ウォーレン・バフェットの有名な言葉に、「理解できないものに投資するな」があります。これは1992年の株主向け書簡からでしょう。
"We select our marketable equity securities in much the way we would evaluate a business for acquisition in its entirety. We want the business to be one (a) that we can understand; (b) with favorable long-term prospects; (c) operated by honest and competent people; and (d) available at a very attractive price."
ざっくりと訳すとこんな感じでしょうか?
投資の条件は、我々が理解でき、長期的に見通しが明るく、正直で有能な人々が運営していて、魅力的な価格で購入できること
理解できないものに投資しないのと同じように、理解できない商品を買ってはいけません。
なぜその商品は複雑なのか?
どうしてその商品が複雑なのかをまず考えてみます。本質的に複雑さを内在しているもの、例えばオプションの売買などはボラティリティ自体を売り買いしたり、時間的な価値をもっていたりと、本質的に複雑になります。
でもそうではない、本来シンプルなもので、他社はシンプルに提供しているのに、なぜか複雑な商品になっていたら注意が必要です。「ぼくらをだまして高くふっかけようとしているんじゃないか?」と。
- 安くする代わりに2年間の契約が必要です
- セットで販売する機器の補助金を毎月出します
- 家族で入ると割引きます
- etc...
「だまして」は言い過ぎかもしれません。立派なマーケティング手法であり、人間心理の考察にもとづいて作られたプランです。ただし、そのメリットとデメリットを正しく把握するのはたいへん難しく、顧客がめんどうくさくなってそのままにしてくれると、利益が最大化されるようになっているところに特徴があります。
当初はシンプルなプラン「ホワイトプラン」で携帯業界に参入したソフトバンクは、シェアとブランドを獲得するにつれて、他社同様の複雑でわかりにくいプランに移行しました。それはそうです。複雑でわかりにくいほうが儲かるからです。
果たしてこれは安くなったのか?
こうした背景をみた上で、ドコモが発表した新料金プランです。正直、安くなったのか高くなったのかさっぱり分かりません。「シンプル2択」とありますが、正直なところ、これでもまだ複雑です。図の中では、2割〜4割値下げという表現が使われており、マスメディアの社長インタビューでは「業界をリードするために値下げに踏み切った」などと言っていました。
でもネットの反応を見ると、「全然安くなっていない」「他社の後追い」という声も多数あります。少なくとも誰にとっても安くなったわけではなく、一部の人にとっては安くなるが、一部の人にとっては値上げなのでしょう。
ユーザーにとっては、自分が値上げなのか値下げなのかが気になりますし、株主としては値上げの影響と値下げの影響を合算するとどっちが大きいのかが気になります。
どちらにせよ、複雑でよくわからないというのが正直なところです。
シンプルなのは大事
携帯回線というのは、今や電気や水道に近い社会インフラだと思います。それを使わざるを得ないのですから、かかる料金は公正で公平でわかりやすいことが求められます。考えてみれば、電気や水道の料金はそこまで複雑な体系ではないですね*1。
携帯回線については、大手3社がだいたい横並びの複雑なプランを提供しているのに対し、MNVOは比較的シンプルでわかりやすい料金プランになっているのが救いです(Y!モバイルとUQモバイルを除く)。
MVNOの回線は必ずしも品質が良いわけではなく、特にお昼時の速度低下にはうんざりすることもあります。それでも、バフェットにならって、「理解できる商品だけを買う」ことを心がけていきたいと思います。
*1:電力自由化によって、一見安そうで落とし穴のあるマーケティングを駆使した料金プランも出てくるのかもしれません