FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

貯蓄系保険は投資信託+保険の劣化パッケージ

先日、ファイナンシャル・プランナーの方から「変額保険」の提案をもらいました。セールストークを味わいながら、なるほどこれは……と思ったので、変額保険の内容を分析してみました。

変額保険とは?

通常の保険では、解約時の返戻金の額は固定されており、年数によって金額が決まります。一方で変額保険とは、運用成績次第で返戻金の額が変わるという保険になります。「インフレに強い」とか「金利変化に強い」などのセールストークで売られますが、要するに、投資信託+保険 の組み合わせ商品になります。

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保険見直し本舗より

 

月額1万円の変額保険だとしたら、ざっくりとしたイメージは、そのうち4000円が保険料にまわり、残り6000円が返戻金に向けた投資信託にまわる感じです。と、そのように思ったので、実際の見積もりを元にシミュレーションしてみました。

実現利回りで返戻金が変わる

まずは保険会社からもらった返戻金額の年別推移をグラフにしてみます。この提案では、月額1万1315円(年間13万5780円)を保険料として払い込みます。そして保障は35年間で、死亡した場合には500万円が支払われるというものです。

 

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青線が払込額です。35年間で475万円に達します。他の線は返戻金額です。返戻金の額は、どのくらいの利回りで運用できたかで変わります。緑色の線が2.75%で運用した場合で、33年を超えるとかろうじて払込額累計を超える返戻金を受け取ります。利回り-2.75%(赤線)はもちろん、利回り0%(黄色)でも返戻金は払込の額にまったく足りません。唯一、5%で運用できた場合は、35年目で払込額の約2倍の返戻金が得られます。

 

「投資信託で運用するわけだから、株式を中心に運用すれば平均リターン5%はいけるだろう。ならば、保険も付いていて、払込額の2倍はいいじゃないか!」。こう思う人は、保険のセールストークにひっかかる人でしょう。

同様の返戻金を得るにはいくら投資したらいいか

ひるがえって、ではこれと同じを投資信託に入れたら、どのくらいのリターンになるのか見てみましょう。まずはリターン0%の場合です。

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普通に運用した場合の赤線に対して、青線は大きく下回っています。35年めで実に162%の差です。利回り0%で計算していますから、要はこの差分が保険会社の取り分と保険料に回っているわけです。

 

では逆に、同額の返戻金を得るには、どのくらいの額を毎月投資したらいいのかを計算してみます。保険のほうは返戻金額が曲線になるのでぴったりにはなりませんが、ざっくりと計算すると、こうなります*1

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グラフがほぼそろうこの値は、7万5780円です。年間保険料13万5750円の56%の金額で、返戻金はほぼ同じになるわけです。逆にいうと、年間保険料は6万円(月額5000円)という計算になります。

 

では、2.75%のリターンを想定した場合はどうでしょうか。

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こちらは7万7780円です。実質の年間保険料は5万8000円(月額4833円)という計算になりました。

 

続いて5.5%リターンの場合です。

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こちらは8万6280円です。実質の年間保険料は4万9500円(4125円)という計算になりました。

 

つまり、変額保険が、投資信託+掛け捨て保険だと考えた場合、保険部分は月額4125円〜5000円の価値とほぼ同等というわけです。実効利回りによって返戻金が変わるために保険部分の価値も変動しています。

同額の掛け捨て保険の値段は?

では、35年保障期間の死亡時500万円の保険は月額いくらでしょうか? ライフネット生命でシミュレーションした結果が下記です。ずばり、月額4241円でした。

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なるほど、利回りにもよりますが、ほぼ保険料は、変額保険の実質保険料部分と変わりません。

 

改めて、月額4241円を掛け捨て保険で支払い、残額を投資信託に入れた場合(バラしたプラン)と、全額を変額保険に入れた場合を比較してみます。35年目の金額で比較です。すると、

  • 利回り-2.75% バラしたプランが+26万7488円
  • 利回り0%   バラしたプランが+36万3827円
  • 利回り+2.75% バラしたプランが+48万6340円
  • 利回り+5.5% バラしたプランが▲15万1858円

となりました。多くの場合、バラバラにした場合のほうがリターンが大きいのですが、利回りが高かった場合は、変額保険のほうが返戻金が高くなりました。

まとめ:変額保険は劣化パッケージだがそこまでひどくない

実はちょっと意外な結果でした。変額保険で運用するよりは、投資信託+掛け捨て保険のほうが圧倒的に有利になると想像してシミュレーションをはじめましたが、そこまで変わらないどころか、変額保険のほうが有利になる場合もあったからです。

 

さらに、変額保険が有利な点がもうひとつあります。それは受取時の税金です。投資信託は利益に対して約20%の税率となっています。一方で、保険の返戻金は、一時所得が基本です。一時所得は、受取額から50万円を引いて、その半分の額に対して所得税が発生します。実質、所得税率が20%なら10%ということです。そして、35年後の退職しているであろうタイミングでは、所得額が小さいため累進課税的には所得税率が低くなっている可能性が高く、さらにその半分なので税金が安くなります。

 

先の5.5%利回りの場合、約500万円の差益となりますが、一時金の場合、そこから50万円を引いて450万円、その半額で225万円です。年金などの雑所得も入れて控除額を引き、それが330〜695万円以下なら税率は20%ですので、住民税10%も入れると、ざっくり67.5万円です。

 

これが投資信託だと、500万円の差益に直接20%の源泉分離課税がかかり、100万円の税金です。約33万円の違いは小さくないですね。

 

また、所得税と住民税に対する生命保険控除もあります。先の月額4241円の場合、所得税に対する年間生命保険控除額は3万2723円ですが、変額保険だとマックスの4万円になります。その差、7277円。23%の所得税率なら、年間1673円の節税です。35年だと、5万8000円くらいになりますね。

 

一方で、35年保障の保険金500万円の掛け捨て保険として、ライフネット生命で金額を出しましたが、これが割高の可能性もあります。より安い掛け捨て保険があれば、投資信託+掛け捨て保険の自力パッケージのほうがお得になるはずです。

 

さらに、実はシミュレーションに組み入れられていないコストもあります。「保険契約の締結および維持に必要な費用(払込額から控除)」と「死亡保険金・高度障害保険を支払うための危険保険料に相当する費用(積立額から控除)」です。おそらくそれぞれコンマ数パーセントだと思いますが、「被保険者の年齢・性別・保険期間等によって異なります。また、積立金額や被保険者の年齢によって変わるため保険契約締結後も変動します。そのため、費用を具体的な金額や割合で表示することはできません」と隠されています。実際にパラメータが多くて表示できないのでしょうが、目安となる値もないので隠されているとしか言いようがありません。

 

こうしたコストも入れ込んだ場合、本当にシミュレーションどおりに変額保険のパフォーマンスが出るのかはわかりません。何より、投資信託と保険がパッケージになっているので、コスト面で不透明なところが多く、それが最大のデメリットですね。

 

↓バラした場合とパッケージの変額保険でほぼ変わらないならバラしたほうが透明性が高くていいですね。

kuzyo.hatenablog.com

 

 

*1:なおこの計算では、「保険料払込の免除費用」として保険料を払い込む際に0.2%が控除されるのと、「保険金額を保証する費用」として積立金額から年率0.375%が控除されるのを補正しています。