もはや完全に「コロナショック」という表現が定着してきました。一時は、中国国内に留まるかと見られた新型コロナウイルスの影響ですが、WHOのパンデミック宣言のとおり、世界各国の経済に影響を及ぼしつつあります。
まさに10年に一度、あるいはもっと深刻な状況になりつつあるコロナショックの現状を、考察してみます。
全体俯瞰
まず全体の流れを、ぼくはこう見ています。
- 中国国内でコロナ蔓延 中国景気失速とサプライチェーンへの影響
- 日本などアジアに波及 株価下落
- 欧州イタリアに波及&原油増産による急落 世界各国で株価暴落
- 米国企業で債務不安 ハイイールド債などデフォルト危機
- 金融危機に移行するかどうか?
それぞれ時系列で見てみます。
19年〜20年初頭 武漢で新型コロナアウトブレイク
最初は、19年11月に武漢で発生が確認されたところからでした。感染者は1月末には1000人を越え、死者も200人規模に拡大。感染者は急速に増加し、2月末には8万人を越えます。死者も約3000人に。
ただし新規感染者数がピークを付けたのは2月4日。治療中患者のピークをつけたのは、2月15日前後。その先は感染者増加は抑え込まれ、回復者も含めて8万人程度でほぼ抑え込みに成功しています。
※Wikipedia 中国本土における2019年コロナウイルス感染症の流行状況
2月24日 株価急落
この頃、米国市場はまだ絶好調でした。Appleが中国事業懸念から下げた一方で、2月20日にはナスダックもS&P500も過去最高値を更新しています。
ダウが一時1000ドル下落ということで、暴落の幕開けとなったのが24日でした。とはいえ、それでも2万7995ドルです。VIXも40%上昇しましたが、それでも24。長期金利も1.36%と、まだ過去最低には届いていません。
ここから、株価は毎日のように値を下げます。そして、長期金利は下落を続け、金価格も上昇します。3月上旬など、下げが一段落したかに見えたタイミングもありましたが、再び転機を迎えたのは3月6日の金曜日でした。
3月9日 大クラッシュ
真に市場がクラッシュしたのは3月9日週からです。
- 日経平均5.07%安
- ドル円相場 101円台まで急落
- 原油30ドル切り
- 長期金利下落
この3月9日週の怒涛の一週間をまとめたのが下記の記事です。
背景にあったのは、OPECプラスの会合決裂です。サウジアラビアは増産に乗り出すことを示唆。原油価格は40ドル台から30ドルまで急落しました。もう一つは、中国およびアジアの出来事だったコロナが、3月に入ってイタリアでアウトブレイクしたことです。
このタイミングから、株価はさらに下げを加速させるとともに、市場ムードは次の段階に進みました。金価格が下落に転じ、長期金利も上昇、Bitcoinも売り込まれるという状況の反転です。
すべての資産が売り込まれる中で、では何をみんな買ったのかといえば、ドルです。これは、各通貨バスケットに対するドルの価値を示すドルインデックスを見るとよく分かります。
3月9日を堺に、ドルインデックスが急上昇に転じているのがよく分かります。持っているものを投げ売りしてでもドルに変える。それが直近起こっていることです。
懸念される原油価格
さて、ちなみになぜ原油価格の下落が市場をこれほど動揺させたのでしょうか。それには原油価格の採算ラインを見る必要があります。
※ピクテ 2015年レポートより
このように、2015年時点で、米国シェールオイルの採算ラインは85ドル。2020年時点では40〜50ドルと言われていました。ロシアは30ドル、そしてサウジは7ドルです。各国が減産に合意しなければ価格は下落します。さらにサウジは増産を始めています。
これは、石油を安売りすることで、各国が採算ラインを割り赤字にすることで、打撃を与えようという、いわば石油戦争です。直近20ドルまで下落しましたが、これではサウジ以外には利益が出ません。
こうなると懸念されるのが、米シェールオイル企業です。シェールオイル企業が破綻すると、影響が懸念されるのが社債(いわゆるハイイールド債)です。例えば、ハイイールド債ETFのHYGでは、エネルギー領域の債券比率が7.5%程度となっています。
もしシェールオイル企業がデフォルト(社債を返済できなくなる)したら、ハイイールド市場には大影響です。このリスクを嫌って、すでにハイイールド債のスプレッドは急拡大しており、つまりハイイールド債ETFの価格は急落しています。
企業の資金繰り懸念から金融危機につながるか?
資金繰り懸念が出ているのはシェールオイル企業だけではありません。航空旅行業や自動車産業など、休業が相次いでいます。企業は、優良企業であっても資金需要を短期の借り入れでまかないます。いわゆる無担保の短期約束手形、コマーシャル・ペーパー(CP)です。
無担保なので優良企業しか発行できず、このCPを借り換えていくことで必要な運転資金を調達するのが普通です。
ところが、このCPにさえ不安が襲っています。各社のCP金利が上昇してきているのです。先程ドルインデックスの上昇を見たように、債券ではなくドルをみんな欲しがっています。FRBは17日にCPを買い取るという措置を公表しましたが、これはつまりCPを政府保障したということですね。それでもまだ不安が収まりません。
おそらく、いまFRBなど各国中銀が注視しているのは、原油下落&経済悪化に伴う企業の資金繰り懸念です。ここで資金繰りができず破綻となると、連鎖的に倒産が進む可能性があります。さらに、それはさらに短期のCPから社債、ハイイールド社債、CLOまで信用不安を呼び、それこそ金融危機に発展する恐れさえあるでしょう。
リーマンショックの際は、金融危機が実体経済に波及しました。今回のコロナショックでは、実体経済の問題が金融危機に波及するリスクが出てきています。これを食い止められるかどうか。それが、危機がコロナウイルスが収束した段階で止まるのか、景気後退→金融危機という最悪のシナリオに進むのかの境目なのだと思います。