インデックス投資を調べ始めて実感したのは、世間でよくいう「株で儲ける方法」と、インデックス投資は根本的に考え方が違うことです。世間でいわれる株の儲け方はこんな感じですね。
- 安い時に買って高い時に売る
- 損切りが重要
- 相場は休むことも大事
ところがインデックス投資では全く違うことを言います。
- 安いか高いかは誰にも分からない
- 下がったら買い増しのチャンス
- 常に投資し続けることが重要
安いか高いかは分かるのか
最初の「安い時に買って高い時に売る」は確かに確実に儲かります。問題は、いまが安いのか高いのかが分からないことです。
考えてみてください。「安い時に買う」ということは、相手は「高いので売る」と思っています。「高い時に売る」場合、相手は「安いので買う」と思っているわけです。同じ価格であっても、人によって高いか安いかは評価が違っています。だからこそ、取引が成立するわけです。
つまり、「安い時に買う」というのは、高いと思って売っている人は間違っていることに賭けることになります。誰かが得すれば誰かが損する。そんなゼロサムゲームの世界がここにはあります。
そんな背景から、金融理論では「効率的市場仮説」というい考え方をします。これは、完璧ではないにせよ、いまの価格は概ね妥当で、高くも安くもないという考え方です。(もっとも完全に効率的な市場を信じている人は学者でもいません。市場には非効率な部分=アノマリーが残っていると考えられます)
効率的市場仮説を信じるなら、株なんていつ買っても妥当な価格ということですね。それがインデックス投資の基本的な考え方です。
損切かナンピンか
株価が大きく下落したとします。この時にどうするかも、株の人とインデックスの人では考え方が違います。
株の人は、しっかりと損切りをします。買値から10%下がったら自動的に売却する、とか最高値から10%下がったら売却するとか、そういうことですね。ここで、下がったからさらに買い増そうというのはナンピンといって悪手とされています。
一方で、インデックス投資の場合、資産全体を見て、もし下がっている資産クラスがあったら、上がっている資産クラスを売って、下がっている資産クラスを買い増します。これによって、資産クラスごとの比率を一定にするのです。これをリバランスといいます。
背景には2つの要素があると思います。1つは、個別の企業の株の場合は確かに損切りが大事だろうということです。個別の企業は、不祥事や悪決算で株価が大きく下がる場合があります。そしてそれは構造的な問題で、もう元には戻らないかもしれません。そうした危険な企業の株は早めに処分(つまり損切)してしまうほうが安全です。
一方で、インデックス投資の場合は、株式であっても複数企業が含まれている何らかの指数に投資しています。ここでは、個別の企業の業績が悪化したとしてもその影響は限定的です。仮にその企業が倒産してしまっても、新たに指数に組み入れられる企業が出てきて、指数自体は概ね経済に連動すると考えられます。そのため、経済がおかしくならない限り、指数はいつかは戻ってくると確信できるわけです。
アセットアロケーション
もう一つの背景は、アセットアロケーションの考え方です。個別株では、複数の株式を持つことの相互の影響はあまり考えませんが、インデックス投資では、複数の資産クラスを組み合わせてアセットアロケーションを決定することをよくやります。
例えば、株式60%+債券40%とか、株式30%+債券40%+不動産20%+金10%とか。構造の違う資産を組み合わせてポートフォリオを組むことです。
これをするメリットは、相互に値動きが連動しない資産を組み合わせることで、リスクが打ち消されることにあります。マルチアセットを最小分散法で組み合わせるということです。これは、リターンはそのままにリスクを減少させるということを意味していて、どのように組み合わせたら最もリスクあたりのリターンが大きいかは、効率的フロンティアと呼ばれたりもします。
このアセットアロケーションに基づいてポートフォリオを作るというのが、インデックス投資において最も頭をつかうところです。「どの会社の株が上がる」とか「これから世界経済はどうなる」ではなく、どのような組み合わせが最もリスクあたりのリターンが高いか(シャープレシオが高い)を考えるのです。インデックス投資では、このアセットアロケーションがリターンの90%を決める、ともいわれています。
そして、最適な比率のポートフォリオを作っても、資産ごとに値段は動きますから、そのうちに比率が崩れてきます。そのときにリバランスをして比率を戻すことになります。比率を戻すということは、高くなっている資産を売って、安くなっている資産を買うということですから、損切りの逆、ナンピン買いをすることになるわけです。
相場は休むべきか続けるべきか
最後は市場との向き合い方です。株投資では、市況が悪いときは休むことも重要だと言います。特に四半期ごとの結果をチェックされる機関投資家と違い、個人投資家は別に1年全く投資をしなくてもいいわけです。
ところがここには、「現在の市況は悪い」という判断が入っています。それが分かるなら苦労しない。誰にもそれは分からないと考えるのがインデックス投資家です。
だから、インデックス投資家は常に市場に資金を置き続けます。歴史的に株価の上昇と下落は特定の数日で起きているからです。『敗者のゲーム』には、株価が上昇したベストの何日かを逃した場合にどのくらいリターンが減ってしまうかが28年間のデータに基づいて書かれています。
年収益率(%)
S&P500(基準) 11.1%
ベスト10日を逃した場合 8.6%
ベスト20日を逃した場合 6.9%
ベスト30日を逃した場合 5.5%
いつ上がっていつ下がるかは誰にもわからないけど、たまたま市場にいなかった時に株価が上がったら影響は甚大だということです。当然上のデータは暴落した日も入れてのことなので、暴落があったり株価上昇があったりするが、休んだことで上昇を逃すくらいなら、暴落を織り込んだ上で市場に居続けるべきだというのがインデックス投資家の考え方です。
だからこそ、暴落で怖くなっても、資産が半分になっても、インデックスはV字回復して成長軌道に乗ると信じて、持ち続けることが重要だといわれるわけです。
取引コストに対する考え方
もう一つ、両者の違いはコストに対する考え方にもあります。思うに、数ヶ月かけて売買するような株式投資をする人は、取引手数料をそれほど意識しません。狙う利益が大きいため、取引手数料の数百円の差は誤差のようなものだからです。
一方で、デイトレーダーのように数多くの取引でわずかな利益を積み重ねる手法の場合は、取引手数料が重要な点になります。
インデックス投資の場合は、長期で得られる利益がわずかなことと、小さな手数料でも長期間に渡る複利効果で大きな違いになることから、かなり手数料などのコストを意識 します。特に重要なのは、毎年、投資残高に応じてかかってくる信託報酬です。
投資信託ではなくETFを使っている場合でも、個別株ではないのでファンドマネージャーに経費を払わなくてはなりません。これが信託報酬です。コスト競争が進んだ結果、年間米国株インデックスなどでは0.04%まで低下しましたが、投資先によっては1%近いものもあります。
仮に信託報酬が1%だと、年間の想定リターンが5%ならその20%を手数料で取られてしまうことになります。これがインデックス投資家がコストを重視する理由です。