FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

書評『人生100年時代の年金戦略』 年金のIRRを計算する

 『人生100年時代の年金戦略』を読みました。年金というと、「2階建て」がどうだとか制度の仕組みの話が多く、結局よくわからないことが多かったのですが、本書はなかなか分かりやすく、良書でした。

人生100年時代の年金戦略

人生100年時代の年金戦略

 

年金とは保険である

本書で繰り返し書かれているのが「年金は保険である」ということです。保険というのはなにか不測の事態に備えるものですね。ではどんな事態に備えるのかというと、それは「長生き」です。年金とは「長生き保険」だというのが正しい認識です。

 

人生100年時代ということは、60歳で退職したあと40年近くも生きることになります。場合によっては貯蓄があっても足りなくなるかもしれません。そうした長生きリスクに備えるのが年金だと筆者はいいます。 

保険では、「事故」が起きたときに保険金が払われます。年金における事故の1番目は「長生き」

だから、年金が得だとか損だとか考えるのは本来おかしくて、長生きしてしまった場合に備えて保険料を払うというのが基本スタンスとなります。

年金は国民年金+厚生年金

まず国民全員がもらえるのが国民年金です。もらえるということは、国民全員が保険料を払い込む必要があります。その計算式は意外とシンプルでした。

 

まず国民年金の保険料は月額1万6340円で、それを40年間払うのが前提です。

  • 月額1万6340円 × 40年 19万6080円/年、40年で7,843,200円

これでもらえる金額は年額77万9300円です。月額にすると約6万5000円ですね。10年もらうと(時間的価値を無視すれば)払った金額が戻ってくることになります。

 

支払いが40年に足りなかった場合、足りない年数の比率だけもらえる額が減ります。1年分あたり、1万9500円です。ここまではけっこうシンプルです。

厚生年金はプラスの年金

そしてサラリーマンや公務員が追加で加入しているのが厚生年金です。これが国民年金にプラスでもらえることになります。ちょっとややこしい点があります。

 

まず厚生年金は保険料が一定ではなく収入によって変わる点です。収入の18.3%とされています。ただし、実際は雇用主である会社と折半なので9.15%です。年収500万円ならざっくり年間45万7500円です。けっこう多いですね。

 

さらに厚生年金の中から国民年金保険料に相当する部分が払われています。先の計算なら、45万7500円のうち19万6080円は国民年金分、26万1420円分が純粋な厚生年金分となります。

 

この保険料で、年金がいくら貰えるのかというと、実は概算計算式があり、次のようになっています。

  • 年数  × 年収 × 0.005481

つまり、年収1000万円なら、1年間支払うごとに5万4810円が将来年金としてもらえるわけです。10年で54万8100円、20年で109万6200円、40年で219万2400円となる計算です。年収が500万円ならこの半分ですね。

 

年収500万円で40年間働いたとすれば厚生年金が109万6200円、そこに国民年金の77万9300円がプラスされて187万5500円が、毎年もらえる年金になるわけです。

 

ちなみにここでいう年収というのは、額面年収のようです。さらに通勤手当まで含むことに注意が必要です。驚いたことに、遠隔地に住んで通勤手当が高いと、年金の保険料も増えるんですね。まぁその分もらえる額も増えるのですが。

 

標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。なお、年4回以上の支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。

標準報酬月額・標準賞与額とは? | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会

さらにこの年収には上限があって、月額62万円です。賞与抜きで年額744万円ですね。これを超えても保険料は増えません。

年金が基本的にはお得な理由

 筆者は何度も「年金は基本的にはお得な制度」と繰り返します。それはなぜでしょう?

国民年金は、財源の半分が税金でまかなわれていますし、厚生年金は保険料の半分を会社が負担しています。ともに自分が出している保険料は半分だからこそ、その数倍の金額がもらえるのです。

 そう、iDeCoのような私的な年金と違い、厚生年金の半分は企業が負担しますし、国民年金の半分は税金から出てきます。半分しか負担しないわけですから、それはお得になるに決まっています。

 

年金は払わないほうが得かというと、現制度が続く限り、それは払ったほうがまず間違いなくお得だということです。ただし保険だけに、早く死んでしまったら当然損をしますが。

年金によるリターンをIRRで計算すると?

それでも、「いや年金なんて払わないで自分で運用したほうがリターンがいいはずだ」という疑問に対して、支払額と受取額を元にIRRを計算してみました。このIRRを超えるリターンの運用ができるかどうかです。

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総受け取り額でいうと、75歳まで生きればもらう額のほうが増えます。IRRでも同じ時点プラスに転じ、なだらかに上昇していきます。85歳時点で約2%、95歳時点で約2.9%。100歳まで生きると約3%のIRRです。

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なるほど確かに現制度から改悪されないとしても、リターンは大きくありません。3%程度なら、自分で運用したほうが増やせるという人も多そうです。インフレが起こった場合は増額される、運用は20%の税金を取られるが年金は控除がある、といったメリットはありますが、ものすごくお得というわけではないことが分かります。

 

年金を批判する人は破綻ばかりをいい、称賛する人はお得ばかりをいいますが、利回りを計算すると実は大した事がないことも分かります。

アーリーリタイアした場合は? 

こう計算式で見ると、アーリーリタイアした場合の計算もある程度可能です。要は払った年数でもらえる額が変わるということなので、40歳リタイアで20年しか払っていなければ、貰える金額は半分になります。

 

ただし、国民年金のほうはリタイアしても基本的に払わなければいけません。なので、厚生年金+国民年金の半分という計算ですね。ちなみに国民年金は収入が少ない場合は免除申請も可能です。

 

免除申請した場合、保険料支払いはゼロから数割に減りますが、ゼロになっても半分はもらえるようです。理屈としては、半分は税金から出ているので、税金分はもらえるということのようです。申請しないで未払い状態だとこの半分ももらえなくなるので、申請は必須ですね。

 

支払って満額もらうほうがいいのか、免除申請して半額のほうがいいかは、アーリーリタイア組については運用成績が年金を超えられるかどうかという問いになると思います。

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46歳から年金全額免除が通った場合の計算です。免除になっても、半額はもらえるので、意外と影響は小さいです。見ての通り、全期間に渡ってIRRは好転します。IRRがプラスに転じるタイミングも2年ほど早くなります。

 

仕送り制度であるという年金制度の趣旨を考えると、アーリーリタイアして全額免除というのは制度ハックなところがありますが、確かにリターンは大きくなりますね。

※書評の続き

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