シーゲル教授の『株式投資の未来』はたいへん刺激的な本です。中でも、「高配当株を買え!」という説明は、世間一般の常識を止揚したところで議論が展開されます。
配当を出すのは税金的に損
以前、投資で資産を増やすには複利の力を活かすことが重要で、そのためには企業が稼いだ利益を再投資に回す必要があると書きました。ここでは、「配当は悪」という説明をしました。
再投資を前提とすると、もらった配当をさらに投資に回すのは効率が悪くなります。いったん受け取るときに、約20%の税金を引かれてしまうからです。ならば企業は配当を出さず、事業への投資に使ったり、自社株買いをしてもらったほうが、税金分だけリターンが上がるはず。正確には、繰り延べた税金分だけリターンが上がるはずというロジックです。
シーゲル教授も、このロジックは否定していません。実際、無配を貫いているバフェットのバークシャー・ハサウェイについては、これでいいと言っています。ではなぜ、高配当企業を勧めるのでしょうか?
経営陣は株主の利益のために行動するか?
それは、経営陣への不信からです。
経営陣がつねに、あくまで株主の利益のために行動するというなら、配当は重要ではない。だがそうではない大多数の企業では、決定的に重要になる。配当を支払うことで、株主と経営陣の間に信頼関係が築かれ、収益に関する経営陣の発言が裏付けられるからだ。
シーゲル教授は、企業が公開する決算書が、多分に「創造された」もので、必ずしも信頼できるわけではないことを強調します。それを学んだのが大粉飾で有名なエンロンだというのですから、よく分かります。
配当さえ払っていれば、事業は確かに黒字だと目に見える形で証明できます。あいまいな決算書よりも、配当こそが経営陣が確かにしっかり経営していることの証拠だということです。
シーゲル教授はこのことを「ショー・ミー・ザ・マネー! 金をみせろ」という表現で現しています。
自社株買いより配当のほうがいい理由
昨今の企業は、配当だけでなく自社株買いも積極的に行います。どちらも株主還元策ですが、自社株買いは短期的には需給から買い圧力となり、長期的には1株あたり利益を押し上げる効果があります。さらに配当と違い、税金をはらう必要もありません。
しかしシーゲル教授は、自社株買いよりも配当を推します。
経営陣が約束を守るかどうかの点で、自社株買いは配当支払いほど当てにならないことが多い。配当の場合、いったん金額を決めれば、経営陣はこれを引き下げまいとする。減配は会社の発する赤信号と受け止められ、発表と同時に、株価が急落するのがふつうだからだ。
なるほど、特に米国では長期間に渡って増配を続けている企業がたくさんあります。下記は、The DRiP Investing Resource Centerのデータから、50年以上の増配企業を抜き出したものです。
たとえば、3Mは61年増配です。にも関わらず配当利回りが3.3%ということは、配当の増加に従って株価も上がってきたということです。実際の配当がどう変化したかを、Dividend.comのデータから見てみます。
このデータは1993年からですが、しっかりと右肩上がりで配当が増えていることが分かります。
例えば、この会社のCEOの立場になって考えてみます。自分の代で増配記録を止められるか? ということです。企業がしっかりと成長している限り、配当を増やし続けることが投資家の信頼に応えることであり、そこには明確なコミットメントがあるといえます。成長期の企業のように、社長の山っ気のある投資で、投資家へ迷惑をかけることはありません。
ちなみに、配当よりも自社株買いが増えてきた理由として、IT企業に多いストックオプションの影響を、シーゲル教授は挙げています。経営陣含め、ストックオプションをもらっている人たちは、配当は収入になりませんが、株価の上昇は報酬に直結します。そのために自社株買いが増えているというのです。
経営陣含め社員のインセンティブを用意して士気を高めるといいえばそのとおりですが、投資家からすると、自分の給料と投資家への還元と、どっちを重視しているんだ? という話になります。
こんなわけで、バフェットのように投資家と利害が一致している経営者でもない限り、経営陣のコミットメントを引き出し、現金という目に見える形でそれを証明してくれる配当は、強力なものだということです。