FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

貯金と投資のどちらに力を注ぐべきか?『JUST KEEP BUYING』

資産を築いている最中の人にとって、貯金と投資のどちらに力を注ぐべきかは意外と難しい問題です。

  • 投資のことなんか考える時間があったら、本業がんばって給料増やすとか節約して貯金を増やすのに専念すべきだ
  • 貯金じゃ資産は大きくならない。少しでも早くから投資に慣れ親しむことで資産は複利で大きくなる

両方の意見ともに、なるほどと思うところがありますね。ではどうしたらいいのでしょうか? 本書『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』には、その答えが載っています。

資産形成は貯金から始まり投資へ進む

まずどんな投資家も最初は貯金から始まったということを忘れないようにしましょう。人によっては「種銭」なんていうかもしれませんが、最初のお金は貯金なのです。しかし、貯金が進むに連れて金額が膨らみ、運用の果実が大きくなります。そしていつしか、貯金に関係ないほど投資からの収益が大きくなるのです。

 

このように、資産形成は貯金から始まり投資で完成するということを覚えておきましょう。

 

その上で、貯金額を増やすのに労力を費やすのがいいか、投資リターンを増やすのに労力を費やすのがいいのでしょうか? 実はこの本の著者は、若くして脅迫的に投資に向き合っていました。ただし銘柄選定とかチャート分析ではありません。「取引手数料を低く抑える」「分散投資する」「株を長く保有する」という前提のもとで、悩んでいたのです。

当時、私の投資用口座に入っていたのは、たったの1000ドル。にもかかわらず、翌年の投資判断の分析に大量の時間を費やしていた。

エクセルのワークシートに純資産額の予測と予想利回りを細かく記載し、毎日、口座の残高をチェックした。ノイローゼになるほど資産配分に悩んだ。

「資産の15%は債券で持つべきか? それとも20%? 10%ではいけないのか?」

投資判断に大きな時間を割く一方で、収入や支出の分析には全く時間をかけていなかったといいます。しょっちゅう同僚と外食に出かけ、酒を飲み、Uberを呼んで家に帰っていました。一晩で100ドルくらいは簡単に消えていたといいます。

 

本人も振り返っていますが、これがいかに愚かなことなのかはすぐに分かります。飲み代1回で、1年分の投資収益が吹き飛ぶのです。投資の分析なんかよりも、いかに収入を増やすか、いかに支出を抑えるかに時間と頭を使うべきだったのです。

 

ところが、資産1000万ドルの人は話が変わってきます。投資分析の結果、利回りを1%アップさせられれば10万ドルが追加で手に入ります。これを節約で補うのは不可能だし、収入増で賄うのは至難の技です。

 

というわけで、著者は貯蓄と投資のどちらを重視すべきかは、資産状況次第だといいます。つまり、

思い切った言い方をすれば、貯金は貧しい(投資するお金がない)人のためのものであり、投資は豊かな(投資をするお金がある)人のためのものだ。

というわけです。

 

ただし、ここから一捻りあるのが本書のいいところ。ここでは「貧しい」と「豊かな」を、絶対的な意味と相対的な意味の両方で使っています。

大学を卒業して間もない頃、サンフランシスコのバーでパーティ三昧の生活をしていた私は、絶対的な意味では貧しくなかった。ただし、将来の自分と比べれば貧しかったといえる。

つまり将来の自分に比べて”貧しい”のであれば、投資よりも貯金に注力すべきだということです。

いつから投資に注力すべきか?

”貧しい”うちは貯金に注力して、つまり収入を上げるとか支出を減らすとかのコントロールを行うべきなのは分かりました。では、いつ、どれだけの資産が貯まれば”豊か”なので投資に注力すべきなのでしょうか。

 

著者は次のように言います。

予想貯金額と予想投資収益額のどちらが多いか? 予想貯金額のほうが多い人は、貯金を増やすことに集中すべきだ。 予想投資収益額のほうが多い人は、所有している投資資産の配分調整に多くの時間を割くべきだ。

予想貯金額というのは、年間で可能な貯金額の累計です。また予想投資収益額というのは年間で得られるであろう投資からの収益額です。例えば、次のようになります。

  • 九条くんは年間の手取り400万円のうち、20%にあたる80万円を貯金しています。これが予想貯金額です
  • 九条くんの資産は1000万円で、配当と値上り益を含めて年率6%のリターンが期待されます。つまり60万円。これが予想投資収益額です

この九条くんは、貯金が80万円、投資が60万円。つまり、まだ貯金に対する意識や時間の使い方のウエイトを高くすべきだということです。そして例えば資産額が増えていけば、予想投資収益額も増加するので、投資のほうに注力すべきだということになります。

  • 九条くんの資産は1億円になりました。配当と値上り益を含めて年率6%のリターン、つまり600万円が期待値です。これが予想投資収益額です

こうなると、貯金に注力するよりも投資のほうに時間を使うべきということになりますね。

 

一般的には、貯金額がそうそう増加しない一方で、投資からの収益は雪だるま式に増加します。働き始めてからの数年は、資産増加のほとんどは貯金からになりますが、次第に投資からの収益が増加していき、最終的には貯金額はほぼ誤差のようになっていきます。

 

下記のグラフは総資産の推移ではありません。資産の増加額がどのように変化していくかを表しています。後半になるに従って、資産額が増えるため、資産からの投資収益も加速度的に大きくなります。

少なくとも、貯金額を投資収益が上回る前半戦は、貯金側にフォーカスすべきですし、後半戦では投資側に注力すべきです。

ぼくの場合

さて、本書では貯金と投資のバランスについて理詰めで解説していますが、多くの場合は若いうちは貯金に注力し、人生後半からは投資に関心を寄せるのではないでしょうか。

 

ぼくの場合、まともに貯金を始めたのは20代後半でした。そして貯金は全額インデックスファンドに入れっぱなしで、40歳くらいまでに至ります。上記のグラフでいえば、資産形成から20年が経って、貯金による入金力を投資による収益が上回った頃でしょうか。

 

投資に対して時間を掛け始めたのもこの頃からです。そして資産額の増加にともなって、ほぼ貯金・入金は誤差になってきました。つまり、貯金ではなく投資に主な時間を費やすようになったわけです。

 

このように、貯金からスタートして、徐々に投資に意識をシフトさせていくことが重要なのではないかと思います。退職金をもらって初めて投資をするようだと、銀行員のいうがままに高コストな毎月分配投信とかを買わされることにもなりかねません。

 

本書は、このような前提に立って、第1部を「貯蓄」に関する考え方とノウハウ、第2部を「投資」に関する考え方とノウハウに分けて解説しています。オーソドックスな内容ではありますが、データアナリストの著者らしく、エビデンスに基づいて解説しているところが白眉です。

 

貯蓄や投資に関する書評はまた次の機会に。