ピケティの『21世紀の資本』を改めて読んでいます。この本、これだけ話題になったのに、実は読んでいない人が多いということで有名です。700ページを超える本なのでわからなくはないですが、複数の人から「r>g という式が一番重要。この本、表紙以外見る必要ないよね」と言われると、なんだかなと思います。
さて、21世紀の資本では、経済や格差の問題について豊富なデータをもとに議論をしているわけですが、その中に労働分配率の話が出てきます。社会が生み出した富は、労働者への報酬として給与などで分配される部分と、資本に対する報酬として配当や家賃などで分配されるものに大きく分かれます。このうち、労働者への分配の比率を労働分配率といいます。
この労働分配率、長期でみると減少が続いて来たのですが、昨今再び上昇しつつあるというのです。これは何を意味しているのでしょう?
極端な話、機械やAIによって完全自動化された産業では、労働分配率はゼロになります。人間への給与は不要だからです。
一方で、産業において人間が果たす役割が大きくなれば、労働分配率は上昇するでしょう。いくら資本で機械やコンピュータを買っても、富を生み出せないということだからです。
労働分配率が上昇してきている背景は、農業や製造業といった分野の比率が減少し、サービス業の比率が上がっている点にあるのではないかと思います。農業や製造業では、機械化によって人間の手がかからない生産が可能になっています。この100年ほどで見ると、いかに人間を機械に置き換えるかの歴史だったといえるでしょう。ところが、サービス業では、主役は人間です。下記の産業別GDPの推移を見ると、「情報通信産業」が大きく上昇しているのが分かります。
※総務省データより作成
情報通信産業においては、当然主役は人間です。情報処理が産業の中心になるにしたがい、お金の払い先も機械や土地ではなく人間がメインに変わっていったのだと想像できます。しかも、情報通信産業では情報の分析や応用が中心なので、高付加価値となり、給与水準も高くなるでしょう。
ただし今起きているAI革命は、この情報通信産業の人間がやっていることを機械に置き換えようというものです。するとどうなるか。
情報通信産業の中でも、すべての人間が情報を分析したり戦略立案をやっているわけではありません。かなりの数の人が、いわゆる事務作業に従事しています。RPAやAIはこれらを真っ先に機械に置き換えるわけです。つまり、情報通信産業の中でも、機械ができる仕事とできない仕事に2分されることになります。
結局、情報通信産業の重要性はさらに高まるにもかかわらず、それに関わる人は減少していく可能性があります。そして関わっている人は高いスキルを求められる高給取りになっていくのでしょう。これは格差の拡大を意味します。
先日、『本当にこの世界は「簡単なこと」ができない人で溢れていると思う』という記事がありました。
この「簡単なことができない人」にも、情報通信産業は事務処理という仕事を提供できていたわけです。おそらく、それがAIによって破壊されます。
結局、残るのは事務処理ではない、真の意味での接客業になるのでしょう。例えば、真に顧客のエージェントとして動く営業マンは残るでしょう。小売でも、レジ打ちはレジ無人化で消滅するでしょうが、お客さんにアドバイスができる売り子は残るでしょう。キャバクラとかバーの店員も大丈夫そうです。そう考えていくと、現在「接客業」と呼ばれているものの大部分が、実は事務処理なのが分かりますね。
こういったトレンドによって、「情報通信産業」のGDP上昇は続くでしょうが、その利益はごく一部の高給取りと、この業界の株主に利益として配分されていくのだと思います。