優待クロスの主戦場といえば、手数料無料で金利も安く、期限が3年と長くて在庫も多い日興証券なわけですが、実はほかにも特徴があります。それは、信用注文の期限を「週末」までの設定が可能なことです。
クロスを建てずに指値の売り注文を入れておく
通常の優待クロスでは、一般信用売りの在庫があったら成行注文を出して翌日の寄り付きや、前場の引け、後場の寄り付き、引けでポジションを建てます。同時に現物も成行で注文して*1、クロスを作るわけです。
ところが、往々にしてせっかくクロスをつくったのに、翌日になっても信用売り在庫が残っている場合があります。「早まった!」というわけです。このためギリギリまでタイミングを見計らうわけですが、日興証券の場合は違った方法になります。
在庫があったらとりあえず売り注文を出すのです。ただし約定しないように現在の価格よりも高いところに指値をおいて、週末まで注文にします。これによって、週末、つまり金曜日の市場が閉まるまで、クロスを作ることを引き伸ばすことができます。信用売り貸株料のコストが節約できるわけです。
木曜の夜や金曜の日中に、現在の在庫状況を見て、改めて実際にクロスポジションを建てるかどうかを検討できるようになります。
金曜日に指値売り注文をロールオーバーする
ただしこれだけだと、クロスをいつ建てるかの意思決定を金曜日まで先延ばししただけです。ポイントは金曜日のアクションになります。このときの在庫状況によって、選択肢が分かれます。
それぞれ説明します。まず、金曜まで持っていた売り注文をそのまま失効させてしまう方法です。この場合、17時になって信用売注文ができるようになったタイミングで、新たに信用売りポジションを建てます。これによって、翌週の金曜日まで、コストをかけずに実質信用売り権利を保有し続けられることになります。
ただしリスクもあります。金曜17時は日興証券で最大の早押し競争の場です。もし在庫があったとしても、一気に消化されて注文ができないかもしれません。
一方で、失効させた売り注文が在庫となって復活すると思われるため、在庫がゼロだったとしても増えて、らくらく取れる可能性もあります。いずれにしても、ここはギャンブルです。
もう一つの方法が、いったんクロスを作ってしまう方法です。ここでクロスを完成させてしまい、その上で、17時の売り注文に参戦します。取れなければ、クロスを保有し続けます。もしその後、売り在庫が出てきたら、注文を確定させたあと、現渡でクロスを解消すれば、貸株コストを節約できます。
17時の参戦で売り注文が取れた場合はどうでしょう。下記の3つを持つ状況です。
- A銘柄の信用売指値注文(翌週末期限)
- A銘柄の信用売ポジション
- A銘柄の現物ポジション
この場合、信用売指値注文を残して、クロスポジションを現引きして解消します。ただし、金曜に建てたクロスポジションが解消するのは月曜。金、土、日、月の4日分の貸株料がかかります。
クロス一時建てロールオーバーのコスト
このいったんクロスを建てることで、安全に売り注文を翌週にロールオーバーする方法を「クロス一時建てロールオーバー」と呼びましょう。これは安全に信用売を確保できますが、反面コストがかかります。
日興証券の一般信用売の貸株料は1.4%。4日分だと1.5bp(0.015%)になります。100万円のポジションで153円です。現物ポジションを作るために信用買いから現引きするので、こちら1日分のコストが0.6bpです。合わせて2.1bpですね*2。
実は現物でクロスを作る必要はありません。現物と信用売りで現渡しするのはコストを節約できるためですが、日興証券は信用売買のコストゼロだからです。例えば、現物の代わりに制度信用買いを使ったらどうでしょうか?
この場合、信用金利が2.5%かかります。4日分だと2.7bp、100万円のポジションで274円のコストです。売りの貸株料1.5bpと合わせて、3.2bpのコストになります。現物ポジションとの差は1.1bp、100万円ポジション時のコスト差は110円になります。
追加でコストがかかる代わりに、必要な資金は大きく減ります。現物クロスだと、現物100%+信用担保30%で130%の資金が必要ですが、両方信用なら30%+30%の60%で済みます。ほぼ半分の資金でOKということでう。また信用買いから現引きという一手間も不要になります。一方で、現引きであれば場中でも両ポジションを相殺してクローズできますが、信用ポジションの両建てでは場中だと同額で決済売買できない可能性があります。
このコストをどう考えるか?
このコストをどう考えたらいいでしょうか? 優待クロスの資金に対するリターンはだいたい1〜0.5%、つまり100〜50bpです。一週間安全にクロス権利を確保するためのコストとしては、2.1bpまたは3.2bpは安いか高いか。ちなみに早めにクロスを作って保有し続ける場合、金曜から翌金曜までの8日分の保有コスト(信用売貸株料)は3bpになります。
つまりクロス一時建てロールオーバーによるコストメリットは、0.9bp。そして、信用買いポジションでロールオーバーするくらいなら、クロスポジションを保ち続けたほうが有利ということですね。ちなみに0.9bpは100万円のポジションの場合、90円です。
というわけで、12月の権利落ち日まであと1週間。今日の金曜日に関しては、クロス一時建てロールオーバーは行わず、素直にクロスを建てて権利落ち日まで持っておくことにします。