なぜ投資が重要か? という話をすると、多くの識者が「r > g」というトマ・ピケティの式を持ち出します。これはベストセラー『21世紀の資本』で語られたもので、r = 資本の利益率が、g = 経済成長率を上回っているため、給与の伸びよりも資産の伸びのほうが大きいということを意味しています。だから、投資しろ! と。
g はGDPの成長率とほぼ同義なので、0.1〜3%程度というのはよく分かります。ニュースでも言っていますね。では、なぜ r は5%近くあるのでしょうか?
r > gについて語っている人に、「なぜrのほうがgより大きいのでしょうか?」と質問してみると、その人が本当に『21世紀の資本』を読んだのかどうかが分かります。
r は論理的必然ではなく歴史的事実
体系的に資本収益率が成長率よりも高くなる大きな理由はあるのか? はっきり言っておくが、私はこれを論理的必然ではなく、歴史的事実と考えている。
p.368
ピケティははっきりと、「r が5%に達する理由は分からないけど、これまでずっとそうだった」と書いています。
ただしrが高い理由について仮説は提示しています。その1つが「時間選好」という心理的な理由です。これは、今日の1万円と1年後の1万円を比較した場合、今日の1万円のほうを選ぶのが普通というものです。確かに、1年後には自分や相手が死んでいるかもしれませんし、約束が守られるかどうかも定かではありません。もらえるなら今日の1万円のほうがうれしいですね。
では、今日の1万円と1年後の2万円ならどうでしょう? 1年後の2万円を選ぶ価値もありそうです。しかしここには論理的な必然はなく、将来という時間経過をどう評価するかという各人の心理的な考えによります。そして、歴史的には、今日の1万円と来年の1万500円が同価値とみなされることが多かったということです。この5%が、資本収益率にあたります。
もちろん世の中には銀行預金と金利が存在しているので、今日1万円もらって1年間預金しておけば、何%か利息が付くという話もあります。しかしそれは、時間選好によって将来の1万円を低く見ている人が多いから利息が成り立つわけで、先行する理由としては時間選好のほうが重要でしょう。
r > gの理由は無制限な借金となるから
もうひとつ、仮に r よりも g のほうが大きかったらどんな世界になるのか? もピケティは思考実験しています。
もしも r が g よりも小さいと、将来の所得が、借金の利率よりも早く上昇することを知った経済主体は無限の裕福さを感じることになり、(r が gよりも高くなるまでは)すぐに消費するために無制限に借金したがることになってしまうからだ。
これが成り立つには、資本の所有者がその経済における最高の限界生産性に等しい利益を受け、誰でも好きなだけその利率で借りられるという「完全」な資本市場を想定した場合です。でも、利息よりも早いペースで給料が増大するなら借金をするほうが得だというのは直感的に分かります。
これが、g よりも r のほうが大きくなる経済学的な理由になります。
ちなみにピケティは、g が現在のような2%とか3%であり続けることはないと書いています。この直近100年ほどが異常事態で、通常は0.1%程度であるというのです。これは論理的な話で、人類の誕生から1%で経済が成長してきたとすると、1000年で2万倍以上に成長することになるからです。逆にいうと、1000年前は現在の2万分の1の経済だったかというと、そんなことはありません。なので、人類の歴史においては0.1%程度の経済成長だったというロジックです。
同様に、2%の経済成長が今後続くこともあり得ません。2%の経済成長が続くと、30年で1.8倍、100年で7倍になります。一世代後に、経済が1.8倍になっていると思えるかどうかが、2%の経済成長が続くと考えるかどうかにつながってきます。
そんなわけで、経済成長は必ず鈍化する、そして r は歴史的に5%程度が継続する。これが意味するのは、資産を持っている人のほうが加速度的に豊かになっていくということです。