前回の「元日経記者でもインデックスには負ける」の続編です。前回は、元日経記者の投資リターンは、実はインデックスを下回っていたということを計算してみました。つまり、いろいろ策を弄した結果、放ったらかしよりも収益が悪化したということです。
ではなぜそうなってしまったのか。元日経記者の投資に関する考え方を読み解いていくと、金融理論的にはあれ? と思うようなことが、一般投資家の普通なんだろうということが見えてきました。
例えば、目標リターンへの考え方です。
株取引に付随するハイリスク要因をできるだけ封印し、石橋をたたいて渡るような用心深さで株を運用する。その結果1割程度の利益が得られれば、「御の字」ではないか。
リスクを減らして、なおかつ10%の利益を生むというのは、非常に難しいことです。ルネサンステクノロジーのようなごく一部のヘッジファンドやウォーレン・バフェット1を除けば、プロの投資家でもほとんど実現できていません。
2012年からの6年間でいえば、バフェットのリターンが約17%、S&P500が14%と、市場全体が好調でしたので、年10%の利益を出すことは難しくありませんでした。下記は、2012年からのS&P500(赤線)とウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ(青線)のパフォーマンスです。
もう少し長期だとまた変わってきます。こちらは2000年から2018年までの18年間の
S&P500(赤線)がとウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイ(青線)のパフォーマンスです。S&P500が年率約4%、バークシャー・ハサウェイが約8%の平均リターンでした。
このくらいの長期で見ると、年率10%の利益を出すことがいかに難しいかよく分かります。「リスクを抑え石橋を叩いて」結果10%の利益を出せるなら、ウォーレン・バフェットになれます。
「石橋を叩いて渡る」ということは、元本割れを起こさないことです。とはいっても株式投資ですので、「100%元本割れなし」というわけにはいきません。元本割れした場合は、できるだけ早く元本回復のための対策をすることが必要です。
元本割れを起こさない資産は、基本的に米国債などです。そして、米国債のパフォーマンスはこの20年ほど良くても4%程度でした。
もう一つ、安い価格で買って高い価格で売ることを作戦としていることです。原料を購入して付加価値を付けて売る場合は、付加価値分だけ高い価格で売れます。そういう意味では、安い価格で買って高い価格で売るのは商売の基本でしょう。しかし、株式の売買では、購入した個人が付加価値をつけることはほぼ不可能です。
そして、効率的市場仮説のウィーク型でも、過去の価格情報は現在の価格に盛り込まれていると考えます。つまり、いまが高いか安いかは判断できないというのが妥当です。
別の言い方をすれば、株価は、「高いと思っている人が売り」「安いと思っている人が買う」それがバランスした点になっています。つまり、絶対的に「いまが安い」とは誰もいえないのです。言えるとしたら、他の人が持っていない情報に基づいて判断することになります。
「安値買い、高値売りで差益を得ること」を大原則とする
市場経済は市場参加者の競争が原則ですから、できるだけ安い価格で仕入れ、できるだけ高い価格で売ることに成功した者だけが勝者になれます。しかしこれは簡単に見えて、実はなかなか難しい。市場にはさまざまな人が参加してきます。
「自分がどう予想するかではなく、世間一般の人々がどのように予想するか」という考え方は、ケインズの美人投票を表しているともとれますし、モメンタムのアノマリーをアルファとして投資するとも取れますが、そこが難しいところだったりします。
株価の動きを予想する時に肝心なことは、自分がどう予想するかではなく「世間一般の人々がどのように予想するか」を予想することが重要なのです。
専門家の発言があてにならないのは事実だとしても、だからといって素人のほうが当たるわけではありません。奇しくも、株価の変動はランダムだと言っているようなものです。そこには、ギャンブル的なチャンスはありますが、10%の利益を生み出せるようなエッジがあるという理由にはならないはずです。
毎日の株価予想をしている専門家に聞いても、短期的な株価動向を正確に言い当てる確率は「フィフティ・フィフティ(50対50)だ」と言っています。「それでは、ズブの素人とあまり変わりがない」と言えばその通りです。正確な予想が難しいからこそ、素人にもチャンスがあるのです。
そして、最後に一般投資家のマインドをうまく表していると思ったのが、下記の部分です。株価が上昇しているときは関心が高まり投資をする、株価が低迷しているときは関心が低下すると書いています。
ところが、こうした株価が低迷しているときが絶好の買い場であり、こういうときこそ株を持ち続けるべきなのです。金融理論では、投資のリターンは、(想定リターン)✕(投資期間)で決まります。世間の関心が低いときも継続して投資し続けることで、初めて想定に近いリターンを得られるはずです。
当然のことですが、株価が低迷している時は世間の株への関心も急速に低下します。私も例外ではなく、ゼミ生の卒論指導や環境改善運動に取り組むISO学生会議の学生たちと学内の省エネ活動や毎年12月に東京ビッグサイトで開かれる「エプロダクツ」への出展指導などに没頭し、株は“遠い世界の話”として私の意識の中から消えていったのでした。
ただし、株価の動きにはモメンタムがあるというアノマリーが報告されています。つまり、上がり始めたら想定されるよりも強く長く上がり続けるということです。そういう意味では、株価が不調なときは休み、株価が上がり始めたら投資するという戦略が誤っているわけでもないでしょう。
言い換えれば、バブルが始まったらそれに乗り、ほかのみんなが「まだ上がる」と考えているタイミングで降りる。こんな投資手法を意味しているのだと、勝手に理解しました。