FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。投資歴20年以上。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

AIが雇用を奪うはオオカミ少年か? 書評『21 Lessons』

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19世紀から、機械の登場が雇用を奪うとして度々問題になってきました。ラッダイト運動とか、教科書にも載っていましたね。でも、その都度、機械は雇用を奪うことなく、新しい仕事が生まれて、雇用は移動し、結果として世界は豊かになってきました。

 

ところが今回の「AIは違う」という話は、たびたび耳にします。きっかけは2013年のオックスフォード大学オズボーン教授が出した「雇用の未来」でしょう。

note.com

日本でも、2015年に野村総研とオックスフォード大学が「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というレポートが話題になりました。

日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に

 

さて、「AIが雇用を奪う」は本当なのでしょうか? それともオオカミ少年なのでしょうか。自由主義のビュッフェに続き、『21 Lessons』から今回は雇用についてです。

今回は違うというもっともな理由

『21 Lessons』の中で、ユヴァル・ノア・ハラリは「今回は違い、機械学習が本当に現状を根本から覆すだろうと考える、もっともな理由がある」と書きます。人間の能力には、身体的能力と認知的能力の2種類があり、これまで機械は人間の身体的能力を代替してきました。

 

しかし、認知的な能力では機械に比べて圧倒的な優位を持っており、農作業や組み立てといった身体的な仕事が機械に奪われても、それを管理したり操作するような認知能力を使う仕事が新たに生まれてきました。

 

ところが、AIはこの認知能力を代替しようとしています。そうなると、機械に対して人間が圧倒的優位を得られる第3のジャンルはありません。雇用の受け皿はないのです。

AI=機械学習に関するよくある誤解

機械学習、特にディープラーニングについて関心のある人なら、そうだよね……と同意いただける内容だと思います。ただ、「しょせんプログラムは人間が作ったもの。人間が予め設定したこと以上のことはできないし、想像力も直感も得られない。騒ぎすぎだ」と話す人は、未だにいると思います。プログラムをちょっとかじった人に多い印象です。

 

ところが、いくつかの前提を元にすると、こうした考え方は時代遅れになっていることが分かります。一つは、人間の脳が持つ認知能力は、魂の働きによるもので機械に真似できないと考えるか、ニューロンの複雑な発火によるもので解析可能な機械的なものだと考えるかです。

 

現在の科学者のコンセンサスは、脳の働きは一定の仕組みによるもので、十分な演算能力があればアルゴリズムで代替可能だというものです。

私たちの選択はすべて、謎めいた自由意志ではなく、一瞬のうちに確率を計算する何十億ものニューロンによってなされることが判明した。自慢の「人間の直感」も、実際には「パータン認識」にすぎなかったのだ。

脳の仕組みはまだ完全に解き明かされたわけではありませんが、昨今のAIの進歩は、これまで「人間の直感にはアルゴリズムは勝てない」という素朴な人間最上主義を打ち崩してきました。もはや、この分野に詳しい人であればあるほど、特定の認知領域において人間はAIよりも劣っているというのは常識に近くなってきています。

 

数々の実験結果も、魂とか自由意志などを持ち出さなくても、人間の認知能力を説明できることを示唆しています。オッカムの剃刀のとおり、魂や自由意志はすでに不要になりつつあるのです。

 

手続き型のプログラムによって書かれたアルゴリズムから、大量のデータを元に学習して認知能力を獲得する機械学習に移行した時点で、すでに人間には「なぜそういう結論が出るのか」を理解することはできなくなっています。いまや、AIの判断を人間が分かるように説明すること自体が学問の一分野になっているのはご存知の通りです。

情動や欲望が生化学的なアルゴリズムにすぎないのなら、コンピューターがそのアルゴリズムを解読できない理由はない。そして、それをホモ・サピエンスよりもはるかにうまくやれない道理はない。

 AIの創造性

そんなわけで、特定の分野分野に限ってみれば、すでにAIは人間よりはるかに勝っています。チェスで、ディープ・ブルーが人間のチャンピオンカスパロフを打ち破ったのは1997年のことでした。その後、人間がチェスでコンピューターに勝てないのは常識になっていました。

 

そしてユヴァルは2017年12月6日が重大な節目になったといいます。Google参加のDeepMindが作ったAlphaZeroが、コンピューターチェスのチャンピオンStockFish8を打ち負かしたのです。この何がすごかったのか。AlphaZeroは、チェスのルールを教えられただけで、定石や戦略などは全く教えられることなく、自分自身との対戦を繰り返すことだけで、チェスをマスターし、これまでの最強のチャンピオンに勝利したのです。一度も負けることなく。

 

AlphaZeroがチェスをマスターするまでに、どのくらいの時間がかかったのでしょうか。なんとたったの4時間です。人間の叡智の一つとされてきたチェスは、単にコンピューターに負けたというだけではなく、人間の積み重ねられた叡智を全く必要とせず、たったの4時間で最強に到達したわけです。

 

そして2019年12月には、DeepMindはさらに進化したAI Muzeroを発表しています。囲碁チャンピオンを打ち負かしたAlphaGo、そこから囲碁の知識を予め教えることなくルールだけで自己学習したAlphaGo Zero、そして囲碁に限らず将棋やチェスでもルールを教えれば勝利するAlpha Zero。Muzeroは、ここからさらに進化し、ゲームのルールを教えることも必要なく、自らルールを学習ししていきます。いわゆるモデルベース強化学習です。

 

そのため、ルール=シミュレータを与えることが難しいとされる内容でも対応が可能です。しかも、Muzeroは特定のゲームに特化したソフトではなく汎用ソフト。さらに、Alpha Zeroにも勝利します。

ai-scholar.tech

 

すでにゲーム界では、AIが人間に勝っているのは常識です。それどころか、人間がAIを使ってズルをしていないかの判定には、その打ち手が「独創的かどうか」で判断されます。人間なら独創的なのではありません。

プレイヤーが飛び抜けて独創的な手を指したら、審判はそれは人間の考えた手であるはずがない、コンピューターの手に違いないと思うことが多い。少なくともチェスでは、創造性は人間ではなくコンピューターのトレードマークなのだ

さらに、AIには2つの大きな特徴があります。接続性と更新可能性です。複数のAIは相互に接続して、やり取りできます。例えば自動運転車は、相互に通信することで、互いに衝突することをほぼ確実に防げるようになります。AI医師は、新たな疫病や新薬に関する知識を、全員がまたたく間に獲得することができます。

 

これは、例え個別にはAIよりも優れている運転者や医師がいても、すべてを人間からAIにとって変えるほうが理にかなっている場合があるということです。残念ながら、個別個別の領域では、AIは確実に人間を凌いでおり、そしてその領域は日増しに拡大を続けています。人間は次第にAI包囲網に殲滅させられようとしているわけです。

 新しい仕事

すべての仕事ではないとはいえ、一般に考えられているよりもはるかに早いスピードでAIは進化し、人が行うよりも早く、正確で、創造的な仕事をこなすようになってきています。では人間の仕事はなくなってしまうのでしょうか? ユヴァルはそうでもないといいます。

アメリカ軍は、シリア上空を飛ぶプレデターやリーバーといったドローンを動かすには、一機あたり30人必要で、得られた情報を分析するのに、さらに少なくとも80人が従事している。2015年、アメリカの空軍は、これらの職をすべて埋めるだけの人材を確保できず、その結果、無人機のための人材の不足という皮肉な危機を迎える羽目になった。 

確かにAIが進歩しても、新しい職は生まれています。しかし問題は、これらの仕事は高度な専門技術や知識が必要とされ、非熟練労働者の失業は解消できないことです。従来機械技術の進歩が人の職を奪ったときは、それまでの高度な技能を必要としない繰り返しの仕事は失っても、別のやはり単純な仕事に移ることができました。しかし、AIによって生まれた新たな職はそうはいきません。

2050年には、ロボットに仕事を奪われたレジ係や繊維労働者が、ガン研究者やドローン操縦士や、人間とAIの銀行業務チームのメンバーとして働き始めることはほぼ不可能だろう。

ユヴァルはこの状況を、「高い失業率と熟練労働者の不足という二重苦に陥りかねない」と評します。そう。AI時代には、「多くの人は、19世紀の荷馬車の御者ではなく、19世紀の馬と同じ運命をたどる可能性がある」というわけです。

政府の役割

こうした中で、何が起こるのか。現在でも、マックジョブと呼ばれる非熟練労働者階級は厳しい状況にありますが、ここからさらに「無用者階級」の増大がおこるかもしれないとユヴァルはいいます。現在の仕事はAIとロボットに取って代わられ、新たに生まれた仕事には就けるだけの技術や知識がない人達です。

 

実際に、こうした無用者階級の発生はおとぎ話ではありません。そして、AIの進歩は、我々の予想を上回るスピードで進んでいると考えたほうがいいでしょう。そんなとき、政府や、また人類はどんな対応をすべきなのでしょうか。

 

「新しい社会モデルと経済モデルをなるべく早急に開発する必要がある」とユヴァルはいいます。それは雇用を守るという観点ではなく、社会的地位と自尊心を守ることを重点とすべきだというのです。「レジ係になることを一生の夢にしている人などいない」というわけです。

 

これはつまり、政府が普遍的な最低所得保障を行うということです。世界各国で実験が始まっているベーシックインカムですね。さらに、所得保障ではなく最低サービス保障もありえます。最低限のお金を渡す代わりに、無料の教育や医療や交通などのサービスを提供するというわけです。ユヴァルは、「労働者階級の革命を始めるという共産主義の計画はおそらく時代遅れになったとはいえ、私たちは他の手段によって、共産主義の目標の実現を依然として狙うべきなのかもしれない」と書いています。

ポストワーク時代

仕事を機械に取られ無用者階級となった人間に必要なのは、最低限の所得保障と、そしてないよりも社会的地位と自尊心です。仕事は単にカネを稼ぐための手段ではなく、社会的地位と自尊心を与えてくれるものだからです。

 

ユヴァルはこれを「ポストワーク」といいます。そして、このポストワーク世界で満足した人生を送る実験について紹介しています。イスラエルのユダヤ教超正統派です。

この国では、ユダヤ教超正統派の男性の約半分が一生働かない。彼らは聖典を読み、宗教的儀式を執り行うことに人生を捧げる。彼らと家族が飢えずに済むのは、一つには妻たちが働いているからで、一つには政府がかなりの補助金や無料のサービスを提供し、基本的な生活必需品に困らないようにするからだ。

そして、このユダヤ教超正統派の男性は貧しく、仕事にも就いていませんが、どの調査でもイスラエル社会の他のどんな区分の人よりも、生活満足度が高いといいます。コミュニティ内の絆の強さとともに、聖典を学び、儀式を取り扱うことに深い意味を見出しているからです。

 

「ロボットとAIが人類を雇用市場から押しのけていくにつれ、ユダヤ教超正統派は過去の化石ではなく、将来のモデルとみなされるようになる可能性がある」とユヴァルはしています。

雇用とFIRE

雇用がAIとロボットに奪われていく中、民主主義の国では増加する無用者階級を政府が支援する道は不可避でしょう。そして、カネだけでなく考えなくてはいけないのは、そうなった人たちの社会的地位と自尊心です。生活保護のような受けるのが惨めに感じるような制度にしてはいけません。

 

このように「仕事って何のためにあるんだっけ?」と考えると、FIREの見え方もまた変わってきます。カネのためにやりたくもない仕事を辞めて、資産からの不労所得で生きていく。これがFIREの基本的な考え方です。そしてそのとき、仕事は社会的地位と自尊心のために行うものになるでしょう。FIREまたはセミリタイアは、無用者階級の先取りともいえるかもしれません。

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