FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

エミン理論:実需としての金、そして原油はどうなる?

9月26日にオンラインで行われた「投資戦略フェア」のエミン・ユルマズ氏の「今後の世界経済と市場見通し」を見ました。エミンさんは、そのロジックもさることながら、出来事にキャッチーな名前を付ける才能が素晴らしく、とても聞いていて楽しいエコノミストです。

 

そこから、金価格、原油価格について、そして大統領選の行方について、聞いたこと、考えたことをまとめておきます。

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天井を打った金 ただし実需の回復も

コロナショック後、米国のすさまじい金融緩和もありドルが下落、安全資産として金が買われ、一時2000ドルを超えるなど、史上最高値となりました。現在は1900ドル程度と落ち着いてきていますが、今後をどう見るか。

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エミン氏は、目先の天井は打った、と話します。ただし、注目はつぎの実需です。「投資手段の価値もあるが、実需もある。例えば、トルコ人は結婚式でお金ではなく金を持っていく。コインやブレスレッドなどだ。でも、今は結婚式がコロナでできない」

 

金については、価値の保管として投資に使われるほか、大きな実需があります。実は、電子機器や金歯などの産業用需要は全体の10%弱、中央銀行が金準備として購入する分は9%程度、そして全体の6割近くを占めるのが宝飾品需要だとされています(FGMS受給統計データ、金の需要~様々な金の用途とは?~|第一商品より)。

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そしてこの宝飾品需要の80%強がアジア地区です。中でも2大大国が、中国とインドだと言われています。ちょっと前のデータですが、中国が900トン程度、インドが700トン程度の需要を持ち、これだけで1600トン。宝飾品需要の大半を、この2国が占めます。

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金が上がる:実需の2大国 中国、インドで35%占める 投資家と異なる民衆の買い=亀井幸一郎 | 週刊エコノミスト Online

 

2015年のデータですが、金宝飾品の国別需要量は、インド(675トン)、中国(564トン)、米国(141トン)、サウジアラビア(58トン)、UAE(49トン)、トルコ(49トン)ロシア(42トン)の順。日本にいると、金はごく一部の宝飾品で見るくらいですが、実は世界では金の宝飾品はみんな大好きなわけです。

 

しかし宝飾品需要はコロナで大きく減退しました。

宝飾品の需要は同53%減の251トンと、2四半期連続で過去最低を更新した。金価格の高騰もあって消費者の購入意欲が鈍った。各国中銀の金買いも減少。購入量から売却量を差し引いた純購入量は同50%減の115トンとなった。工業用需要も67トンと同18%減った。

世界の金需要11%減 4~6月 WGC調べ :日本経済新聞

 もともと中国人などは、金が安くなれば買い、高ければ買わないのだそうです。コロナによって結婚式も開かれず、人に見せるための宝飾品の需要が減るのも分かります。しかし53%減とはすごいものです。

 

一方で、金投資需要は同期間で98%増。みんな上昇する金価格を見て、金投資に走ったことがよく分かります。

 

金が高値で安定してしまうと、宝飾品需要は制限されるかもしれません。しかし、コロナが一服してロックダウンが解除されてくれば、再び贈答用含め、宝飾品としての需要も戻ってくるかもしれません。もともとの需要が大きいだけに、ここが動き始めれば金価格はさらに上昇するかもしれません。エミン氏は「中長期で見ると、大きな上昇、強気トレンドだ」としていました。

飛行機が飛ばない原油

原油については、現在40ドル程度。とにかく需要がないため、価格のアップサイドは限られるというのがエミン氏の見通しです。

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では原油は何に使われるのか。これまた古いデータですが、次のようになっているようです。2割が石油製品の原料、家庭や業務用で使われる加熱用途に16%、電力用途は6%程度しかありません。そして、最も大きいのが自動車で36%です。航空機需要は1.8%程度です。

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エネルギー収支比から見た石油の代替エネルギー (01-04-01-19) - ATOMICA -

自動車が使うガソリンは、コロナで大きく需要が減っています。

GS事業者で組織する全国石油商業組合連合会(全石連、東京)によると、緊急事態宣言が全国で発令された4月中旬から5月下旬のガソリン需要は前年同期比で約3割減少した。5月25日の宣言解除後、需要は持ち直してはいるが、感染第2波への懸念や在宅勤務の定着で車を使った移動は今後も控えられる可能性がある。

ガソリンスタンド、経営多角化に活路 高齢化、コロナ禍で需要減:時事ドットコム

 国内で見ても、ガソリン需要の3割ダウンですから、原油需要全体の12%が吹き飛んだ計算です。確かに需要増大は期待できそうにありません。

 

一方、全体の約6%を占める電力も、ロックダウンの影響で大きく打撃を受けました。完全ロックダウンのイタリアでは、一時40%近くまで需要が低下しました。

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 原油は需要減退から、一時先物価格がマイナスにまで落ち込むなど、すごいことになりましたが、世界全体で見るとコロナはまだまだ猛威を振るっており、原油需要が元に戻るにはかなり時間がかかりそうです。テレワークの普及などライフスタイルが変わることも影響するでしょう。

 

エミン氏は、特に1.8%を占める航空機需要について述べました。「IATA(国際航空運送協会)によると、2020年は旅客数は55%減少。2021年は62%増加だが、コロナ前の3分の2。19年の状況に戻るのは2024年になる」

 

IEA(国際エネルギー機関)。は2020年のエネルギー需要は全体で6%減と見ており、需要面での減退は避けられません。あとは、産油国側で何かが起こり、産出量が大きく減少すれば別ですが、そうでもなければ、原油価格の上昇は期待できなそうです。

コモディティは難しい

金も原油も世界経済にとって重要なものですが、こうしたコモディティは本当に難しいですね。金は、現金や債券に代わる安全資産の意味合いがあって、金融緩和やインフレが起こりそうなときには買われます。一方で、原油は実需が中心ではありますが、一部の新興国は原油に経済を依存しており、原油価格が株価にも影響します。特にロシアがそうですね。

 

下記は、新興国株式インデックス(青)と原油価格(赤)のチャートです。ひと目で見事な相関があることが分かります。原油自体を買っていなくても、新興国に投資していたり、全世界株式を買っていれば、間接的に原油価格の影響を受けるということです。

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個人的には、米国中心の時代はまもなく終わると考えており、向こう5-10年で新興国のターンが来るのではないかと70%の確信度で考えています。そのため、全世界の時価総額に対して、新興国をオーバーウエイトしているのですが、コロナはこれには向かい風でした。

 

ちなみに、エミン氏は「米国と中国が争う新冷戦のさなかにおいては、日本のターンが来る」と言っています。米ソ冷戦の間も日本の株価は大きく上昇し、実は米国のリターンを上回っていました。そして冷戦終結とともに、失われた20年に突入したわけです。

 

個別株に比べてインデックスはつまらないと言われますが、長期で見た経済の動きに対して、どのようにポートフォリオを配分するかは、大変難しく、非常に面白いものです。ぼくは、当時の日本の株価上昇は、どちらかというと人口動態や、戦争からの復興という観点で見たほうが納得感があるので、今後の日本の株価上昇には懐疑的です。そのため、日本株についてもアンダーウエイトとしています。

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