FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

レベル3の意味とは 自動運転の一覧と比較【2021年】

ホンダがレジェンドでレベル3の自動運転者を販売することを発表したことが話題になりました。では、各社の自動運転車の状況はどうなっているのか、一覧で比較してみます。

 

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 自動運転一覧とレベル

まずは各社の自動運転車の一覧とレベルから。

  • トヨタ レベル2
  • 日産 レベル2
  • ホンダ レベル3
  • スバル レベル2
  • テスラ レベル2
  • アウディ レベル3
  • BMW レベル3予定
  • ダイムラー レベル3予定
  • VW レベル2
  • ボルボ レベル3はスキップ

続いて各社の状況を見てみましょう。

トヨタ 「Advanced Drive」レベル2だがレベル3を見据える

トヨタが4月8日に発表したのは、レベル2相当の「Advanced Drive」です。トヨタ「MIRAI」とレクサス「LS500h」に搭載されます。レベル2とはいえ内容はかなり高度で、隣にトラックが走っていれば間隔を空けたり、合流してくる車を見つけると早めに減速したり、自動車線変更機能を持っていたりします。


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日産プロパイロット2.0

日産は「プロパイロット」ブランドで自動運転を早くから提供しています。レベル2ですが、ハンドルから手を離すハンズオフも可能。スカイラインとアリアに搭載です。また、ハンズオフや単一車線限定のプロパイロット1.0のほうは、軽自動車のデイズも含めた幅広い車種に設定があるのが特徴です。

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ホンダ「Honda SENSING Elite」

ホンダが3月4日、レジェンドに搭載した「Honda SENSING Elite」は、日本初のレベル3をうたっています。ただしリース販売のみで価格は1100万円。レベル3走行が可能なのは時速50キロ以下の高速道路、つまり渋滞時のみとなります。

 

日本初とはいえ、かなり実験的な車種といえますね。

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スバル「アイサイトX」

早くから自動ブレーキなどの搭載を進めていたスバルは、2020年11月に発売になったレヴォーグでアイサイトXを搭載。3D高精細地図データを搭載し、高速道路時速50キロ以下でのハンズオフにも対応しました。

 

ただしレベルは2。ホンダレジェンドのレベル3と何が違うのかは、のちほど。

テスラ オートパイロットとFSD 実はレベル2相当

自動運転の知名度の高いテスラは、オートパイロットとFSD(Full Self-Driving)を搭載しています。FSDは、複数回の値上げによって現在1万ドルのオプションです。ただしこちらもレベル2。テスラ自身は「完全自動運転」をうたっていますが、国際的な基準ではレベル3には達していません。

アウディ レベル3「Audi AIトラフィックジャムパイロット」

アウディはレベル3の「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を2017年に量販車発売しています。60キロ以下の高速道路でハンズフリー可能。ただし、日本では機能が封印されており、使用できません。

BMW iNEXT 2021年発売?

BMWはクロスオーバーEVENのiNEXTにて、レベル3の自動運転技術を搭載するといわれています。量産は2021年の予定です。

ダイムラー「DRIVE PILOT」21年後半から?

ダイムラーもベンツSクラスに2021年から、レベル3の「DRIVE PILOT」をオプション提供する予定だと言われています。

VW レベル 2 「ID.Pilot」

フォルクスワーゲンはEVの「ID.シリーズ」においてレベル3を搭載するとみられています。が、後述のボルボと同じくレベル4技術の開発を主軸においていて、そちらがメインとなると見られます。

ボルボ 2022年レベル4へ

ボルボは明確にレベル3はスキップすると発表しています。レベル4の実現を2021年までに目指すとしています。

改めてレベルごとの違い

自動運転のレベル1〜5は、一見するとレベルが上がるにつれて性能が上がっていっているように見えます。実際それは間違いではないのですが、想像と実態はちょっと違うかもしれません。

 

自動運転技術は、複数の技術を組み合わせたものになります。1つはアクセルとブレーキをコントロールして速度を制御するACC(アクティブクルーズコントロール)。そして自動的にハンドルを操作して車線制御するALK(アクティブレーンキーピング)です。また、緊急時にブレーキを制御して停止するABES(アドバンスドエマージェンシーブレーキングシステム)。これらを総称してADAS(先進運転支援システム)と呼びます。

 

これらの装備は、センサーの性能や地図データを利用するかなどで性能に差はありますが、それ自体はレベルとは関係ありません。主にこの中でACCを採用したクルマをレベル1と呼びます。

 

そして、ACCだけでなくALKまで組み合わせたものがレベル2。現在ほとんどのクルマはこの段階にとどまっています。トヨタのAdvanced Driveは相当高機能ですが、レベル分けでいうとレベル2なのです。それは、レベル2と3に大きな概念上の壁があるから。冒頭の図を再掲します。

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実はACC、ALK、ABESなどのADASの機能自体は、レベル2でも3以降では大きな違いはありません。レベル2でもレベル3でも一定の要件を満たせばハンズフリーは可能ですが、いずれも「システムの手に負えない」場合は人間が運転を代わる必要があります。

 

では何が違うのか? あくまで運転者を支援するのがレベル1と2。しかしレベル3〜5は、システムが主体となって運転することを想定しているものになります。人間とシステムのどちらが主なのか? がレベル3となるかの境界なわけです。

法的な問題

主体が人間なのかシステムなのかで何が変わるのでしょうか? 実はこれは、法的な問題であり、哲学的な問題になります。レベル2までは技術の話でしたが、4以降は法律をどう考えるか、運転の責任とは何なのかについての哲学問題になるのです。

 

自動運転中に事故が起こったとしましょう。レベル2まではこれは確実に運転者の責任です。ではレベル3ではどうか? アウディは、「自動運転機能が正常に作動しているときに万一事故が起きたら、その責任はアウディが負います。これは一般的な製造者責任と同じことです」と明言します。ボルボも「自動運転モード中に発生した事故の全責任をボルボが負う」とコメントしています。

 

レベル3以降は、運転しているのはあくまでクルマで、事故が起こったときは、それはシステムが責任を負うもので、ひいては自動車メーカーの責任だということです。しかし、それに対応した自動車保険はまだありませんし、自賠責保険はこうした状況を想定していません。これが法的な問題だということです。

 

トヨタの「Advanced Drive」はそのスペックを見る限り、いつでもレベル3に対応できるものだと想定されます。しかし、トヨタも日産もレベル3にはそこまで積極的ではありません。果たして、何か事故があったときの責任を自動車メーカーが本当に取れるのか? それを考えると簡単にレベル3車を出すことはできないのが分かります。

 

「60キロ以下」など国交省が出している細かなレベル3に関する指針の話ではなく、法的な責任が自動車メーカーに及ぶという点が、レベル3の最大の壁でしょう。

哲学的な問題

ではレベル3と4の違いはどこにあるでしょうか。レベル3では、「高速道路のみ」など利用できる場所が限定されるだけでなく、システムが対応仕切れなくなったらドライバーに責任が委譲されるとなっています。つまり、システムの手に負えなくなったらレベル2に戻るということです。

 

実際レジェンドでも、システムが手に負えなくなったり、渋滞が解消されたりするとドライバーに運転を戻すようになります。つまり、この段階で運転の責任は人間に戻るわけです。システムと人の責任が行ったり来たりする。この中途半端な状態がレベル3です。

 

さて、交通事故の状況ではたまにあることですが、事故が避けられなくなってしまった状況で、それでも選択肢がある場合があります。例えば、突然クルマの前に2人の小学生が飛び出てきた。もうブレーキも間に合わない。ハンドルを切ればかろうじて避けられる見込みだが、そうすると歩道を歩いているおばあさんをひいてしまう——*1

 

人間でも簡単に答えが出るような問題ではありませんが、自動運転車はどうするでしょうか?実は3つの選択肢があります。

  1. 小学生2人をひく
  2. ハンドルを切っておばあさんをひく
  3. 「対応仕切れない」ということでドライバーに制御を戻す

選択肢の中で、(3)はないですね。こんな状況で責任だけドライバーにかぶせられても困ります。しかし、現在のレベル2の自動車は意外とそんな感じなのです。日産プロパイロット2.0を運転したことがありますが、カーブに突入し「こりゃスピード速すぎるんじゃないか?」というようなとき、システムは対処不能と判断してドライバーに制御を戻してくるのです。正直、たまったものじゃありません。これは技術的な問題ですが、まだまだこんなレベルだということです。

 

これを考えると、ドライバーに制御を戻すことを行わないレベル4のほうが、責任も明確であるべき姿だといえます。フォルクスワーゲンやボルボがレベル3をスキップするのはそのあたりが理由の1つです。

アルゴリズムの問題

小学生2人をひくべきか、おばあさんをひくべきかも重い問題です。過失の有無でいえば小学生2人をひくべきでしょう。全く罪のないおばあさんを引くのは大問題です。一方で、おばあさんを選べば死ぬのは1人で済みます。

 

もっとありそうな問題もあります。やはり小学生が飛び出してきました。ブレーキは間に合いませんが、ハンドルを切って避けることができます。ところが横は崖で、ハンドルを切ればクルマは谷に落下、ドライバーが死んでしまうでしょう。システムは、小学生をひくかオーナーであるドライバーを犠牲にするか選ぶことになります。

 

これが人間だったら、瞬間的に判断して何かしらの結論を出すのでしょう。しかし、システムがどちらを選ぶのかは、事前に定めたアルゴリズムによって決まります。過失を重視するのか、死ぬ人の数を重視するのか、オーナーを重視するのか。自動運転車メーカーは、こうした哲学的問題と向き合ってプログラムすることになります。

 

しかし、「この自動運転車は、人をひいてしまうかドライバーが死ぬかという選択になったら、ドライバーを犠牲にします」という説明を受けて、そんなクルマを買う人なんていないでしょう。罪悪感または犠牲的精神から、人が死ぬよりは自分が死ぬほうがいいと考える人もいるかもしれませんが、助手席に家族が乗っていてもそう言えるでしょうか。

 

これがハンドル装備も不要、ドライバーも不要のレベル5ならば、もっと話は簡単です。乗っている人は乗客であり、タクシーに乗っているのと同じだからです。

法律と哲学の問題をどうするか

技術の進歩は確かに重要で、人間に遜色ない運転、人間を超える運転を実現するというのは技術の問題です。ただし、どれだけ技術が進歩しても、完全に事故をゼロにすることはできません。どこかで必ず起こる事故のことを考えると、

  • 自動車メーカーはその責任を本当に負えるのか
  • 事故の犠牲をどんな優先順位にするアルゴリズムにするのか

は極めて難しい選択であり、問題です。法律の問題でもありますし、倫理的に社会的合意が必要になるものでしょう。2021年は、人間の責任で運転するクルマから、限定的ながらシステムの責任で運転するレベル3へと移行が始まった年になります。こうしたところに、メーカーの考え方が出てくるのが面白いところです。

 

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*1:いわゆるトロッコ問題です。