『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』の書評続きです。前回はこちらになります。
誤解3:チャートで未来は分からないが現状理解に有用
金融理論をもとにした本らしく、本書はチャート分析で将来の株価がわかるという説には与していません。ただし、チャートの全てが無駄ではないと説きます。
企業の長期的価値に着目する場合、チャート分析はあまり重要性を持たない。一方で、多少なりとも相場の流れを捉えようとする場合、チャート分析は重要なツールになっていると考えられる。
市場の大きな動きがあったとき、そのトレンドを理解するのにチャートを有効活用するということです。ただし、その具体的な方法はあまり書かれておらず、ちょっと消化不良なパートでした。
誤解4:「円=安全通貨」説を解き明かす
為替を動かすメカニズムはたいへん複雑でしかも面白いものです。このパートでは、「円=安全通貨」説のメカニズムを解き明かしています。まず、「安全」という言葉にあまり意味はありません。世界一の経済大国であり軍事大国のアメリカの通貨が強い=高いことはありませんし、経済成長著しい中国の通貨も1980年代から大幅に安くなりました。
では、株価下落や市場不安が高まるとなぜ円が買われるのでしょうか? 著者はこの原因をキャリートレードに求めます。キャリートレードとは、低金利通貨(例えば円)で資金を調達し、その円を売って投資先の通貨を買い、新興国の債券や株式に投資することを指します。
このキャリートレードを行っているときに、投資先の債券や株に変調が起きると、ポジションの巻き戻しが起きます。先程と逆で、新興国などの債券や株式を売り、その代金で円を買うという動きです。これによって、円買い需要が高まり、円高になるというわけです。
とはえ、キャリートレードのボリュームは、為替市場を一気に動かすほどではありません。実際は、このキャリートレードの動きを期待し、周囲の為替トレーダーが円高を予測して円買いに動くことで、円高に動くということになります。経済の実態というよりも、期待と思惑で動くのが為替市場です。
誤解4−2:金利が上がるとなぜ通貨は高くなる?
もう一つ面白いのが、金利が上がると通貨が高くなるという現象です。
たとえば、米国の国債利回りが一定で、日本の国債利回りだけが上がると、その分米国債に対する日本国債の投資妙味が増す。だからグローバル投資家が、米国債を売って日本国債を買い増すために円を買うために円高になる、と。これも実態とは随分かけ離れた説明だ。
ヘッジしないで日本国債を買うということは、為替レートの変動リスクにさらされます。そして、為替レートの変動幅は、通貨間のわずかな金利差よりも大きいのが普通です。つまり、高金利を享受しようと思っても為替リスクのほうが大きくなるわけです。
それでも、金利が上がると通貨の価値が上がる、というシナリオに沿って動く投資家は数多くいて、その「期待」によって実際に通貨の価値が上がるわけです。ただし短期的には、ですが。
誤解4−3:為替相場は長期的に購買力平価に収斂していく
では為替レートは長期的にはどのように決まるのでしょうか? 長いスパンで見ると、為替レートは購買力平価に連動するというのが歴史的な事実です。購買力平価(PPP)とは、ビッグマック指数で有名な、実際のものの値段をベースにした通貨の価値になります。
こちらは、購買力平価(PPP)とドル円の推移を1973年から追ったものです。長期トレンドで連動しているのがわかります。この購買力平価とは、言い換えればインフレ状況を表します。
購買力平価が下がるということはモノの値段が下がるということです。つまりデフレですね。逆にインフレが進むとモノの値段が上がります。これは通貨の価値が下がることを意味します。二国間で考えた場合、インフレが進む国の通貨価値は下落し、デフレ国の通貨価値は上昇します。長期スパンの米ドルで起きていることはまさにこれですね。
今後、長期の為替レートを考えた場合、米国でインフレが進み、日本でデフレ脱却ができないなら、購買力平価の差異はさらに開き、つまりさらに円高が進むことが考えられます。ドル建て資産をかなり持っている身としては、もしドル円が50円まで下落したらドル資産の価値は半減です。
とはいえ、株価以上に予測が難しいのが為替です。過度に振り回されないようにしたいと思います。