以前、「複利の力」について書きました。アインシュタインが「人類最大の発明」と言ったように、複利で資産運用すると驚くべき効果がもたらされます。
今回はその逆、複利で運用するとしたら今の1万円はどれだけの価値を持つか? を考えてみます。
妥当な利回りの見込として、5%としてみましょう。すると今日の1万円を複利運用すると、10年後には1.6万円になります。20年では2.6万円、30年では4.3万円になります。逆に、10年後にもらえる1万円は、現在では6200円の価値しかありません。20年後の1万円は3800円、30年後の1万円は2400円の現在価値(NPV:Net Present Value)になります。
この将来の金額を、複利運用を前提に現在の価格に計算し直すことを「割り引く」といいます。よく「老後には3000万円が必要」などと言われることがありますが、老後が20年後にやってくるなら1140万円があればいいし、30年後にやってくるなら720万円でいいのです。
このことから、お金を使うときの洞察が得られます。例えば100万円で車を買おうと考えているとします。この100万円は現在では100万円ですが、車を買わずに複利で運用したら30年後には430万円になるわけです。現在の車と、30年後の430万円。どちらが魅力的かを考えて購入を決断する必要があります。
別の見方では、その100万円は毎年5万円を産んでくれます。その車を永遠に使えるとしても、1年間車に乗る価値と、毎年の現金5万円と、どちらが魅力的かを考えなければなりません。
若いときに使う1万円の価値は大きく、老後に使う1万円の価値は小さい。大学生のときに比べて定年後のお金の価値は約7分の1になるのです。しかも死んでしまったらお金は使えませんから、老後のお金の価値はさらに小さいとも言えます。
年をとるほど複利の力で資産は増えていく。ただし年をとるほどに死んでしまう可能性が上がる。年5%の複利で運用できるとして、厚生労働省:平成27年簡易生命表を参考に死亡率を加味して資産価値の変化を計算してみます(男性の場合)。100万円の資産が見込まれても、死亡率が50%だったらその価値は50万円とするという定義で計算しています。
なかなか面白いグラフになりました。資産は複利の力で増えていくのですが、死亡率が急上昇することで想定価値が急低下し、ほぼ全員が死んでしまう100歳超えでは資産価値も(死んでしまう可能性が高いので!)ほぼ0になります。
分岐点が来るのはちょうど80歳。80歳を過ぎたら、複利運用で富がもたらされる可能性よりも、死んでしまい富を使えない可能性のほうが高まっていくともいえそうです。
ちなみに10%で運用できるとピークが変わります。その時のピークは85歳。20%で運用できると90歳となります。また、2%運用だと逆にピークが若くなり70歳、3%だと78歳でした。定期預金並の0.5%だと早くも55歳でピークとなります。
この計算ロジックによると、将来に向けて貯蓄して運用することで意味があるのは80歳まで。そこから先は貯蓄によるメリットを死んでしまうデメリットが上回ってしまいます。運用技量がなく定期預金で生きていくなら、55歳を過ぎたら貯金などやめて、使いたいだけ使っていくほうが効果的にお金を使えるといえるかもしれません。
なお、当たり前のことですが、これは生活必要資金以外のお金をどのタイミングで使うのが最も効率的かを表現しているものなので、生活資金を使ってしまわないでくださいね!