世の中にはいろんな投資商品がありますが、気になるのは「営業担当がオススメしてくる商品はひどい商品」なことがほとんどだということです。金融庁は「顧客本位の業務運営」を求め、各金融業者も「フィデューシャリー・デューティー」と言っていますが、未だに「え!?これ売りつけるの?」という商品を勧められることがあります。
その一つが外貨預金です。
見かけの高利回りに騙されない
下記はある銀行の外貨預金の広告です。キャンペーンではありますが、円定期が0.01%という中、なかなかの利回りをうたっています。
米ドルの年2%はともかく、南アフリカのランドとブラジルレアルには注意です。この広告には、小さく、「レアル、ランドは為替レートが大幅に変動するリスクがある点をご理解のうえ、お取引ください。」とありますが、これでは本当のリスクはわからないでしょう。
まずなぜこうした通貨は利回りが大きいのでしょうか?
金利とインフレは中長期では連動する
最初に、どうして通貨によって金利が違うのかを考えてみましょう。
物価上昇の傾向が強くなると人々は少しでも安い値段で早くモノを買おうとするので、お金が使われる。金融機関はお金の流出を防ぐために、より有利な高い金利を預金者に提示する。その結果、金利が上昇する(1973~74年、1979~80年当時の石油危機時代の物価急騰・金利急騰が代表的な例である)。
こうある通り、金利はインフレと連動します。高い金利がついているということは、その通貨がインフレ傾向にあり、つまりどんどん通貨の価値が下がっているということです。
こちらはブラジルレアル/円の5年間の為替推移です。基本的に右肩下がりなのが分かります。5年前、1レアル46円だったものが、現在は25円ちょっと。毎年平均して11%ずつ価値が下がってきたことが分かります。
こちらは同じくランド円の5年の推移です。5年前は1ランドが10.8円、現在は7.3円です。だいたい毎年7%ほど価値が下がってきています。
下記は過去5年のブラジルのインフレ率の推移です。最近では3%程度まで抑え込まれていますが、2016年あたりは10%を超えるインフレだったことが分かります。為替チャートを見ても、その頃、急激にレアルの価値が低下しています。
こちらは南アのインフレ率推移です。現在も4%を超えており、6%超のときもありました。
ちなみに下記はトルコのインフレ率です。低いときでも6%以上、一時は25%まで上がりました。当然、インフレ率が高ければ、定期預金の利回りも上昇し、高利回りになります。
さてこれが外貨預金が高利回りのカラクリです。日本円は、幸いなことにほぼインフレがありません。ないというより、もう少しインフレにしようと日銀が頑張っている状況です。下記が日本の過去5年のインフレ率推移です。現在も0.3%程度、2016年には0%を切っていました。こんな状況では、当然金利もほぼゼロになるわけです。
定期預金は基本的に長期の運用商品です。少なくとも数ヶ月の運用で初めてまとまった利息がもらえます。短期ならばともかく、長期で見ると、得られる金利以上に為替が下がって損失が生まれます。これだけを見ても、外貨預金がマズイ商品なのが分かります。
恐ろしい額の為替手数料
さらに、銀行の外貨預金のデメリットは為替手数料が恐ろしいほど高いことです。下記は新生銀行の為替手数料ですが、1通貨の売買で相当な額の手数料が取られることが分かります。
ドルはともかく、例えば南アランドでは1通貨あたり1円〜50銭のコストがかかります。買って、売ると2回かかるので倍です。南アランドは、1通貨あたりだいたい7〜8円だということを思い出してください。売買で10%近い手数料が取られるわけです。
各銀行ともに、この手数料の高さがハードルになることは分かっており、「買いの場合、為替手数料無料キャンペーン」などをやっていますが、それでも売る際にはこの手数料がかかります。半額になっても、1年分の利子を吹き飛ばすくらいのコストがかかるわけです。
外貨預金に不利な税制
外貨預金のダメさはこれだけではありません。今度は税金を見てみましょう。外貨預金にかかる税金はけっこう複雑です。
まず、得られる利息については、「利子所得」となり、受け取る際に20.315%が源泉分離課税されます。つまり差っ引いた分をもらえるわけです。
そして、為替変動による差益や差損は、なんと雑所得となり総合課税されるのです。雑所得には、「損失通算不可」「累進課税」という大きなデメリットがあります。例えば為替が悪化して損失を出した場合でも、それは利子所得から払った税金と通算できないのです。そして、損失を翌年に繰り越すこともできません。
さらに累進課税なので、給与所得と同水準の所得税がかかってきます。まさに最悪の税制ですね。
外貨預金するならFXをレバレッジ1倍で
高い金利は論理的には為替の変動で相殺されてしまいますが、それでも外貨預金をしてみたいなら、銀行に預けてはいけません。選択肢は、FX一択です。
FXは、高いレバレッジを効かせたギャンブル的なイメージが強いかもしれません。しかし、レバレッジをかけず1倍で運用するなら、かかるリスクは外貨預金と同じになります。具体的には、国内FXでは最大25倍のレバレッジなので、証拠金に加えてその24倍の現金を入金しておけば、外貨預金と同じ1倍となります。
メリットは、外貨預金デメリットの裏返しです。
まず圧倒的に為替手数料が安く済みます。FXでは手数料という形ではなく、買いと売りの差分=スプレッドが実質的な手数料ですが、これは米ドルだとだいたい0.3銭です。売り買いの差なので、往復でかかる手数料がこれだけです。多くの銀行の外貨預金が片道50銭取っていることを考えると、実に300倍以上。これだけでもFXを使う価値があります。
さらに、税金は「先物グループ」の中で合算される、申告分離課税です。他の先物、例えばCFDやオプションなどと損益通算ができ、税率も20.315%固定です。利子に当たるのがスワップポイントですが、こちらも合算して計算します。さらに、損失が出た場合も3年間繰り越しが可能です。
外貨「預金」ということで、日本円の預金のように1000万円までの保護、いわゆるペイオフが期待されますが、実は外貨預金は対象外。銀行だからといって安心できるわけではありません。
外貨預金の場合、通常定期でしょうから満期時にまとめて利子が得られます。しかしFXならば基本的に毎日*1利息がもらえます。すぐに日本円に戻せるので、流動性も抜群です。
見劣りしないFXのスワップポイント
とはいっても、FXをレバレッジ1倍で運用した場合のスワップ利回りはどのくらいになるのでしょうか? これが定期預金よりも低いようなら、ちょっと考えてしまいます。
メジャーどころのFX会社から、各通貨で最もスワップポイントが高いところをピックアップし、直前のスワップポイントが1年間継続した場合を想定して、利回りを計算してみました。
ちなみに、ネット銀行の代表例である住信SBIネット銀行の外貨定期の金利が次の通りです。
スワップポイントの利回りが全く見劣りしないことが分かります。
ちなみに、この利回りですが、レバレッジを2倍にすれば利回りも2倍になります。レバレッジ4倍なら利回りも4倍です。「いくら高金利通貨だといっても、まさか半額にはならない。レバレッジを2倍にしてもロスカットはないだろう」と思って、レバレッジを上げると、だんだんと預金的位置付けから投機的位置付けに変わっていきます。
この点だけは注意が必要ですね。なお、数パーセントの利回りを目指すなら、こういった方法だけでなく、買いポジションと売りポジションを両方取って、スワップ差を利益とするスワップアービトレージもお勧めです。これならば為替変動リスクを打ち消すことができます。
*1:土日はつかないので、その分はまとめて木曜日あたりに付く