FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

Tracersオール・カントリーが諸費用上限引き下げ 実質最安値に?

低コストインデックス投信の代表格「eMAXIS Slim全世界株式」の信託報酬の約半分という低コストで話題となった、日興アセットマネジメントの「Tracersオール・カントリー」がさらにコスト引き下げです。これまで、諸費用の年率上限を0.1%としていましたが、これを0.03%に引き下げます。

投資信託のややこしいコスト

今回の「Tracersオール・カントリー」諸費用上限引き下げのニュースの何が面白いかを読み解くには、投資信託のコストの内訳を理解する必要があります。投資信託に関して投資家が支払うコストは実は大きく4つあると考えられます。

  1. 購入手数料(購入時)
  2. 信託報酬(年率、継続的に)
  3. 諸費用や売買手数料、保管料など(継続的に)
  4. 換金手数料・信託財産留保額(解約時)

(1)の購入手数料は購入時のみです。これが1%なら、100万円の投信を買うと1万円の費用が引かれ、実際に運用されるのは99万円になります。以前は購入手数料があるのが普通でしたが、昨今はどんどん廃止されゼロなのが普通です。ゼロの投信のことを「ノーロード」とも言います。

 

先に(4)ですが、これは投信を売却するときにかかるコストです。換金手数料はその名の通りですが、信託財産留保額はちょっとむずかしい。手数料は販売会社(証券会社とか銀行とか)が受け取りますが、信託財産留保額は投資信託の財産に組み入れられます。例えば、総資産1億円の投信で1000万円の解約があったときに、信託財産留保額が1%なら10万円は投信に残り、1億ー1000万円+10万円=9010万円の総資産となります。これは換金する投資家と継続保有する投資家のコスト面の公平性のために取るものだとされています。ただし、こちらの信託財産留保額も多くの投信でなくなっています。

 

そして問題の(2)と(3)です。この2つを合わせて「総コスト」(総経費率、トータルコスト、Total Expense Ratio)と呼ばれます。100万円分の投信を買うと、この総コストが年率計算されて毎日差し引かれます。例えば総コストが1%の投信を365万円買うと、年間で3.65万円、1日あたり100円が差し引かれる形です。実際にはコストが引かれるというよりも、引かれたあとの数字が基準価格として公表されます。

ETFのコストを深堀り!TER(総経費率)とは?【深堀りETF⑯】 | NEXT FUNDS

では(2)と(3)の中身を見ていきましょう。

総コストの中身

総コストのうち、多くを占めるのが信託報酬とその他費用です。これは合計してExpense Ratioと呼ばれ、米国のETFなどでは開示されているのが普通です。例えば、バンガードのVTのExpense Ratioは0.07%、BlackRockのIVVのExpense Ratioは0.03%です。ただし、Expense Ratioには次のコストは含まれません。

  1. トランザクション費用(Transaction Costs): ETFが株式や債券などの資産を売買するときのブローカー手数料などの費用。これらはETFのNAV(純資産価値)に反映され、Expense Ratioには含まれません。
  2. 売買スプレッド(Bid-Ask Spread): ETFの売買価格の差。これは市場での取引によって生じるコストであり、Expense Ratioには含まれません。
  3. 売却時のキャピタルゲイン税(Capital Gains Tax): 投資家がETFを売却した際の利益に対して課される税金。これもExpense Ratioには含まれません。

ところが、国内の投信では総コストのうち「信託報酬」がクローズアップされ、総コストについてはあまり注目されていませんでした。投資信託の目論見書にも信託報酬については必ず記載がありますが、総コストがどれくらいになるかは運用が進み年間報告書が出るまで分からなかったのです。

 

問題は、信託報酬が下がるに従い、これまで誤差くらいにしか見られていなかった諸費用/その他費用の比率が大きくなってきたことです。そのため低コスト投信を選ぶ際に、信託報酬だけでなく諸費用なども含めた総コストが注目されるようになったというわけです。

 

そんな中、Tracersオール・カントリーの登場は物議を醸しました。というのも、信託報酬が競合のeMAXIS Slimオルカンの約半分である一方、指数の標章使用料(ライセンス・フィー)が諸費用として、信託報酬に入っていなかったです。一方のeMAXIS Slimはライセンス・フィーを信託報酬から出しています。

そのため、「Tracersは一見、信託報酬が安く見えるが、実はその他の費用・手数料が高いのではないか?」という見方が広がり、投資家は不安を抱えていました。その他費用は上限0.1%としており、もしも上限だった場合は、合計0.15775%とオルカンを大きく上回ることになるからです。

 

そんな不安もあってか4月26日の設定開始から約3ヶ月、純資産総額は13.67億円とまだ低調。対するeMAXIS Slimオルカンは1兆2511億円と巨額。月間の新規購入額も738億円あまりに達しています。

 

そんな中、今回諸費用の上限を0.3%とすることで、投資家の不安の払拭を目指したというわけです。下記はeMAXIS Slimオルカンの運用報告書から抜き出したコスト内訳ですが、まさにその他費用の部分は、ライセンス・フィーを含めてもオルカンと同レベル以下にするという宣言だといえるでしょう。

eMAXIS SlimオルカンとTracersオール・カントリーのコスト比較

では具体的にコストがどうなのかを見てみます。下記は、総コストにあたる

  1. 信託報酬
  2. その他費用
  3. 売買コストなど
  4. 有価証券取引税

を積み上げたものです。eMAXIS Slimオルカンは実績、Tracersオール・カントリーはその他費用が上限、売買コスト、有価証券取引税は想定としてオルカンと同額を置きました。VTはExpense Ratioが公表値です。

この中でライセンスフィーは、オルカンは信託報酬内に、Tracersはその他費用に含まれています。しかし両者のその他費用が同額レベルならば、当然総額ではTracersオールカントリーのほうが低コストだということになります。

「ライセンスフィーが含まれないから、年間の報告書を見ないと実際のコストは分からない」という不安を、その他費用の上限値を0.1%から0.03%に引き下げることで払拭を狙うTracersオール・カントリー。つみたてNISAでも主戦場となりそうな、インデックス投信を巡って、コスト競争が加熱してきました。

 

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