『AI時代の新・ベーシックインカム論』を読み、たいへん中身に共感しました。ベーシックインカムとは何かから始まって、議論に必要な内容がコンパクトにまとまっています。
- 第1章:ベーシックインカムの基礎的な説明
- 第2章:どんな制度にしたらいいのか
- 第3章:財源をどうするのか
- 第4章:AI時代になぜベーシックインカムなのか
- 第5章:思想的にベーシックインカムは受け入れられるのか
それぞれにかなりラディカルな提言がされており、知的に興奮する内容でしたが、多くの人が「そうだよね」と納得しそうな4章から感じたことをまとめてみます。
まず世の中の利益が、どのように分配されているかを見てみましょう。利益は、労働の対価、資本の対価、そしてそれぞれから徴収される税金に分けられますが、そのトレンドは下図のようになっています。
所得は「資本の取り分である利子・配当所得」と「労働の取り分である賃金所得」の二つに分けられる。前者の割合は「資本分配率」、後者の割合は「労働分配率」という。社会が脱労働化していくということは、資本分配率が100%に近づいていき、労働分配率が0%に近づいていくことを意味する。
要は、資本家が機械を作ってものを生産しようとしたとき、機械を動かす人が必要でした。そのため、利益が上昇するに従って、一定の割合(労働分配率)を働く人に賃金として払わなければなりませんでした。ところが、AI時代では機械をAIが動かすようになります。すると、利益のほとんどは資本家のものになり、労働の対価はほとんどなくなってしまうという話です。
もちろん、AIが進歩したからといってすべての仕事がAIに取って代わられるわけではありません。AI自体がAIを作り出すというシンギュラリティまでは、AIを作る人、その人をマネジメントする人が必要です。
ところが人間の仕事は、大きく下記の3つに分類されます。このうち、(2)の事務労働はRPAに代表されるように現在の特化型AIでも置き換わりが始まっています。(1)の肉体労働は自動運転やロボットなどが普及するまで、まだまだ人間の仕事として残るでしょう。(3)の頭脳労働はシンギュラリティまで残る仕事ですが、事務労働をしていた人が頭脳労働に移るのは簡単ではありません。
- 肉体労働
- 事務労働
- 頭脳労働
では、このくらいの人数が頭脳労働者として働けるのか? 現在の就労者のうち頭脳労働者の割合は全人口の1割程度だと筆者はいいます。しかも頭脳労働のほうが高所得なので、労働の対価をごく一部の頭脳労働者が独占し、肉体労働者の所得は非常に少なくなるという構造になります。
AIが普及することで、会社から月々サラリーがもらえるような安定した普通の仕事はなくなっていく。そしてクリエイティヴな仕事だけが残るとするならば、所得の分布は図表22から図表23に移り変わっていくだろう。ほとんどの人々にとっては食っていけない地獄のような社会となる。
資本家というすでに富んでいる人の富がさらに増大し、AIの進歩が中間の事務職を破壊することで一部の高所得者の給与がさらに増大する構造は、貧富の差の拡大を加速させます。
一人ひとりの戦略としては、資本家としてAIを活用する立場になること、またAIに代替されないような頭脳労働者としてのスキルを身につけること。この2つに尽きます。しかし、社会全体としては、貧富の差の増大によって、多くの人にとってモノはあふれるのにそれを買う収入がない、という状況になります。これを避けるにはベーシックインカムしかない、というのが筆者の主張です。
刺激的な話ですが、AIの影響が何をもたらすかについては、同意される方が多いと思います。では、ベーシックインカム導入に対しての思想的批判をどう考えたらいいか? それが第5章の主題になっています。