FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

高まる脱炭素、SDGs——もはや無視できないESG投資

菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」からこの方、急速にサステイナブルの動きが高まってきているように感じます。果たしてこの動きは投資家にとってどんな影響があるのか、考察してみました。

サステイナブル用語のまとめ

サステイナブルに関する用語にはいろいろあってややこしいのですが、だいたい以下のような枠組みで理解しておけばいいかと思っています。

  • SDGs 2015年国連サミットで採択
  • パリ協定 2015年COP21で採択

SDGsは「持続可能な開発目標」の略で、17の大きな目標と169のターゲットで構成されています。その中には(7)「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や(13)「気候変動に具体的な対策を」といった項目があります。

 

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一方のパリ協定は、第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で国際協定として合意されたものです。下記2つの長期目標が掲げられました。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • 世界の温室効果ガス(GHG)排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスを取る

大きな枠組みとしてSDGsの話があり、別途温室効果ガスに特化したパリ協定があり、パリ協定の目標実現に向けた具体的な目標が、冒頭の「2050年カーボンニュートラル宣言」だというわけです。

投資家とサステイナブル

ではこれらがどのように投資家に影響してくるのでしょうか。まず、パリ協定→カーボンニュートラル宣言への流れでいうと、政府は各規制省庁に実行指示を出しました。2兆円の基金から次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなど、野心的イノベーションに挑戦する企業を支援することや、グリーン成長戦略などをとりまとめています。

 

ざっくりいうと、「再エネの促進」と「排出量の削減」です。再エネを促進することで、エネルギー政策を脱炭素方向に向けるとともに、各業界で排出量の削減を支援します。「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」という菅首相の施政方針演説もこの一環ですね。

 

この両方について、減税や補助金などがいろいろと用意されています。つまり、再エネや排出量削減に関連する企業の売上は増加する見込みだということですね。

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投資家を巻き込むSDGs

もう1つのSDGsは、実は当初から投資家をターゲットとした施策を展開しています。これはどういうことでしょうか。

 

実はSDGsには前身があって、MDGsといいます。2000年に国連で採択されたミレニアム開発目標(MDGs)は似たような目標を掲げて一定の成果を残したものの、課題も明らかになりました。資金の不足です。MDGsでは政府資金だけで対応しようとしましたが、全く資金が足りなかったのです。

 

そこでSDGsでは、当初から「民間資金を活用する」ことがうたわれていました。さて、サステイナブルな目標にどうやって民間資金を使うのか。ここで金融が道具として使われました。

 

つまり、サステイナブルな取り組みをしている企業にしか、カネを貸さない、株を買わないという、金融業界への指導です。グリーンボンドなんて社債や地方債が最近ありますが、要するにグリーンな事業にはカネを貸すけど、そうでなければダメよ、というわけです。

 

株を買う側では、まず年金を運用するGPIFが「ESG投資」を始めました。これは、企業の環境、社会、ガバナンスについて点数を付けて、それによって投資しますよ、という取り組みです。企業にとっては、重要なリソースの1つであるカネについて、サステイナブルな取り組みをしなければ、融通しませんよ、と言われてしまったということです。

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国境炭素税

さらに、昨今は脱炭素がらみで、特にEUが規制を強めています。機関投資家に、投資先企業の温室効果ガス排出量の開示と、今後の方針を示すよう、規制をかけたのです。開示規制「SFDR」です。すると機関投資家は、投資先企業にもそれを促します。開示して削減方針を示さなければ、株を買わないよ(売るよ)というわけです。

 

さらに、炭素税が強化されようとしています。これまでも、特に自動車業界などでは、CAFEという規制によってメーカーは企業別平均排出量の上限を規制されました。これに達しなければ、ほかからクレジットという形で買ってくるしかありません。米Teslaの売上の結構な額が、このクレジットであるというのはそういうことです。

 

そしてさらに、国境炭素税というものも検討が進んでいます。これは、脱炭素を推し進めている国は、そうでない国に比べて高コストになるため、それを是正するために、輸入品の炭素排出量に応じて税金をかけるというものです。そしてこのときの税率はライフサイクルアセスメント(LCA)で決まります。

 

LCAというのは、その製品を作り出すまでにかかった全ての工程において、炭素排出量を合計して評価しましょうというものです。自動車でいえば、EVは炭素を排出しないクリーンな乗り物なんて言われていましたが、LCAで見た場合、材料である鉄鋼を作り出すのにかかる電力とそこからの排出、製造過程における工場の排出、そういったものをすべて合計して炭素排出量を測るというわけです。

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自工会の豊田会長が「日本ではクルマを作れなくなる」というのは、国産の材料を使って国内で製造すると、あまりに炭素排出量が増えてしまうから。北欧などの水力発電を使ったところで製造されたクルマにLCAで負けてしまうという話です。

投資家の選択

こうした状況の中で、投資家は選択を迫られます。環境対応、SDGs、ESGといったもろもろは、「消費者がサステイナブルな製品を選ぶことで最終的に売上が向上する」と言われることもあります。しかし、実態としては単なるコストアップ要因にすぎません。サステイナブルな取り組みをしている企業の利益は、そうでないところに比べて劣ると考えるのが普通です。

 

しかし、金融機関がカネを貸さない、機関投資家が株を買わない、炭素排出量の多い製品には税金がかかる——とまでいくと、話は変わってきます。環境対応しないと、懲罰的コストによって実際に利益がむしばまれるという状況になりつつあるのです。投資家が、「環境によい企業のほうが株価が上がる」と考えたら、それがモメンタムにもなって、上昇圧力にもなります。

 

実際、こうしたトレンドはしばらく前から始まっており、ESG銘柄といわれるものは、インデックスをアウトパフォームする傾向にありました。そして、昨今の脱炭素の動きによって、その流れはさらに加速することが想定されます。

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ESG投資にパフォーマンスの裏付け、GPIFが活動報告で過去3年のデータ検証| モーニングスター

 

しかし、じゃあどうやってESG銘柄に投資したら良いのか? というと、その妥当な指標がないのも事実。指数連動の投信を買うくらいしかありません。とはいっても、サステイナブルなビジネスかどうかは、投資家が注目せざるを得ないものになっていきそうです。

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