FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

楽天証券の信用貸株の活用法 2.5倍ほどお得に

楽天証券が9月23日から新しいサービス「信用貸株」を始めました。手持ちの株式を貸株に出しつつ、信用取引の代用有価証券としても使えるというサービスです。その代わりに、貸株料率は約半分になってしまうわけですが、果たして使えるサービスなのでしょうか?

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信用取引の保証金

信用の建玉があるときには保証金が必要になります。建玉の30%、つまり100万円の信用建玉なら30万円が必要です。このとき、保証金は次の2つの方法で用意できます。

  • 現金
  • 代用有価証券

「現金」のデメリットは、もらえるはずの預金利子の逸失です。楽天証券ー楽天銀行のマネーブリッジを使う場合、0.1%の金利が付くので、それだけ機会損失が発生します。一方の「代用有価証券」の場合、手持ちの株をそれに充てることになります。手持ちの株は貸株によって貸株料がもらえます。今回新たに始まった「信用貸株」では、代用有価証券扱いにしながら貸株料ももらえるというのが特徴です。

  • 貸株料 多くの場合0.1%
  • 信用貸株 多くの場合0.05%

つまり、信用貸株を使うことで、本来ならば0.1%もらえるはずだった貸株料が、0.05%に減るという機会損失が起こるわけです。一方で、現金を保証金にする必要がないので、預金金利の機会損失が少なくなります。

 

さて、プラスとマイナスの両方の効果がありますが、結局どちらのほうが得なのでしょうか?

サンプルで損得を確認

100万円分の信用建玉を建てて、保証金が30万円必要な場合を考えてみましょう。同時に、37万5000円分の現物株式があったとします。

 

保証金を現金で出した場合、逸失する金利は年間で300円。一方で貸株料として375円がもらえます。合計すると75円の利益です。ではこの現物を代信用貸株に出して、代用有価証券として利用したらどうなるでしょうか。代用有価証券の掛け目は80%なので、ちょうど30万円分の保証金に相当します。そのため現金の保証金は不要になります。一方で現物の貸株料はゼロ、信用貸株で37万5000円の0.05%の188円が入ってきます。

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このように、保証金+貸株が75円の利益なのに対し、信用貸株で代用有価証券を使うと188円の利益となり、こちらのほうが2.5倍ほどお得だということが分かります。

必要保証金以上に代用有価証券を積んでしまうと?

ただ、この計算は必要となる保証金とぴったり同じ代用有価証券を用意した場合でした。世の中そんなにうまくいきません。たいていの場合、少なかったり、多かったりします。

 

保証金が30万円必要で、100万円分の現物を持っているときに、下記の4つの例で計算してみます。

  1. 30万円を現金で保証金として入れる
  2. 30万円分ぴったりの代用有価証券を信用貸株で入れる
  3. 20万円分だけ代用有価証券を信用貸株で入れて、10万円を現金で入れる
  4. 必要以上である75万円分の代用有価証券を信用貸株で入れる

計算すると下記の表のようになります。最も利益が大きいのは(2)のぴったり入れた場合でした。(3)のように少しでも代用有価証券を入れれば利益が改善し、(4)のようにかなり多めに入れても、全部現金で済ます(1)と同額でした。

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ここからわかることは、ほとんどの場合現金で保証金を入れるよりも、手持ちの現物を代用有価証券として入れて、信用貸株料をもらうほうがお得だということです。

一般化して損益分岐点を探る

とはいっても、どんな場合でも信用貸株が有利なわけではありません。上記の計算を一般化してみましょう。保証金をM、現物株をS、預金利率をr、貸株料率r2、信用貸株料率r-0.05%*1とした場合、現金で保証金を用意した場合の利益は次のようになります。

  • Sr2 - Mr

一方、信用貸株を使った場合のリターンは次のようになります。

  • Sr2 - 1.25Mr2 + 1.25Mr ✕ (r - 0.05%)
  • =Sr2 -1.25Mr2+1.25Mr - 0.0625%M

2つの差は、

  • -0.25Mr2 + 1.25Mr - 0.0625%M
  • =M ( -0.25r2 + 1.25r - 0.0625%)

もし預金利率rと貸株料率r2が同一ならば、

  • Mr -0.0625%M
  • =M (r - 0.0625%)

だけ、信用貸株のほうが有利となります。預金利率は0.1%なので、ぴったりの代用有価証券を入れた場合、保証金額の0.0375%だけ、信用貸株が有利だということです。

 

そして必要以上に代用有価証券を入れて余らせてしまった場合、利益が減っていきますが、その分岐点はぴったりの場合の2倍となります*2。30万円の保証金が必要なのに60万円以上の代用有価証券を入れると逆に損失になるということです。

信用貸株の有利な点

さて、こんな信用貸株ですが、通常の貸株との違いを確認しておきましょう。共通するのは収益が雑所得だということです。また、貸し出してしまうと株主番号の継続性は必ずしも保たれず、長期優待条件を失う可能性があるのも同様です。

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代用有価証券として使えること以外の大きなメリットは、分別管理されており、楽天証券の倒産リスクを負わないということです。その代わりに、貸株料が約半分になっています。

 

さて、少し計算することで、現金で保証金を用意するよりも信用貸株を使うことで、トータルの金利・貸株料収入が増加することが分かりました。そして、必要とされる保証金額より少なくても多くても増加率は落ちて、2倍の額の株式を代用有価証券扱いにしてしまうと、かえって収入が減少するということも分かりました。

 

まぁ増加するといっても、1000万円の保証金が必要な場合で年間3750円の差なので、微々たるものといえばそのとおりです。それでも、優待クロスの繁忙期ならば、月間で300円くらいの増加にはなるかもしれませんね。ちょっとした頭の体操でした。

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*1:信用貸株の料率は通常の貸株よりも低くなりますが、どうやら0.05%ほど小さい料率となるのが基本のようです。

*2:貸株料率0.1%の場合。