14日早朝にAppleがiPhone12を発表しました。何年かぶりにリアルタイムで発表映像を見たのですが、ワクワクするところもありつつ、はてイノベーションって何だったけ? と思ったのも事実です。iPhoneの歴史を振り返るとともに、イノベーションについて考えてみたいと思います。
iPhoneのマイルストーン
初代iPhoneは2007年1月9日に発表されました。スティーブ・ジョブズが行ったプレゼンテーションは、今見ても衝撃的です。
数年に一度、全てを変えてしまう新製品が現れる。それを一度でも成し遂げることができれば幸運だが、Appleは幾度かの機会に恵まれた。
1984年Macintoshを発表。PC業界全体を変えてしまった。
2001年 初代iPod。音楽の聴き方だけでなく音楽業界全体を変えた。
本日、革命的な新製品を3つ発表します。1つめ、ワイド画面のタッチ操作のiPod。2つめ、革命的携帯電話。3つめ、画期的ネット通信機器。
3つです。タッチ操作iPod、革命的携帯電話、画期的ネット通信機器。iPod、電話、ネット通信機器。
iPod、電話……お分かりですね。独立した3つの機器ではなく1つなのです。
名前はiPhone。本日、アップルが電話を再発明します。
そして、翌年2008年6月9日。3Gに対応し、日本でも使用できるiPhone 3Gが登場しました。ソフトバンクが独占的に取り扱い、躍進のきっかけになりました。AppStoreもp同時にスタートし、現在に至るエコステムが始まっています。当然購入し、たいへん興奮したのを覚えています。
4G LTEに対応したiPhoneは4(2010年6月)から。このときは4G対応ということよりも、前背面ガラス、スチールの枠組みという斬新なデザインが話題になりました。落とすとけっこう簡単に欠けてしまう脆さもありましたが、iPhone=美しいと感じたのはここからです。友人が先行入手したiPhone 4を、飲み屋で見せてくれ、ものすごく感動したのをよく覚えています。
そして翌年10月に発表したiPhone 4Sが、スティーブ・ジョブズが手掛けが最後のiPhoneとなりました。Siriに対応したことが大きなポイントです。日本ではauも取り扱いを開始しました。
iPhoneが起こしたイノベーションは何か
初代のiPhoneから数えて、iPhone Xが12世代目、今回のiPhone 12は15世代目にあたります。登場から14年。果たしてiPhoneはどんなイノベーションを起こしてきたのでしょうか。
イノベーションの定義はさまざまでしょうが、ドラッカーが言う「企業の目的は顧客の創造である。そのために必要なのが、マーケティングとイノベーションだ」という言葉が、ぼくにはしっくりきます。これまでなかった新たな市場を開拓するような製品やサービス。それこそがイノベーションです。
iPhone自体は、スマートフォンという新たな市場を切り開きました。技術的にいえば、ワイドスクリーンの携帯電話はたくさんありましたし、Webブラウジングしたりアプリをインストールできる携帯も存在していました。iPhoneは特に技術的なブレイクスルーではありませんでした。
それでもiPhoneをイノベーションと呼ぶのは、スマートフォンという製品を誰もが欲しがるものに変え、10年ちょっとで日本人の7割が持つという市場を作り上げたのです。iPhoneはスマートフォンの代名詞であり、Androidも含め、その後出てきたスマートフォンはすべてiPhoneの考え方をベースに改良を加えたものでした。
iPhone 12にイノベーションはあるのか?
こうした観点からiPhone 12を見るとどうでしょうか。残念ながらイノベーションと呼べるような点はなく、単なるハードウェアの正常進化にとどまっています。この兆候はiPhone 5あたりから始まっています。
iPhone 5では使用しているプロセッサをApple A6と名付け、いかにパワフルかをアピールしました。いや、確かに動作がもたつくことはあったけどさ、CPUが速いことが特徴なの? と感じたのを覚えています。
近年では「いかにカメラがキレイか」を毎回アピールしています。確かにスマホにとってカメラは重要です。ただ、それはスマホ同士の比較では意味があるものの、イノベーションではまったくありません。
通信速度もそうです。2Gから3Gへの進化は、確かに質的な変化をもたらしました。その後漸進的に速度が上がっていく中で、屋外でもストレスなく通信が行えるようになってきたのは事実です。ただ通信速度が購入の決め手になったということは、ほとんどありません。今回も「5Gだから欲しい」という人はほとんどいないでしょう。
iPhoneの進化の中で、敢えてイノベーションに近いと考えるのは、一大市場となったApp Store、信頼して利用できる顔認証のFace ID、iPhone 12 Proに搭載されたLiDARスキャナくらいでしょうか。App Store以外は技術面の話であり、体験をどこまで変えていくのも分かりません。
iPhoneが生み出したイノベーションは、14年間でコモディティ化の道を進んできました。他のスマホに比べて高価格でも売れることによる高い利潤をもとに、開発に潤沢なリソースをつぎ込み、垂直統合の力で製品としての完成度を誇ってきたiPhone。確かに魅力的なデザインであり機能であり品質を持っています。ただし、イノベーションがあるのか? と言われると、残念ながらもはやそれはありません。
Appleのイノベーション
ただしAppleという企業がイノベーションと無縁になってしまったかというと、そうでもありません。確かにスティーブ・ジョブズ在命中は、
といずれも新たな市場を切り開く、まさにイノベーションといえる製品を出し続けてきました。イノベーション的な製品かどうかは、発表の中にハードウェアスペックの数字がほとんど出てこないことで分かります。イノベーティブな製品の課題は、従来の製品に比べて優れているか否かではなく、「これを使って何ができるのか?」というユースケースを受け入れてもらえるかどうかにあるからです。
2011年秋のジョブズの死後、こうしたイノベーションの素養はAppleから失われてしまうとぼくは思いました。当時、Apple株を買うかどうか、ひとしきり迷い、結局買わなかったことを覚えています。確かにプロダクトとしてはAppleの製品は素晴らしく、愛用しているが、それはジョブズの遺産であって、これからはそれを食いつぶすだけではないか? そんなふうに思ったからです。
結果的にはこれは間違いでした。数は多くありませんが、ジョブズ以後のAppleもイノベーティブな製品を出しています。その最右翼が2015年のApple Watchです。ティム・クック初の新製品発表会で「One more thing…」というジョブズの十八番だったセリフを言います。
Apple Watchはまさに市場を創造しました。2019年には、Apple Watchの出荷台数がスイスの時計業界全体を上回ったという推計も出ています。スマートウォッチの中では過半のシェアを持っています。
そんなわけで、企業としてのAppleの躍進の背景には、数々のイノベーティブな製品を生み出してきたということ。1つでも奇跡的なのに、数年ごとに複数ですから驚異的です。そのペースは落ちてきているものの、能力はまだ健在だと思われることを見てきました。
そしてカテゴリーリーダーとしてのAppleは、ティム・クック指揮のもと、比類ない力を持っています。だから、iPhone 12にイノベーティブな要素がなくても、ぼくは買いますよ。今回のiPhone。特に、小さいのが好みなので、今回はiPhone 12 miniです。