FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

書評:『証券会社が売りたがらない米国債を買え!』

資産のアセットアロケーションを考えるとき、必ず出てくるのが「債券に何パーセント配分するか」です。ところがこの債券というものが、何を指していてどうやって買ったらよいか、たいへんわかりにくい。本書を読んで、なるほど債券とは現時点では*1米国債の購入を指すのだと得心しました。 

証券会社が売りたがらない米国債を買え!

証券会社が売りたがらない米国債を買え!

 

 本書は2011年と古い本ですが、東日本大震災とリーマンショック後の執筆となっており、世界経済の大変動で米国債がどうなるかも踏まえた内容になっています。それでは、概略を見てみましょう。

 

第1章 年金は日本国債、給与は社債であるということ

しょっぱなから筆者の持論である「債券とは固定の金利収入を得られるもの」だという話が披露されます。英語ではフィクストインカム(Fixed Income)。

 

ちなみに辞書で「債券」の英語を調べると「Bond」と出てきますが、実は国債は「Government securities」ですし、米国債は「US Treasury」です。そして実は期間の長さによって、短期国債(Treasury Bills : 2、3日〜52週間の割引債)、中期国債(Treasury Notes : 2、3、5、7、10年物の利付債)、長期国債(Treasury Bonds : 30年物の利付債)と呼び名が変わったりします。そこでより抽象化した言い方としてフィクストインカムです。豆知識ですね。

 

筆者は年金について次のように説明します。

厚生年金・国民年金による収入は国が支払いを保証していますので、国債とほぼ同等の「リスクフリーのキャッシュフロー収入」と見做せます。

(略)

65歳のR氏が少なくとも85歳まで生きるとすれば、65歳から20年間にわたり毎年300万円の固定的なキャッシュフロー収入があるということです。それは、満期(年限)が20年の国債を保有して金利収入を毎年300万円得ているのと同じだと想定できます。

こんなロジックから、このR氏は疑似日本国債を1億5000万円保有しているとみなせるわけです。そして日本国民はこの1億5000万円の疑似日本国債を買うための積立を毎月行っていることになります。

 

そして同様に、会社で働いている場合、固定的な収入を数十年に渡って得るわけですから、これは疑似社債を持っているのと同じことになります。例えば年収300万円で20年間働くとしたら、想定金利を高めの4%と置いて、7500万円の疑似社債を持っているということになります。

 

先日、将来の給与収入を割り引いてPVにしてみると擬似的なキャッシュとみなせるという記事を書きましたが、フィクストインカムとみなすほうがわかりやすいですね。

kuzyo.hatenablog.com

 

第2章 疑似日本国債のリスク

年金という疑似日本国債を大量に持っていると考えると、日本国債の暴落がにわかに恐怖に思えてきます。さきほど1億5000万円の疑似日本国債を持っているとありましたが、これは国債利回り2%で割り引いて計算した債券価値になるからです。

 

つまり国債暴落=金利上昇 という構図ですから、もしも金利が10%に上昇すると先に1億5000万円の価値のあった疑似国債は3000万円の価値まで下落してしまうからです。

 

日本国債がもし暴落しても、国は絶対にデフォルト(金利支払い停止)はしないと筆者はいいます。ではどうやってデフォルトを回避するのかというシナリオは次のとおりです。

  1. 日銀による新規国債、借り換え用国債の引き受け
  2. IMFによる緊急融資(効果薄)
  3. 話し合いによる元利金支払いの先延ばし(デフォルトとみなされる可能性高いので難しい)
  4. 国債の評価損を棚上げ(まずできない)
  5. 予算執行の先延ばし、カット(効果薄)
  6. 公務員給与遅配、カット(効果薄)
  7. 消費税などの増税

そして国債の暴落が始まったら、株式市場や為替市場をほっておいても国債を守ろうとするという見立てです。

 

結局のところ、国債暴落=金利上昇した場合、政府が発行する国債をせっせと日銀が買うというのが現実的な方法です。これはお金をガンガン刷って通貨発行益を得ようという話ですから、円の価値低下をもたらし、理屈的にもハイパーインフレに向かいます。でもすでに日本はこの道を選択して、日銀がせっせと国債を買っているような。

第3章 なので米国債を買え

日本に住んでいる以上、年金という疑似日本国債を持っており、給与も疑似円建て社債。そんな状態ならば、現在持っている金融資産のほとんどをドル建ての米国債に投資しても、アセットアロケーションはおかしくなりません。

 

しかも、米国債はものすごく大きな規模です。個人的には米国債が暴落するような自体になったら、世界経済の大混乱とイコールであり、そのときにマネーが向かう先は金かBitcoinくらいしかないのではないかと思っています。

全世界の債券市場の大きさは82兆ドルで株式市場の大きさはその半分の44兆ドル、つまり2対1です。この比率は日本の場合は3対1と債券のほうがはるかに大きくなり、ユーロ圏でも3対1です。 

第4章 どの米国債を買ったら良いの?

理屈はわかったが、ではどの米国債をどこで買ったらいいのでしょう? 筆者は、次のようにまとめています。

  • リタイア済みの人:米国債(利付債)で長期のクーポン利率の高いもの
  • 未リタイアの人:長期30年物の米国債でゼロ・クーポン債が複利運用できるのでおすすめ

ゼロ・クーポン債とは、毎回の利払いがない分安く売られていて、償還時には満額が戻ってくるというものです。利払いには税金がかかるため、税金を先送りして複利運用しようとしたらこちらのほうがよいというわけです。

kuzyo.hatenablog.com

 

債券系ETFの場合は、利付債やゼロ・クーポン債と違い、最後(償還)まで持ちきるという選択肢がありません。そのため、金利変動に応じて価格が大きく上下するため、正直米国債への投資とはけっこう性格が違うのではないかと感じました。

 

元本保証で利回り3%超。為替リスクはあるものの、年金という疑似日本国債を大量に保有している場合はリスク分散という意味でもドル建て資産は重要ですね。読み終わって、少なくとも資産の10%程度は米国債に投資してもよいと思いました。

税金には注意

なお、本書に書かれていることは現在でも大きく変わっていないと思いますが、税金については注意です。

 

当時、利付債とゼロ・クーポン債で税制が異なり、さらに保有期間の長さによって課税方法が変わるという複雑さでした。現在は、キャピタルゲインについては20.315%の源泉分離課税になっています。大和証券の下記の図が比較的わかりやすいと思います。

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なお、利子については国外で徴収されたものを除いて、20.315%となるよう国内で徴収されるそうです。株式配当は二重取りされたものを外国税額控除で取り返さなければいけないので、米国債のほうがらくちんですね。

 

 

*1:日本国債はあまりに利回りが低いので、海外債券が標準的だと思います