3月10日、シリコンバレー銀行の破綻が衝撃を呼びました。何が起こって、どこに影響があるのでしょうか。
何が起こったのか
シリコンバレー銀行の破綻は、総資産28兆円規模でリーマンショック以来の規模だといいます。しかし、破綻の原因は比較的シンプルでした。いわゆる、古典的な取り付け騒ぎです。
まず背景として、昨今の金利上昇があります。これが引き起こしたのは、グロース株の下落でした。グロース株は将来利益が高株価を支えています。金利が上昇すると割引率が上昇し、それが将来利益を減少させることでバリュエーションが下がりました。
これはグロース株だけの下落にとどまりません。同様のロジックで、未上場のスタートアップの評価額も減少しました。これは、資金調達が難しくなることを意味します。前回の評価額よりも低い評価額で資金を調達する、いわゆるダウンラウンドは、関係者全員に取ってうれしくない出来事だからです。さらにIPOも難しくなります。
これは現金を生み出せず、調達に頼るスタートアップにとって、現金がどんどん減少していくことを意味します。キャッシュが重要になったのです。
さて、そうしたスタートアップを資金面で支えていたのがシリコンバレー銀行(SVB)でした。スタートアップに長期の貸付を行うとともに、スタートアップからの預金を引き受けていました。
スタートアップの現金需要が高まり、引き出しが始まります。SVBの決算資料を見ると、顧客資産が毎四半期減少していることが分かります。
銀行の常として、顧客が資金を引き出すなら、その分のキャッシュを作るために手持ちの資産を売らなくてはなりません。ところが保有している債券というのものは、金利が上昇すると価格が下落します。つまり含み損となるわけです。満期まで持っていれば満額が返ってきますが、キャッシュを作るために含み損でも資産を売らなくてはならない。これが起こったことです。
Investment losses driven by private fund investment markdowns and sale of $1.0B AFS securities
プライベート・ファンド投資の評価損および10億ドルのAFS証券の売却により、投資損失を計上
SVBはこのように記しています。AFS証券とは売却可能証券という意味です。
2022年Q4決算の段階では、「市場の課題は引き続きあるが緩やかであり、長期的な機会については引き続き楽観的である」としていました。
しかし、いったんは金利上昇がストップしたかに見えた状況は暗転します。1月のCPIです。久々に大きな上昇を見せ、ターミナルレートも上昇、利下げ期待は遠のきました。金利は上昇、つまり債券はさらに安くなったのです。
こうなると、「SVBはヤバいんじゃないか? 預金を引き出そう」→「キャッシュを作るために資産を売って損失を出さざるを得ない」→「損失が膨らんでいる。SVBはまずいんじゃないか?」という負の連鎖の拡大です。負の自己予言です。そのようにして、破綻に至ったといわれています。
長短金利差で儲ける銀行のビジネスモデル
そもそも、銀行というのは短期の資金を集めて(預金)、長期の貸し出しで利益を得るビジネスです。短期よりも長期のほうが金利が高いことが、そのビジネスの前提です。長期金利が上昇すると銀行株が上がりますが、それは長短金利差が儲けのベースだからです。
ところが米国において、その長短金利差は逆転に入りました。いわゆる逆イールドです。長短金利差(10年債と2年債の差、10Y-2Y)は2022年7月にマイナスに突入です。
そして歴史的には、逆イールドの後にはほぼ毎回リセッションが発生しています。しかも今回の逆イールドは、1980年代の大恐慌なみの状況です。
これからどうなる?
さて、これからどうなるのでしょうか? 下記ナウキャストの辻中CEOは、「SVBの負債構造は他の金融機関の信用不安に波及しない」ために、当局は救済ではなく破綻を選択したのではないかと分析しています。
SVB問題、株やスタートアップ視点からはいろんな方が解説してるので、あえて当局者目線にできるだけ立って整理してみる(あくまでできるだけ)。
— Masashi Tsujinaka@ Nowcast (@masakyotwo) 2023年3月11日
まず、この件はなぜ破綻したかを分析するべきと思う。報道では同行の運用先のMBS等の有価証券の評価損が利上げに伴い拡大したことが指摘されてる(続く
銀行破綻は、リーマンショックのときを思い出しても分かるように、1行が破綻するとそこに資金を預けていた銀行も破綻し……と連鎖破綻するのが最悪の事態です。それを避けるために、中央銀行は「最後の貸し手」として信用不安が起きた銀行に無制限に貸付を行います。
ところが今回はあっさりと破綻させました。これは、SVB破綻がそこだけで収まると当局が見たのではないかということです。
13日日本時間早朝、米当局は「シリコンバレー銀行の預金を全額保護」するという声明を出したようです。銀行を救うのではなく預金だけを救う。これで信用不安が解消されるとありがたいものです。
現在、信用不安の波及を恐れて銀行株は軒並み下げています。米国上位行は軒並みこの5日で大きく下げました。
ただ、10日が下げのピークで、SVBが実際に破綻したことで株価は多少戻しているようにも見えます。ただ、週明けの状況によっては、銀行にとどまらず株価全体に波及したりする可能性も否定できません。
ステーブルコインに波及も
SBVが他の金融機関に波及しない……というのは伝統的な金融機関にはという意味でしょう。テック業界ではSBVに資金を置いている企業も多く、そうしたところは波及ダメージを受けています。
中でもダメージを受けたのは、ステーブルコインUSDCです。USDCは裏付け資産をしっかり現金や米国債で保有しており監査も入れていることから、信頼の高いステーブルコインでした。ところが、USDC運営のCircleは、USDCの準備金400億ドルのうち、33億ドルがSVBにあることを明らかにしたのです。1月末時点では87億ドルがSVBにありました。
これにより、SVB破綻のニュースが流れた直後、USDCはドルペッグを外れ、一時0.88ドルまで売り込まれました。そこから戻しては来ているものの、まだ4%ほど割安で推移しています。
ステーブルコインは、裏付け資産が不透明だと定期的に疑惑が持ち上がるUSDTや、アルゴリズム型で破綻したUST(ルナ)、パクソスが運営するBinance USD(BUSD)がSECに提訴されるなど、なかなか不安が拭えませんでした。そんな中、しっかりとした裏付け資産を持つUSDCは最も信頼されていたのです。ところが、まさか裏付け資産を預けている銀行が破綻するとは。。。
なかなかにステーブルコインは難しいものです。そして銀行というのも、案外脆い基盤の上に立っているものだなと、最近再び増えてきた破綻を見ると思うものです。