産がゼロを割ってしまいました。成功確率は98.4%です。これが運用によるボラティリティによるリスクだといえるでしょう。
もちろん、平均すると25年後に総資産は172万ドルに増えており、4%ルールで暮せば、資産が増加する可能性が高いことがわかります。ちなみに、5%支出でシミュレーションすると、25年後資産の平均は110万ドル前後となり、だいたい横ばいの推移となります。ただし約19%は資産がゼロを割っており、リタイアが失敗することも分かります。
シミュレーションを何度も回すことで、何歳に資産がどれくらいあれば、どのくらいの支出レベルでリタイアできるか分かるわけです。面白いですね。
↓FIRE Calcにインスパイアされてモンテカルロ法を使ったセミリタイアシミュレータを作りました。