政府も地方自治体も、起業を促進しようとさまざまな施策を打っています。経営勉強を無償でやってくれる講座とか、登記費用の一部を補助してくれるとか、設備投資資金や運転資金を低利率で貸し出してくれるとか。
東京都は「東京都創業NET」というページを用意して、さまざまな制度を紹介していますし、区でも補助や助成金、融資のプランを設けています。一見すると創業の役に立ちそうなこれらの制度、実際に使おうとすると、「ザ・お役所仕事」の罠にハマります。
ぼくが法人を設立した区にも、登記費用6万円が3万円になる助成制度や、設備投資資金の借り入れに対して、利子の補助が出るというものがありました。制度は運営元がたくさんあり、さらに資料は紙のパンフレットがベースのようで、WebにあるのはPDF、簡単に書こうと頑張った結果、内容がよくわからず、詳細な条件を調べようとするととたんに法律の条文のようになるという状況です。自力で調べるのをあきらめて、パンフレットに載っている番号に電話しました。
すると、まずは利子補給を受けるなら、「◯◯公社というところに来て相談を」ということだったので、予約を取って訪問です。資料をできるだけ埋めてくるように、ということでしたので、事業計画やら資金繰りやらをフォーマットにそって作っておきました。
行ってみると、中小企業診断士の先生が、「どんな事業をやるんですか? では事業計画を拝見しましょう」という感じ。銀行に説明する予行演習のようなつもりで、事業について説明し、中期の事業計画も数字を交えてお伝えしました。
「借り入れ額は、自己資本+役員貸付額の5倍以内にしないと通らないだろうねぇ」
中小企業診断士の先生が言います。「通る?」と一瞬思ったのですが、どうやら区の補助を受けるためには審査があって、その審査を無事に通すための書類の作成を中小企業診断士が手伝ってくれるという仕組みのようでした*1。そして、この中小企業診断士を雇っているのも、税金で運営されている公社です。うーん、いろんな意味でマッチポンプ。こうやって役人は増殖し、税金は無駄使いされていくんですね。
だって、制度を作っても普通の人には書けないような書類を要求し、それを行政書士やら税理士に頼むのはコストがかかるだろうから、別の役所で書類の書き方を指導する担当を用意しましょう。そういうわけです。
さて、「ここはざっとでいいんです」「ここはこう書けばOKですよ」などとアドバイスを受けながら書類を作っていきます。こうした面談を4回、計4時間あまり行って初めて書類が提出できるということでした。勉強になるなぁ、これで助成が受けられるならまぁ楽しい経験だ、と思いながら話をしていきます。
ところが、ここには2つの落とし穴がありました。
まずは、利子補給はけっこうなパーセントなのですが、そのためには保証会社に入る必要があるとのこと。この制度を使う場合、保証会社の証明書が必須なのだそうです。そして保証会社のコストが1%前後かかります。先生曰く、「保証会社のコストを考えると、利子補給してもほとんど金利は変わらなくなりますよ」。
もっと早く言ってください!
結局中小企業診断士によると、区の制度はかなり審査が細かいので、政策信用公庫を使ったほうがいいとのこと。しかも、「区の制度を使おうと思って相談しています、というと政策信用公庫は気を悪くするので言わないほうがいい」とも。どこまで本当なのかはわかりませんが、いろいろ面倒くさいです。
さらに、こんなやり取りが。
「そういえば、この事務所の賃料は証明できますか? 契約書が必要なんですけど」
「自宅を事務所にしていて、按分で賃料を出しています」
「自宅は持ち家ですか? ならば登記簿謄本を」
「いえ、賃貸です」
「なるほど賃貸ですか。賃貸の契約書に事務所利用可能とありますか?」
「え!いや、それはちょっと。。。。賃料ゼロにすれば問題ありませんか?」
「でも法人なのに賃料ゼロってあり得ないですよね。どこかで営業しているわけで」
「太陽光発電事業がメインなので、特にオフィスは必要ないんですよ」
「でも法人というからにはどこかに登記が必要で、住所がいります。オフィスなしというのはありえないですよ」
「ぐぐぐぐ。。。」
「お役所ですからね」
わけあって、住居専用の賃貸に住んでおり、事務所利用OKと書いてもらうのはまず不可能です。というか、そんなことを依頼したら、住居としても使えなくなってしまうかもしれません。やぶ蛇です。
いいやはや。役所は恐ろしい。
*1:役所の審査が面倒で細かいのは分からないでもありません。細かい代わりに書かれている条件さえ満たせば問題なく助成されるはず。そこには銀行のように「総合的判断でダメです」というような曖昧な裁量はないはずだからです。逆にいうと、全く融通が効きません。どっちもどっちですね