FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

なぜ新NISAで高配当や隔月分配銘柄を買ってはいけないのか


新NISAのスタートまで半年を切りました。恒久非課税、最大枠1800万円とかなり大型の減税制度でもあり、注目度はバツグン。「成長投資枠」で購入可能な銘柄もちらほら公表されて、何を買おうか悩み始めるタイミングです。

 

ただ微妙なのが、高配当銘柄や隔月分配をうたう銘柄。要するに「非課税で配当金がたくさんもらえますよ、いいでしょ!」と主張する銘柄です。

高配当や隔月分配銘柄を買ってはいけない

まず結論からいうと高配当や隔月分配銘柄を買うのは悪手です。新NISAの制度からすると、分配金を出さない投信や銘柄を選択するべきです。え? 定期的にキャッシュがもらえて、しかもそこに税金がかからないなんて最高じゃん? どうしてダメなの?

 

ではまず次の2つの投資信託を考えてみましょう。

  1. 100の価格に対し、年に2回、1の分配金がある (分配銘柄)
  2. 100の価格に対し、分配金は自動で再投資される(非分配銘柄)

(1)は分配銘柄です。年に2回、1の分配金がもらえて、しかもそれは非課税。新NISAは恒久非課税制度なので、永遠に非課税でもらえます。一方の(2)は解約して取り崩すまで1円ももらえません。つまりそれまで非課税の恩恵も受けられません。(1)のほうが魅力的ですか?

 

では1年後を見てみましょう。

  1. 100の価格から5%株価が上昇して105に
  2. 100の価格に分配金2が再投資されて102、そこから5%株価が上昇して107に

当たり前のことですが、(1)は分配金を出してしまったので(2)のほうが価値は高くなっています。分配金を出さなかった代わりに含み益になりました。

 

ではこの2つは、分配金としてもらったか含み益のままかの違いだけで、投資のパフォーマンスとしては同じでしょうか? いやいや。実はこれが複利の力と呼ばれるものです。(2)で再投資された分配金2はそのまま運用されて、これ自体も増加していきます。2にも5%のリターンがついて回るということです。この差は、最初は小さくてもどんどん大きくなります。この配当再投資による複利が分配金を出さない銘柄を選択する理由です。

分配金再投資の不合理

えっと、これってNISAじゃなくて特定口座とかで投信を買うときの話だよね? 特定口座の場合、分配金に税金がかかるから損なわけで、NISAなら税金がかからないから、2つは同じでは? つまり受け取った分配金を自分で再投資すればいいんじゃない?

 

おお鋭い。その通りです。でもここで新NISAの重要なポイントである年間投資枠の話が出てきます。下記のとおり、新NISAでは年間に投資できる枠が決まっていて、つみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円です。

毎年360万円を新NISAに投資するとして、(2)の非分配銘柄ならば再投資は内部で自動的に行われるため、年間の投資枠を消費することはありません。ところが分配金をもらって自ら再投資する場合は、この枠を消費してしまうのです。

 

さらに総枠1800万円という制限もあります。これは運用額ではなく、購入時簿価というのがポイントです。つまり買い付けたときの金額の合計が1800万円までOKで、含み益はどれだけ大きくなっても構わないのです。

 

非分配銘柄の内部自動再投資なら、それは含み益として処理するので1800万円の枠を食うこともありません。ところが自ら再投資する場合は、1800万円の枠も使ってしまうのです。

二重課税の問題

この枠の問題だけなら「いや年間360万円も投資しないしどうせ余るし」という人には関係ないでしょう。しかし分配金の不利はそれに限りません。

 

高配当銘柄といった場合、思いつく銘柄の一つが米国高配当銘柄です。現在のNISAでも、米国高配当銘柄や高配当ETFを購入して非課税で配当を得ている人もいるのではないでしょうか。

 

しかし海外株やETFの場合、配当や分配金に二重課税が発生していることに注意が必要です。

  1. 現地で10%の課税(米国籍銘柄の場合)
  2. 国内で20.315%の課税

このうち、(1)の現地課税は確定申告を行い外国税額控除を行うことで取り戻すことができます。ところがNISA口座の場合、(2)の国内部分が非課税で二重課税になっていないという理由で、外国税額控除が行えないのです。

 

つまり、せっかくの非課税制度なのに、現地10%課税が残ることになります。配当目当ての投資の場合、せっかく非課税のNISAを使っても、国内課税20.315%がなくなる代わりに現地10%課税は残るわけで、少しもったいないですね。

 

ちなみに海外高配当銘柄に投資する国内投資信託の場合も、実は受け取った配当に対して10%の現地課税が行われ、残った額を内部的に再投資するという形を取っています。そのため海外銘柄に投資する場合、配当への税金をゼロにすることは現状できません。一方で、値上り益=キャピタルゲインについては国内海外ともにNISAを使えば非課税なので、やはり分配金ターゲットよりも値上りターゲットの銘柄を選択するのが良いというわけです。

配当控除の問題

では国内の高配当銘柄ならどうでしょうか。現地課税が発生するわけではないので、選択肢の一つになるのではないでしょうか。

 

ここで考えておかなくてはならないのは、配当控除制度の存在です。これは国内株式に限り、確定申告を行うと、配当に対する税率が(多くの場合)下がるという制度です。確定申告を行う=給与と合算して総合課税で税金を支払うわけですが、ここで配当に対しては配当控除という減税制度があって、

  • 所得税:配当所得の10%、税金が減る
  • 住民税:配当所得の2.8%、税金が減る

のです。総合課税は累進課税なので税率が高いと思われがちですが、この配当控除の存在によって、ほとんどの場合、20.315%よりも税率が低くなります。具体的には年収1300万円くらいまでは(扶養者の有無で変わる)確定申告して配当控除を受けたほうが低税率です。

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このようにけっこう有利な配当控除ですが、実はNISAでは配当控除を利用することができません。まぁ配当控除を使っても税金は払うことになるので、完全非課税のNISAのほうがいいといえばいいのですが、その効果が薄くなります。

 

つまり国内高配当銘柄については、新NISAを使わなくても配当控除でそこそこ税金を減らせるので、せっかくの完全非課税の効果がちょっと薄れるというわけです。

配当という制度上の歪み

ぼくは高配当銘柄自体は良いものだと思っています。企業の利益の使い道を経営者に一任する無分配企業とは違い、高配当企業は株主にキャッシュを返すという責務を実質的に負っています。これは経営の自由度が下がるともいえますが、逆にいうと好き勝手はできないということです。こうした規律は株主から見て望ましいものです。

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一方で、配当に対する税金は、外国税額控除のように二重課税があったり、配当控除のように税制優遇があったりして、かなりややこしい。つまり、税務のやりようでいろいろ対策ができるというわけです。

 

しかしキャピタルゲインはシンプルで、株主側からはあまり対策のしようがありません。それを完全非課税にしてくれるのが新NISA制度です。というわけで、せっかくの新NISAを使って高配当を得ようというのはちょっともったいない。

 

というわけで、非課税といってもこと配当についてはいろいろな制度がありNISAと併用できないこと、また枠を最大限活用するなら配当や分配金は微妙だということを覚えておくのもいいかと思います。

 

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