老後2000万円問題からのち、よく聞くのが老後資金問題です。年金だけでは生きていけないのはかなり昔から分かりきったことだったのですが、みんな知らないか、敢えて意識しないようにしていたのではないでしょうか。
老後資金とセミリタイアは年齢違い
多くの人は、60歳まで働いて、そこからリタイアして老後生活に入ります。このとき、年金と資産で生きていくわけで、そのための資産を用意しておこうというわけです。
これは実はセミリタイアと考え方は同じです。違うのは、仕事を辞めるタイミングが60歳ではなくもっと早くなるということ。40歳とか45歳とか50歳あたりまでが、セミリタイアでしょうか。
とうわけで、実は「セミリタイアできるかどうか」と「老後資金が足りるかどうか」の根っこは一緒です。違うのは、いつリタイアするか? という一点ですね。
必要額を計算するための考え方
この老後資金(=セミリタイア)の場合、必要額の計算は比較的容易です。生活費を把握し、もらえる年金を計算すれば、差額を資産から生み出さなければなりません。資産自体の取り崩しと資産から生まれる収益で、だいたい100歳くらいまで持つことを目指す感じです。
可変できるパラメータは、実は3つしかありません。
- 何歳まで働くか
- 生活費をどのくらいに設定するか
- 投資利回りを何パーセントに見込むか
それぞれもう少し見てみましょう。
何歳まで働くか
一般的には多くの企業の定年年齢である60歳がターゲットでしょうが、セミリタイアの場合、その5年前、10年前、15年前、20年前などがターゲットになります。
長く働くことは2つのメリットがあります。一つはもちろん、その間に給料が得られること。年収300万円でも、10年働くと3000万円です。リタイアしてしまえばこれがゼロになるわけで、働く期間は重要なパラメータです。
もう一つは、働くことで厚生年金の掛け年数が増えることです。厚生年金には簡易な計算式があって、それは、下記のようになります。
- 年数 × 年収 × 0.005481
例えば年収500万円で働くと、1年ごとに2万7405円だけ、年間にもらえる年金が増えるわけです。10年追加で働けば、27万4050円です。これが毎年死ぬまでもらえるのですから、小さくはありません。
小さくはありませんが、大きくもありません。働く年数を1年減らすと、1年あたり2万7405円だけ年金が減るわけです。10年減らしても27万4050円です。65歳から年金をもらいはじめ、20年後の85歳で死んだとすると20年間もらえるわけですが、このとき減ってしまった年金の額は、548万1000円でしかありません。
こと年金だけの話なら、10年早くリタイアすることのデメリットは548万円程度なわけです。しかもこの数字は割引率を加味していません。将来のお金と現在のお金の価値は違うということです。割引率を3%として25年分を割り引いてみると、金額は256万円に減ります。
ここまで考えると、アーリーリタイアによる年金の損失はそれほど大きなものではないことが分かります。
生活費をどのくらいにするか
考えてみれば当たり前のことですが、必要な生活費はセミリタイア/アーリーリタイアにおいて最重要のパラメータです。単純に考えて、生活費が2倍なら必要資金も2倍になります。逆に、生活費を半部に抑えれば、必要資金も半分になるからです。
しかも生活費ほど平均が当てにならないものはありません。それこそ千差万別、人によって違う、です。
一ついえるのは、現役時代の収入の大きな人ほど、生活費が大きくなる傾向にあるということ。たくさん稼いでいる人ほど早くリタイアできるわけではないのです。
そのため、考え方としては、年収の何倍の資産を持っているかが重要になります。年収の20倍の資産を持っていれば、ほぼ間違いなくいつでもセミリタイア可能です。10倍だと怪しくなってきます。
年収で計算するのは簡単ですが正確ではありません。中には年収以上に生活費がかかっている人もいますし、年収の半分くらいしか使わず、半分を貯蓄している人もいるからです。もちろん、簡易的に年収としましたが、その半分を税金などで持っていかれている人もいるでしょう。
現在の自分の生活費がどのくらいか、これを把握することがセミリタイアには非常に重要です。年間生活費の20倍の資産を持っていれば、適切に投資する限り、セミリタイア可能です。さらに年金がもらえる点や、資産を取り崩していくことを加味すれば、もう少し少なくてもセミリタイア可能になります。
投資利回りをどのくらいに見込むか?
投資利回りは、生活費の何倍の資産が必要かに直結します。
例えば、税引き後5%の利回りを実現できるなら、生活費の20倍の資産があれば永遠に資産は減りません。年金を加味しなくても、資産は減ることがないわけです。クリティカルマスを超えた状態です。逆に、税引き後3%ならば、34倍の資産が必要になります。逆数の関係にあるわけです。
もう一つ考慮しなくてはならないのが、ボラティリティ=価格変動です。
もしリタイアする年齢まで10年以下ならば、株式などの長期投資は実は危険だと思っています。株式は長期的にならすと高いリターンを上げてきましたが、10年程度の期間では低いリターンが継続する場合が多々あるからです。
そのため安定的にリターンが出てくる資産の比率を高めることになります。具体的には、不動産、太陽光、債券など。そして100歳まで生きることを考えると、長期投資分として高配当株式などを組み入れてもいいと考えています。
すると、投資利回りは減ってきます。リスクとリターンは基本的に比例関係にあるので、何パーセントが正解というのはありませんが、3%程度が安全域でしょうか。これならば、債券投資や高配当株でも十分に賄うことができます。
すべて株式に投資することで、長期的には6%程度のリターンを期待できますが、平均的に6%となるのは、もしかしたら20年後、30年後かもしれません。資産取り崩しに入っている段階では、これだけ長い期間リターンを待つことはできません。これが、年を取ったら安全資産の比率を増すべき、ということの本質です。