FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

低位株の端数切り上げによる節税とは何か

日本の株式制度にはいろいろな歪みがあって、例えば平均取得単価の計算もその一つです。手数料を含んで平均取得単価を計算しますが、これが端数切り上げのため、平均取得単価が高くなるというものです。昔からよく言われていたことですが、実際にこれを試してみました。

 29円の株を買うと、取得単価は30円に

どういうことかというと、例えば29円の株を買うと、手数料が1株あたり0.1だとしても、切り上げとなって30円になるという仕組みだということです。ただし、特定口座(源泉徴収あり)以外ではこうなりません。信用取引は対象外。ほかにもいくつか条件があるようです。

 

これはバグとかというよりも、税法上のルールです。楽天証券には次のような解説があります。

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つまり、税法上は赤字だが、実際のお金のやりとりではプラス。こんなことが起こり得るということです。

効果の上がる低位株

これは手数料を入れた金額で購入単価を計算するために起こります。では、どんなときに税法上の金額と実際の損益の差が大きくなるのでしょうか。0.000数円が切り上がって1円の扱いになるということなので、もとの株価が小さいほど、乖離の影響が大きくなります。

 

株価5000円の銘柄で1円に切り上がっても、5001円になるだけなので、税法上の買付単価は0.02%しかアップしません。ところが、株価50円の銘柄で1円切り上がったら、2%も乖離が生じます。

 

つまり投下資金に対しての乖離を大きくしたい場合は、できるだけ株価の安い低位株を選ぶことになります。

両建てはリスクが小さいが

節税のためにこの手法を使う場合、問題となるのは株価変動です。切り上げによる税法上損失の増大を狙ったのに、株価が動いてしまってはもともこもありません。そうでなくても、低位株は1円動いた場合の影響が大きく、また仕手などの影響で大きく変化する可能性があります。

 

そこで次に考えるのは信用売りと組み合わせることによる両建て(クロス)です。

  • 低位株現物を購入し、切り上げによって購入単価を1円アップ
  • 同銘柄を空売りする
  • 現渡でクロスをクローズする

こうすれば、信用取り引き手数料がかかるものの、値動きの影響を排除できます。

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下記のように、受渡金額としては手数料分の▲254円ですが、税制上の実現損益としては▲5147円と損失が大きくなっています*1

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ここで問題になるのは、信用売です。クロス作成には同値で建てる必要がありますが、空売り規制があるため、成行での信用売は最大50単元までなのです。つまり、乖離1円✕100単位✕50単元で5000円分しか乖離が生まれません。この方法で節税を狙っても、1回あたり5000円が上限だということです。

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では指値をすればいいのかというと、約定しなかった場合を考えるとちょっとリスキーですね。

直接の違法ではないが別件で違法となる可能性も 

この仕組自体は税法上のルールであり、違法というものではないようです。ただし、ルールの穴をつく方法であり、推奨されるものではないでしょう。実験としてやってみましたが、金額的にも、これを繰り返して節税を狙うものではないなとも思いました。節税にはいろいろな方法があるからです。

 

さらに、これ自体はともかく、低位株の頻繁な売買自体が罪に問われる場合があります。平成22年9月から12月にかけて、36回に分けて、123万8000株のクロス取り引きをし、結果、相場操縦に問われ追徴金が課された例があります。

相場操縦取引の例
仮装・馴合売買(金融商品取引法第159条第1項)
仮装売買:自らの売注文と買注文を同時に発注し約定させる、権利の移転を目的としない取引
馴合売買:売主と買主が連携したうえで行う上記と同様の取引


見せ玉(金融商品取引法第159条第2項第1号)
約定させる意思のない注文を発注することで第三者の注文を誘発して相場を動かし、自分に有利な値段で売買を行う行為

相場操縦取引 | 日本取引所グループ

クロス取引はこの仮装売買にあたるため、相場操縦の容疑がかかるわけです。被告は、審判手続で「目的は節税等にある」と主張しましたが、受け入れられず、「繁盛等誤解目的が存在した」と認定されました(金融庁資料参照)。

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ざっくり読み解くと、仮に節税が目的だとしても、このクロス取り引きは節税以外の経済合理性がなく、他人を誤解させるから、相場操縦に当たるということです。どのくらいの金額から、どのくらいの頻度からが相場操縦に当たるのかは明確な基準はないのですが、優待クロスでもこうした節税クロスでも、相場操縦として課徴金を課される可能性があることは認識しておきたいものです。

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*1:ちなみに証券会社によってはこのような少額の取り引きの手数料がゼロになってしまい、切り上げが発生しない場合があります。そうなると本末転倒です。GMOクリック証券では、手数料が発生しつつ、株主優待によるキャッシュバックが行われるので、これはこれで使いみちですね。