日銀が金融緩和の継続を決め、発表しました。1月18日の11時に伝えられると、円は2%ほど急下落し、131円まで円安に進みました。これをどう読み解いたらいいのでしょうか?
緩和したい日銀、無理と考える市場
この背景には日銀と市場の争いがありました。日銀はアベノミクスの遺産として「インフレ2%目標」を掲げ続け、そのために金融緩和を続けています。伝統的な政策金利の調整にとどまらず、自ら国債を買うというYCCにも手を出しました。
本来、長期金利は市場が決めるもので、コントロールするものではありません。しかし日銀はYCCによって、10年債の上限金利を定め、市場がそれを越えようとしたら、自ら国債を買って押さえつけることを続けてきました。
日銀支配の終幕は突然に 国債、たまる需給のひずみ: 日本経済新聞
金利上昇とは国債価格の下落です。市場は、何度も日本国債が高すぎる(金利が低すぎる)と見て、売り浴びせ国債を切り崩そうとしてきました。しかしそのたびに日銀が買い支え、日銀が勝利してきたのです。
ところが、22年12月20日に日銀は突如YCC緩和を決めます。これは、押さえつけてきた長期金利の上限を0.5%まで緩和するというもので、実質的な利上げ許容でした。
これは「円安対策」だとか「市場の需給対策」だとかいろいろと言われています。市場の需給対策というのは、日銀が買い支えのためにあまりに多くの国債を購入してしまったがために、市場在庫が底をつき、流動性が枯渇しつつあるという意味です。
金利上昇を抑えるために日銀がハイペースで国債の買い入れを進めており、市場で流動性が枯渇しつつあるためだ。
政府債務1000兆円のうち、現在日銀は547兆円を保有しています。国の借金は、その半分を日銀が買い取っているのです。そして問題は、国債価格買い支えのために買い入れる量が増大し、1月は1日5兆円規模まで膨らんでいることです。
1月は17日の段階で、すでに合計17兆円を超えました。これは当然過去最大。このペースで買い入れを続ければ、市場から国債がなくなってしまいます。現在の売買は、日銀が証券会社などに保有している国債を貸し出すことで成り立っている状態です*1。
こうした背景の中、市場は今回、日銀はYCCを撤回せざるを得ないのではないか? とにらんでいました。為替はそれを織り込み127円台まで急騰していたのです。ところが、日銀はまさかの緩和継続。
市場の思惑通りには動かない。もしYCCを止めるなら、それは市場に負ける形ではなくイニシアティブを取って止める(12月のように)という、日銀のメンツの現れでしょうか。
もはや緩和を止められない日銀
とはいえ、日銀が自縄自縛に陥っているのは、いろいろな識者が指摘している通りです。「こんな円安なのに、なぜ緩和政策を続けるのか?」という声に対して、「だって金利が上昇したら住宅ローンを保有している人が困るから」なんてことをいう人もいますが、日銀はそんなことは気にしていないでしょう*2。
日銀が最も懸念しているのは、金利が上昇すると政府の利払いが増加することです。日本の政府債務はGDPの181%(国債発行1000兆円、GDP552兆円)に達していて、金利が1%上がれば政府の利払いは1.81%増加することになります。
なぜ日本で利上げできないか。よく、住宅ローンが……なんて、国民のことを思ってるような説明を聞くけど、
— セミリタイア九条 (@kuzyofire) 2022年7月23日
住宅ローンどころじゃない借金が返せなくなるから。
「新金利が3%の場合、23年度における利払い費は30兆円を超える。つまり、現在の国家予算の3分の1程度」
国債償還も足すと半分が消える。
さらに金利の上昇は国債価格の下落です。すると500兆円を超える国債を保有している日銀は、大きな損失を抱えることになります。実際、金利が上昇すると債務超過になる恐れがあるということです。
これは日銀の信任を失わせ、円の暴落を招く恐れがあります。
というわけで、日銀はここからどう抜け出したらいいんだ? というのが、素人ながらの感想です。長期金利はYCC緩和という形で上昇を許容するかもしれませんが、政策金利は上げられません。果たして日銀はどうするのか。
債券専門のスコットマイナード氏は、日銀の政策について「持続不可能なものは持続されない」というプレゼンをしたといいます。日銀は4月に黒田総裁の退任を控えています。今後に政策について、注目です。