プライベートバンカー 脅威の資産運用砲を読みました。海外のプライベートバンクで活躍した筆者の資産運用方法を具体的な事例を交えてまとめたものです。ちなみに、対象となる顧客は、金融資産1億以上ということなので、いわゆる富裕層と呼ばれる人たちです。
本書の内容をおおざっぱにいうと、海外法人設立による節税とレバレッジによる債券運用パフォーマンス向上になります。そして冒頭から最後まで、日本の銀行や証券会社などがいかに投資家との利益相反関係にあるかが説かれています。
海外法人設立による節税
資産運用における最大の障壁は、銘柄選択でも市況の読みでもなく、税金と手数料です。そして日本の税金は超高額とはいえなくても、世界の中で格安というわけでもありません。海外の例えばイギリス領ヴァージン諸島(BVI)などにオフショア法人をたちあげ、そこを経由して生命保険に入ったり投資を行うことで大きく節税ができる手法が書かれています。
いかに税金を減らすかは、日本においては累進課税である総合課税で稼ぐのではなく、源泉分離課税のキャピタルゲインを利用したり、法人化して経費が使える状態に持っていくことが重要だと以前に書きました。
オフショア法人の設立はそれをさらに推し進めた方法だといえます。自分でオフショア法人を立ち上げるのはかなり難易度が高い印象がありますが、ネットでちょっと検索するだけで立ち上げをサポートするサービスは数多くあります。プライベートバンクであれば、立ち上げ後の税務手続きなども代行してくれるのでしょうから、ワンストップサービスとしては楽ちんです。
ただ、本書には「プライベートバンクは預入資産に対するパーセンテージが報酬となる」と記載されているだけで、実際どのくらいのコストが必要になるのかが書かれていません。
プライベートバンカーが書いた本ではなく、プライベートバンクを使ってみた書籍『勝者1%の超富裕層に学ぶ「海外投資」7つの方法』では、コストについて次のように書かれています。
一般的にPB(プライベートバンク)業界では、顧客の預入資産総額に対して年間1%程度の手数料収入を得ることを目標としており、営業員ひとりで200〜300億円の預かり資産(つまりは年間2億円以上の手数料収入)を持つことができれば一人前だと言われています。
つまりプライベートバンクが顧客のためにオーダーメイドの投資をやってくれるのは事実ですが、数億円程度の資産ではお決まりのパッケージしか期待できないのが実情なわけです。
レバレッジによる債券運用パフォーマンス向上
もう一つのプライベートバンクの魅力は、レバレッジ運用です。たとえば利回り3%の1000万円の債券を買ったとします。国内であれば、それで終わりですが、この債券を担保に900万円を借り入れてさらに同じ債券を買います。するとレバレッジ効果により、利回りは5%超まで向上します。ここから900万円の借入金利を払っても合計でプラスになるという手法です。
本書では、3%の債券ではなく8%程度の利回りが見込めるハイイールド債への投資を例に説明をしています。これは、3ヶ月ものドルLIBOR(インターバンク取引金利)が2.27%まで上昇しており、プライベートバンクなどの貸出金利はLIBOR+1%程度が標準なので、3.3%まで上がっているためだと思われます。
さてこのレバレッジですが、日本の金融機関では債券や株式に対して担保価値を認めないために利用ができません。日本ではとにかく土地というのが現実です。
ところがプライベートバンクを利用しなくても、海外の証券会社を使えばETFなどの金融資産に対しても借入を起こしてレバレッジをかけることができます。例えば、日本語で口座開設ができることで有名な米インタラクティブ・ブローカーズ証券では、債券だけでなくETFなども担保としてレバレッジがかけられます。
しかも預入資産1億円を超えていれば、貸出金利はLIBORやFFレート+0.5%未満という非常に有利なレートでレバレッジをかけられます。先の『「海外投資」7つの方法』の筆者玉川氏も書いていますが、プライベートバンクよりも貸出金利は安いでしょう。
ワンストップサービスは魅力。ただし個人でもできなくはない
まとめると、プライベートバンクが提供してくれるサービスは日本の金融機関では実現できないことが多くあります。ただし、1億円以上の金融資産が前提ですし、5億以上くらいないとゴミ顧客扱いを受ける可能性も高いと思われます。
また、債券のレバレッジ運用についてはもっと小さな資産でも海外の証券会社に口座を開くことで、個人でも実行できます。ただし、海外証券会社での取引にかかる税金はけっこう不利ですので、オフショア法人とのセットというのは魅力的です。
このオフショア法人の設立も含めてパッケージで提供してくれる点では、プライベートバンクは魅力的です。また、海外の生命保険を活用した相続税の大幅削減プランも、相続税に悩む人にとってはよい選択肢となりそうです。
ただしぼくのように会社や不動産資産がなくペーパーアセット中心で、かつ特に相続することなく死ぬ前に資産を使い切ろうと考えている場合はあまり関係がないですが。