FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

書評『世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方』

「エコノミスト」が教えるということで、ちょっと眉唾でしたが、読んでみるとたいへん良い本でした。『世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方』です。

世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方 賢明なる投資家のためのパーソナル・ファイナンス読本

世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方 賢明なる投資家のためのパーソナル・ファイナンス読本

 

このエコノミストのスタンス 

まずはこのエコノミストのスタンスです。ファイナンスの教科書どおりに、

20倍株を探したい人向けの本はほかにいくらでもある。本書が想定する読者は、表1で示した世界投資基金のように、資産を慎重に、責任を持って守り育てたい人だ。

としています。基金というのは、ノルウェー政府基金(NBIM)やオランダの年金基金(ABP)、そしてカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)です。著者は、一番堅実な投資方法は、こうした年金基金のアセットアロケーションを複製することだと説きます。リターンの90%はアセットアロケーションが説明するといわれるとおり、基金と同じ比率で資産を分配すれば、同じリターンが得られるからです。

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一方で、ファイナンス理論の議論の的である「効率的市場仮説」には、成り立っていないというスタンスです。短期的な正の自己相関であるモメンタム、つまり上がる株はさらに上がる、下がる株はさらに下がるという傾向があること、そして長期的な負の自己相関であるミーン・リバージョン(ミーン・リバーサル)、つまり長期的には上昇のあと下落することが多く、低迷期のあとには好調期が訪れることが多いといっています。

 

このモメンタムとミーン・リバーサルは、市場が効率的ではない証拠(アノマリー)としてたびたび出てくるものです。

モメンタムとミーン・リバーサルは使えるのか?

では、この2つのアノマリーを使えば市場を出し抜いて有益なリターンを出すことができるのでしょうか?

波に乗って、波が砕ける間際に飛び降りろ。

いや、無理だ。短期的な正の自己相関であるモメンタムと、長期的な負の自己相関であるミーン・リバージョンという2つの現象は、2つの基本的な投資テクニックに投影することができる。1つは気まぐれな市場心理を読むこと、もう1つはファンダメンタル・バリューの源を分析する手法だ。

つまり、モメンタムを利用するなら市場心理を読み切ることが必要で、ミーン・リバーサルを利用するならファンダメンタルズの分析が必要だとしています。

 

モメンタムの活用法として、著者は必ずしもテクニカル分析を否定していません。過去の値動きからパターンを見つけ出すのが難しいのは、パターンが存在しないからではなく、十分に強力なパターン識別技術がないからかもしれないとしています。

 

そしてプロのトレーダーたちはいま、チャートの形を読むとか◯◯循環とは違ったアプローチでパターンを見つけようとしています。次のような手法で、敏腕トレーダーが直感的にやるぎょうな取引をモデルで再現することを目指しているといいます。

(ファイナンス理論は)挟み撃ちにあっている。一方から迫ってくるのは行動経済学。トレーダーの見方が価格形成にどのように影響を及ぼすかに重点を置く、心理学を応用した経済学だ。他方から攻め寄ってくるのは、超高速取引業者の利用する強力な数学およびコンピューターで、こちらはひっきりなしに売買注文を出しては「市場心理」を分析している。

個人投資家がプロに勝つ方法

このように、モメンタム=市場心理を読むことにかけては、敏腕トレーダー、そして行動経済学や超高速取引といったプロの手法に勝つことは難しいでしょう。ところが、もう一方のファンダメンタルズでは、素人である個人投資家がプロに勝つことができると著者はいいます。ここが、本書のエッジですね。

 

その理由はシンプルです。モメンタムバリューが短期間のトレンドなのに対して、ファンダメンタルズバリューは長期だからです。市場心理というモメンタムによってバブルに押し上げられた価格が、ファンダメンタルズバリューに戻ってくるミーン・リバーサル。このミーン・リバーサル効果が現れるには通常数年かかります。ところが、プロのトレーダーは短期間での成績評価にさらされるのです。

成績評価は5年間よりずっと頻繁に行われている。通常は3カ月ごとで、もっと頻繁な場合も多い。こんなに短期間だと、モメンタムがミーン・リバージョンを圧倒する。

他人のお金を預かるプロの運用者は、数年間に渡って市場に負け続ける(ミーン・リバーサルを狙って待ち続ける)ということが許されないのです。

ケインズは「市場というものは、あなたの財布が持ちこたえられるよりも長期間にわたって、間違え続けることがある」と言ったと伝えられてる。今ならケインズはこう言っただろう。「市場というものは、逆張りのファンドマネージャーが首をつなげられるよりも長期間にわたって、間違え続けることがある」。

ミーン・リバーサルを活かすと投資というのは、価格が長期的にファンダメンタルズに回帰することを信じて、数年にわたって待ち続けるという、個人投資家ならではの手法だということです。

 

そのやり方として、著者はこう書いています。

市場価格がファンダメンタル・バリューを上回っている場合、賢明なる投資家は市場価格で売って別の投資先を探せばよい。市場価格がファンダメンタル・バリューを下回ったときには、保有し続けて定期的に入ってくるキャッシュを享受すればいい。 

景気循環調整後PER(CAPE)を使う

では、ファンダメンタル・バリューを見極まるにはどうしたらいいのでしょう? 著者は、シラー教授が提唱した景気循環後PERである(CAPE)に着目します。通常のPERが、1株あたり利益に対する株価の比率を指すのに対し、CAPEではインフレ調整後の利益を使います。

 

下記は、Asset Allocation INTERACTIVEというサイトで表示したCAPEの世界各国の推移です。HOMEのTools ー Asset AllocationからChartsの「CAPE( Ratio Time Serieas)」を選びます。

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現在の価格がファンダメンタルを超えているかどうかの判断に、CAPEが向いているかどうかは諸説ありますが、単なるPERよりもインフレを調整してあるだけ良い指標だと言えるでしょう。

現代のバリュー投資

ファンダメンタル・バリューに着目して行う投資はバリュー投資と呼ばれています。かつてはPBRに着目して、保有している資産価値よりも安く売られている株を買うというのが定番でした。ところが、企業が資産をオフバランスしている現在では、「持続的な競争優位を割安に買うことである」と著者は言っています。

 

この競争優位とは何か。大きく4つを挙げています。

  • ブランドと評判 顧客やパートナーを引きつける評判
  • 戦略的資産   事業認可や資源権益など、固有の資源に対する排他的なアクセス
  • 固有の構造   企業のシステムや組織構造
  • イノベーションと知的財産 

個別リスクはリスキーではない。市場リスクはリスキー

そしてポートフォリオを組むときは、リスクの考え方に注意しろと言います。ここでいう「リスク」というのは、価格の上下のバラつきを指す金融用語としてのリスクですね。

 

ポートフォリオのリスクは、市場全体の動きによってもたらされるものと、個別企業の要因によって決まるものに分かれます。個別企業のリスクというのは、例えば石油企業が新しい油田を掘れるかどうか? といったものや、製薬会社の臨床試験が成功するかどうか? といったものですね。一方で、市場全体の動きのリスクは、市場全体をベータ1として、市場リスクが高い株式はベータ値が高くなります。

個別リスクのある株はあまりリスキーではないが、市場リスクのある株はリスキーだということになる。

これは、個別リスクはうまく分散することで、互いに消し合うことができますが、市場リスクは分散しても消せないからです。つまり、石油企業の新油田や製薬会社の臨床試験の可否は、分散できるものだから低リスク、つまり低リターンのハズだということになります。CAPM理論によると。

 

ところが、普通の人はそう考えません。油田が出るかどうかはゼロイチの博打だし、新薬の試験もそうですね。そのため、CAPM理論とは逆に、高リスク、高リターンを人々は期待するわけです。

 

CAPM理論では、株式プレミアムが歴史的に5%ある理由を説明できていません。理論によると、もっと小さいのだそうです。ところが実際には5%あります。これは、投資家の多くが「主観的期待効用(確率)の想定通りに行動しない」からだというのです。つまり、株なんて怖い!と考え得る一部の投資家が、理論値よりも高いプレミアムを要求するためだというのです。

あなたが主観的期待効用で考え、他の人々がそうでなければ、株式プレミアム・パラドックスはあなたに有利に働く。効率的市場仮説と同じく、賢明なる投資家は、これらの理論を理解すれば得だか、信じれば損をする。

投資家にとってのリスク

金融理論では価格のブレ、ボラティリティをリスクといいますが、投資家自身にとってのリスクは実は違います。

賢明なる投資家にとって、リスクとは資産価値の短期的な変動ではない。リスクとは、現実的な望みを達成できないことである。

その上で、よくFPやロボアドバイザーがやるような「あなたのリスク耐性はどのくらいですか?」といった話はせず、「投資の目的はだいたい数種類に分けられる」と言います。

 

  1. 大半の人は老後のために備える必要がある
  2. 住宅ローンの頭金を貯めるなど何かの購入資金を作りたい
  3. 遺産相続などでまとまった投資資金が入ってきた
  4. これといって目的はないが、雨の日のために、いやもしかすると晴れの日のために備える

 いやはや、これはしっくり来ますね。何歳だとかどのくらいの資産を失うと怖いですかとか、そんな質問よりも正鵠を射ていると思います。そして、意外に答えが難しいのが「雨の日」への備えですね。

 

著者は、

ほとんどの人にとって、資産運用の最も魅力的な目標は、考え得る限りの緊急事態がおこってお財政が逼迫しないと安心していられること。 

だとしています。その上で、多くの人たちは見せかけの確実性のために高い犠牲を払っているいいます。いわく、旧東ドイツで従順に振る舞っていた市民たち、終身雇用を信じ、大企業でつまらない仕事を我慢した人々、etc.

 

さらには一部の大富豪は、「金融市場が崩壊したときに現金化できる金の延べ棒を持っておけ」とアドバイスしますし、「やや人里を離れているが、すぐに行くことのできる農場か大牧場を所有しておけ」という人もいます。そして 歴史を振り返ると、確かに金貨や宝石が命綱になった逸話は存在するのです。

 

そのために必要なのは分散です。

特殊性が高く、個々に見るととリスキーな投資を集めたポートフォリオは、低リスクになり得る。個々には安全だが、互いの相関が高そうな優良株を集めたポートフォリオよりも、実際のリスクは低いかもしれないのだ。 

そして、「無リスク資産」という言葉に惑わされないようにアドバイスします。ドイツ国債や米国債を買うなら、ベルリンでアパートを買ったり、ジョンソン・エンド・ジョンソンの株を買うほうがいいといいます。ただし、それでも投資ポートフォリオに債券を入れると良いのは、無リスク資産だからではなく、他の資産が下がるときに上昇する可能性が高いという逆相関の資産だからです。

逆張りのススメ 

さて、では著者のオススメの投資法です。それはズバリ逆張り。モメンタムに乗るのを避けて、ファンダメンタルズに賭けよというスタンスですから、分かります。

広告が推しているセクターをチェック。それが避けるべきセクターだ。ハイテクや新興国市場を推していたら、インフラと不動産に目を向けよ。道路やオフィスの写真が載っていたら、ハイテクや新興国を検討せよ。逆張りでいくのだ。 

この逆張りはプロには難しい行動です。あの株が上がっている、あのセクターが上がっていると言われたら、「買いません」というのはプロには顧客対応的に難しいですよね。さらに、この逆張りが金融業界の専門家の知識を活用することでもあるといいます。

どことなく逆説的だが、金融業界の専門知識を活用するには、彼らの勧めの逆を行くのが一番だ。専門知識なんて無駄だからではない。専門知識は「織り込み済み」だし、その性格上、客観的に正当化できる以上に「織り込み済み」だからなのだ。

ただし、逆張りといって個別株の逆張りは推奨していません。だれかがあなたの知らないことを知っているから株価が下がっていることは、現実的な可能性として十分あるからです。

 

世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方 賢明なる投資家のためのパーソナル・ファイナンス読本

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