経済的に自立(FI)した上で、退職に限定せず好きな仕事で働く(RE)ことがFIREだと思っていますが、今回サラリーマンも退職し、世間的な意味で完全FIREすることにしました。
健康保険と同様に、これまで勤め先が手配してくれていて意識する必要がなかったのが年金です。しかしFIREすると、自分で年金をどうするかデザインすることが可能です。ここまで、公的年金の3つの選択肢のうち、
を検討しました。今回は、最後の第2号被保険者を選ぶ手法の研究です。
会社員や公務員などが加入する第2号被保険者
さて公的年金には3種類あって、無職や自営業の人が入る第1号、家族の扶養に入る第3号、そして、今回の会社員や公務員が加入する第2号があります。
それぞれの特徴をざっくりまとめると、次のようになることを見てきました。この中で、第2号被保険者は、年金額が最も多くなる一方で、保険料も支払わなくてはなりません。さらに法人も必要です。ではどんなメリットがあるのでしょうか。
第2号被保険者=厚生年金=国民年金に上乗せα
まず前提として、第2号になるということは厚生年金に加入するということで、それはつまり国民年金に上乗せの年金(図でいう2F部分)をもらえるようになるということです。
と、そのように書くと、国民年金(毎年20万円収めると死ぬまで80万円もらえる)に上乗せで支払って、上乗せでもらえるように感じますね。でもこれが実は違うのです。いわゆる国民年金である第1号保険者と比較してみましょう。
第1号保険者は月額16,520円、年額198,240円を支払い、65歳以降は死ぬまで795,000円をもらえる年金保険でした。では第2号となる厚生年金も同じ支払い条件で比較してみましょう。
厚生年金は半額を会社側が負担してくれますが、今回検討するのは会社も自身の持ち物なので、全額で比較します。第1号に相当する保険料は、等級1の16,104円ですね。この数字のまま、40年間、60歳まで保険料を支払ったとします。つまり年額193,248円を支払った形です。
このとき、厚生年金としていくらもらえるのかというと、なんと第1号保険者よりも28.42万円多い、107.95万円になるのです。
これは国民年金相当の「老齢基礎年金」に、厚生年金ならではの「報酬比例部分」が加わるためです。つまり、同じ額を払っていても、国民年金(第1号保険者)よりも厚生年金(第2号被保険者)のほうが、もらえる額が多くなるわけです。
具体的にどれだけ多くなるのか
では、具体的にいくら余計に払ったら、いくら年金が増えるのでしょうか。これは下記の計算式で計算します。
先の例でいえば、次のような計算になります*1。合計して26.6万円の「報酬比例部分」になります。
- 8.8万 x 7.125/1000 x 20年 →15.048万円
- 8.8万 x 5.481/1000 x 20年 →11.575872万円
FIRE時においては、(2)の計算式だけが重要です。例えば、50歳でFIREしたとして60歳までの10年間、第1号/第3号被保険者ならば報酬比例部分はゼロですが、第2号の厚生年金ならば、(2)の計算式に従って月々の年金が増えるからです。
別の言い方をすると、厚生年金として支払った保険料のほぼ3%が報酬比例部分として年金に上乗せされます。下記のように、例えば保険料が16,104円円の等級1なら、1ヶ月分の保険料を払うたびに約3%にあたる482円が年間年金額に上乗せされる計算です。
ただし、厚生年金には実は国民年金に相当する老齢基礎年金部分が含まれていることを忘れてはいけません。厚生年金に加入していれば、標準報酬月額によらず、基礎年金部分の193,248円はもらえるのです。そのため、第1号保険者が支払う月額16,520円を控除して、報酬比例部分を計算するのが実態に即しています。
それをグラフにしたのが下記です。標準報酬月額等級1の場合は、実質保険料がマイナスにも関わらず482円、年金額が報酬比例部分として増加します。同様に等級が上がるにつれて効果は落ちますが、例えば14等級(=報酬月額20万円)の場合で、その5%が年金額に上乗せなる計算です。
この5%は何を意味しているでしょうか。支払った保険料の5%が年額に上乗せされるのですから、ざっくり20年年金を受給すれば支払い額の元が取れて、そこから先はプラスとなる計算です。
これが例えば等級6なら11%が上乗せされますし、等級2なら38%が上乗せです。そして等級1なら、保険料はマイナスなのに年金は上乗せされるというわけです。
年金の支払いに対する給付額=リターンを向上させる
まとめると、第2号被保険者になると、年額79.5万円の老齢基礎年金に加えて、報酬比例部分が追加され、もらえる年金が増加します。ところがこの報酬比例部分は、老齢基礎年金に相当する支払い額も含んで計算されるため、特に報酬が小さい場合は年金の支払いに対する給付額=リターンがたいへん大きくなります。
標準報酬月額等級が1なら、国民年金(第1号保険者)よりも支払いが小さいのに、もらえる年金は多いのです。制度のバグといえるでしょう。
それを前提に、下記の表を見てみます。第1号保険者は扶養の概念がないため、家族の分も考えるとたいへん保険料が高くなってしまいます。保険料免除などの制度もあるので、うまく認定されれば支払いがないのに年金は増加するという形になりますが、さまざまな制約があります。
そもそも家族が働いているなら、自身が第3号被保険者になって、つまり家族の扶養に入るというのも選択肢の一つです。ただしその家族の理解と、それから所得制限に気をつける必要があります。
最後に、第2号被保険者を選択すれば、支払い保険料に対してもらえる年金額の比率が高くなります。つまり、投資(支払い)に対するリターン(年金)が大きいということです。ただし自分に給与を支払う法人が必要です。
ぼくの場合
ここまで詳細に検討してきましたが、実際、第1号〜第3号まで明確な有利不利はなくて、次のようなイメージです。
- 年金制度に期待していない:家族全員第1号で免除。所得制限に注意
- お金は払わないがもらえるものはもらう:家族の扶養に入る第3号。ただし働く家族が必要
- 掛け金を増すと年金はマシマシ:マイクロ法人で入る厚生年金。ただし法人が必要
そしてこれらの選択肢は健康保険の選択肢ともリンクします。実際、ぼくの場合は、妻が働いているので、健康保険も年金も妻の扶養に入る(第3号)という選択肢を取ることも可能です。おそらくコスト的にはこれが最適でしょう。
ただ今回は下記の選択肢を取りたいと思います。
- 健康保険:マイクロ法人で協会けんぽ加入
- 公的年金:マイクロ法人で厚生年金加入
理由は3つ。一つはそこそこ公的年金制度には期待していて、減額はあるだろうけどフルで払っておけば、もらえる額も多くなることに期待しているからです。これまでもけっこうな額を厚生年金に費やしてきたのは単なるサンクコストですが、長生き保険としての公的年金の代わりの商品は、現状存在しません。
2つ目は法人からの給与支払い実績を作っておきたいということです。法人を設立すると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が生じますが、これまで加入していなかったのは給与がゼロだからです。明文化されていませんが、給与ゼロの場合は社会保険への加入は不要ということになっています。
なぜ給与支払い実績を作っておきたいか。これにはいくつかの理由がありますが、給与所得控除の活用とか、退職金控除の活用とか、法人から個人への資産移転に伴う課税の削減が一つです。
そして3つ目は、自由度です。健康保険も年金も妻の扶養に入る(第3号)のはコストは安いものの、さまざまな制約がうまれます。所得を厳密にコントロールしなくてはなりませんし、妻も退職できない気分になるというプレッシャーが生まれるかもしれません。
*1:誤差が出るのは誕生日によってぴったり20年ずつにならないから。