前編では、ふるさと納税の限度額を決める住民税の「所得割」額が、「総所得金額等」によって決まり、確定申告を行った場合、そこには株の譲渡益や配当益も入ることが分かりました。では、いったいいくら上限が増えるのでしょうか? まずはふるさと納税の上限額の計算を、深掘りしてみます。
控除額はどう計算されるか
まず、ふるさと納税をした場合、2000を除いた金額が所得税および住民税から控除(差し引かれる)形で処理されます。
このとき控除額の計算は次のようになります。
- 所得税:(ふるさと納税額−2000円)×所得税率
- 住民税(基本):(ふるさと納税額−2000円)×10%
つまり、所得税率が20%で、5万円をふるさと納税すると、(1)が9600円、(2)が4800円、合計で1万4400円が控除されて戻ってきて、実質のふるさと納税支払い(寄付金)は3万5600円支払ったことになります。あれ? ふるさと納税って2000円の自己負担で済むんじゃなかったの? なんで3万5600円も払うことになるの?
そう、この(1)と(2)は通常の寄付をした場合の控除で*1、ふるさと納税は、さらに追加の3番目の控除があるのです。それが「住民税からの控除(特例分)」です。これは次の計算式になります。
- 住民税(特例分):(ふるさと納税額−2000円)×(100%−10%(基本分)−所得税率)
何やらややこしいですね。控除する1〜3の式を合算してみましょう。
- (ふるさと納税額−2000円)×所得税率
- +(ふるさと納税額−2000円)×10%
- +(ふるさと納税額−2000円)×(100%−10%(基本分)−所得税率)
- =(ふるさと納税額−2000円)×(所得税率+10%+100%−10%−所得税税率)
- =(ふるさと納税額−2000円)×100%
- =(ふるさと納税額−2000円)
つまり(−10%(基本分)−所得税率)の項が相殺されて、合計の控除額は結局(ふるさと納税額−2000円)となるわけです。
住民税の所得割額の2割が限度額
そしてこの控除額にはそれぞれ上限が設けられています。
- 所得税:総所得金額等の40%
- 住民税(基本):総所得金額等の30%
でました。総所得金額等です。これは所得控除を差っ引いて損益通算して繰越損失も控除した残りについて、総合課税分も分離課税分も合計したものでした。なので、例えば所得が給与だけの人なら基礎控除とか給与所得控除とか社会保険料控除をしたくらいの額です。具体的には年収500万円なら242万円くらい。
(1)(2)の上限については242万円の4割、3割なので、所得税96万8000円、住民税72万6000円とけっこうな上限金額になります。そのため、ふるさと納税において(1)と(2)の上限が実際のキャップになることはありません。
実際の上限額を規定するのは(3)の住民税の特例分です。この上限は、下記のようになります。
- 住民税(特例分):住民税所得割額の20%
住民税の所得割額というのは、住民税の一部で、次の式で計算されます。
- 所得割額:(総所得金額等−所得控除額)×税率−税額控除額
出ました。「総所得金額等」です。これによってふるさと納税の上限額が決まるのです。
つまり次のようなプロセスです
- 総合所得や分離所得によって総所得金額等が決まる
- 総所得金額等によって所得割額が決まる
- 所得割額の20%がふるさと納税控除額のうち(3)の住民税(特例分)の上限になる
- ふるさと納税の上限は、住民税(特例分)+所得税分+住民税(基本)分
所得割額の限界額を計算する
では所得割額が増えたときにどれだけふるさと納税の上限が増加するのか、つまり限界額を計算してみましょう。まず先の図を、住民税を一つにまとめて計算式を調整してみます。
- 所得税控除額:(ふるさと納税額−2000円)×所得税率
- 住民税控除枠(基本):(ふるさと納税額−2000円)×10%
- 住民税控除枠(特例):(ふるさと納税額−2000円)×(90%−所得税率)
上限額をXとした場合、次の式になります。これを変形してXを求めます。
- (X−2000円)×(90%−所得税率)=住民税所得割額×20%
- X=住民税所得割額×20% ÷(90%−所得税率)+2000円
なるほど、ふるさと納税の上限額は住民税所得割の20%が基本ですが、そこに所得税率による補正が入り、税率が高いほど増加するわけです。税率は所得で決まり(累進課税)、所得が多いほど所得割も増加するので、所得が高い人ほど加速度的に上限額が増えることが分かります。
この式を表にするとこうなります(山口県下松市/ふるさと納税の上限額の計算方法)。
やっとここまで来ました。所得税は累進課税で所得が増えると税率がアップしますが、住民税は一定税率10%です。つまり所得が10万円増えればその10%の1万円所得割も増える……と思ったら、違いました。落とし穴があります。
所得税同様に住民税にも「給与所得控除」というものがあり、収入からこれを控除した課税所得の10%が所得割になります。この給与所得控除は収入額に応じて控除率が変化するのです。
これは収入が上がるほど控除額は増えますが、控除率は下がっていくことを意味します。そして収入850万円以上は控除額が増えません。グラフにするとこんな感じ。
では収入増分に対して、これがどんな影響を及ぼすのかというと、収入レンジによって課税所得増分が異なることになります。グラフにするとこうなります。
つまり、年収200万円の人は年収が10万円増えても課税所得は7万円しか増えません。所得割は課税所得の10%なので、7000円の増加となります。逆に年収が上がるにつれて、追加の10万円に対する課税所得は増加します。年収800万円なら10万円増えると課税所得は9万円増加です(所得割は9000円増加)。そして年収850万円を超えると、年収増分だけ課税所得も増えることになります。
ではこれらを合体させてみましょう。パラメータは結局収入額です。収入が増えると所得税率が上がって、ふるさと納税の限界増分は増えていきます。さらに収入が増えると住民税の給与所得控除率が下がり、これもふるさと納税の限界増分を押し上げます。
この表は、収入が増加すると増加した分の何パーセント、ふるさと納税の上限額が増加するかを示しています*2。例えば、年収700万円の人なら増分率は2.6%。つまり10万円収入が増えれば約2600円上限が増加することになります。
グラフにするとこうなります。グラフがガタガタしているのは100万円単位で計算しているからですが、だいたいこんな感じ。
給与増加とふるさと納税の上限額の関係
というわけで、いろいろ計算してみてやっとふるさと納税の上限額がどう決まるのか、腹落ちしました*3。上限額はもちろん収入が増えれば増加するのですが、リニアに増えるわけではありません。収入が増えるほど、ふるさと納税の上限額は非線形に増加します。
なぜかといえば、上限額には所得税額と住民税額の両方が関係しているからです。所得税額は給与所得控除と税率の両方に累進性があり、住民税は税率は一定ですが給与所得控除に累進性があります。そのため、年収が増えるに従いふるさと納税額も大きく増加するのです。
具体的な率はというと、だいたい増分の1.6%〜4.5%。10万円収入が増えると、1600円〜4500円分、上限額が増加します。もっともMAXに達するのは課税所得4000万円超の最高税率の場合ですけど。
これを見て「高収入ほどふるさと納税の恩恵が大きい!ズルい」と感じるかもしれませんが、逆にいえば払っている税金が多いほどふるさと納税の上限枠も大きくなるともいえます。つまり、ふるさと納税は税金の累進性を緩和する制度だともいえるわけです。
さて本当は、株や配当の利益でふるさと納税の上限がどれだけ増えるのかを計算したかったのですが、それは次回にて。