オプションは本当に面白いものです。株式だけ見ていると、値段が上がった下がったばかりが気になりますが、こうした価格が変動する資産は、変動の大きさ(ボラティリティ)、時間的な価値(タイムディケイ)も含んでいます。これらをトレードできるようにしたのがオプションです。
オプションの概念を理解すると、株価の上下だけでなく、そのほかの価値も理解できるようになるのではないでしょうか。
本質的価値と時間的価値
オプションのプレミアム(価値)は本質的価値と時間的価値に分解できるといいます。本質的価値とは、原資産価格よりも行使価格が小さいときに生まれるものですね。つまりITMです。価格が全く変わらなければ、その差が利益になる値です。
もう一つがオプションの根本価値である時間的価値です。オプションは最終的に(満期日で)ITMにならなければ、価値(プレミアム)がゼロになります。しかし、満期日にまでに時間があれば、ITMになる可能性があるわけです。これが時間的価値です。
時間的価値=残存日数とボラティリティ
残存価値とは、言い換えると、満期日までに行使価格が株価よりも小さくなる(ITMになる)可能性だともいえます。ITMにならなければ、最終的にそのオプションの価値はゼロだからです。
満期日までに行使価格が株価よりも小さくなる可能性は、残り時間が長いほど高まり、また変動率(ボラティリティ)が大きいほど高まります。つまり、残存日数が少なくなるにつれて、どんどん価値が減っていきます(タイムディケイ)。この減り具合を示すのがセータですね。
時間的価値の減り方はいつも一定なわけではなくて、最初はなだらか(セータ小)で、満期に近づくにつれて急(セータ大)になります。イメージはこんな感じです。
ちなみにセータはガンマの裏返しで、ATMで最も大きくなります。
表にするとこんな感じです*1。
ショートの味方、セータ
オプションにおいては、ショートしたときに味方なのがセータです。時間が経つにつれて時間的価値が減少していくので、買い戻しの価格がどんどん小さくなっていくからです。1日、また1日と、ショートしたポジションでは、セータ分だけ利益になっていきます。
逆に、ロングのときはセータは常に敵です。待てば待つほどポジションの価値はどんどん下がっていきます。思った方向に価格が動いても、そこに時間がかかりすぎれば、セータのために負けてしまう場合もあります。
セータとガンマ
ガンマの項で、オプションのロングとショートを組み合わせて、デルタをゼロにするガンマロング戦略(ポジティブガンマ)を紹介しました。これは、価格が上昇しても下落してもガンマによって利益が出るという戦略でした。
とこころがここには敵もいます。それがセータです。常に、オプション買いはガンマ買いで、オプション売りはガンマ売りです。逆にセータは、オプション買いでセータショートとなり、売りでロングになります。ガンマとショートは相反する性質を持っています。
残存期間やITM/ATM/OTMとの関係も、セータとガンマはちょうど裏返しになります。ガンマもセータもATMで最大となり、残存期間が少なくなるにつれて増大します。つまり、どんな状況でも、セータとガンマは競合していて、どちらかをロングにすれば、もう一方はショートになる関係にあります。
デルタをヘッジしたガンマロングのとき、最大の敵はセータということになります。価格が変動すればガンマから利益が出ますが、一方で常にセータによって利益は削られていきます。セータによる時間価値の減少分よりも多く、変動によってガンマから利益が得られるか。それがガンマロングポジションのポイントになります。
ロングだとガンマロング/セータショート
セータとガンマは裏返しの関係にあるので、どちらかだけを消し去ることは基本的にできません。オプションはロングだと、ガンマが味方でセータが敵になります。逆に、ショートだとガンマが敵でセータが味方です。そのため、コールでもプットでもロングとショートを組み合わせれば、セータもガンマもニュートラルにしてヘッジが可能になります。
原資産価格の変動が及ぼす影響を微分したガンマと、タイムディケイの影響度を表すセータ。この2つが鏡の向い合せの関係というのは、どことなく不思議ですね。ブラック=ショールズ式を解けば自明のようなのですが、ぼくにはなんとも。
オプションは、よく損益曲線で解説されたりしますが、本質はやはりデルタ、ガンマ、セータ、ベガといったグリークなんだと思います。どのグリークが味方で、どのグリークが敵なのか。それを把握することが、醍醐味だと思ったりしています。
*1:一般に時間的価値はATMで最も大きくなり、OTM、ITMでは減少します。OTMになるほどITMになる可能性が下がるので時間的価値が小さくなるのは分かるのですが、なぜITMのほうがATMよりも時間的価値が小さいのかは、ちょっと調べてもわかりませんでした。あとで書籍などにもあたってみます